解説者のプロフィール

小林龍司(こばやし・りゅうじ)
コバヤシ接骨院・鍼灸院院長。柔道整復師、鍼灸師。自身が逆流性食道炎や頭痛といった症状から解放されるため、独自の施術法とセルフケアを修行時代に研究開発。なかでも逆流性食道炎に関しては、全国から問い合わせがあるほど。現在は鍼灸整骨院での施術の傍ら、YouTubeで逆流性食道炎を中心とした症状のセルフケア動画を精力的に配信している。
食道の締まりがよくなり逆流を防ぐ
私自身、思い返せば食後の胸やけや、胃から何かがこみ上げてくるような不快感が、10年近く前からありました。
それが逆流性食道炎が原因だとわかったのは、8年ほど前です。胃の内視鏡検査を受けて、初めてわかったのです。
その後、病院で処方される薬を飲み続けましたが、効果がありませんでした。これでは一生、症状がついて回ると思い、自分で治す方法を探しました。
そしてたどり着いたのが、「腹式呼吸」でした。
私たちが呼吸をするときは、ご存じのように肺で酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出します。このときに肺を動かしているのは、肺周辺の筋肉です。
腹式呼吸では、主に伸縮性の高い横隔膜を使います。横隔膜とは、肺の下にあるドーム型の筋肉の膜です。位置的には、みぞおちとへその間です。
この横隔膜を鍛えることによって、逆流性食道炎の症状を改善することができるのです。
食道は、のどから胃の入り口までをつなぐ管です。管の下部は横隔膜の真下にあり、そのすぐ下は食道と胃の境界線である噴門です。横隔膜には食道裂孔といって、食道が通る穴のようなすきまがあり、そこで食道の下部を支えています。

噴門には括約筋という収縮する筋肉があり、食べた物が通るときには緩んで、通り過ぎたら締まって胃の中の物や胃酸の逆流を防ぎます。食道裂孔もまた、逆流してこないように食道を締めています。
ところがなんらかの原因で括約筋が緩んでくると、逆流が起こりやすくなるのです。逆にいえば、噴門の括約筋の収縮をよくすれば逆流は起こりにくくなります。
それにはどうすればよいのかと考えて思いついたのが、横隔膜を鍛えることでした。噴門の括約筋を直接鍛えることはできなくても、横隔膜は呼吸で動かせるので鍛えることができます。それに最も適しているのが、横隔膜を動かして呼吸する腹式呼吸なのです。
夜に行うとリラックス効果でよく眠れる
実際に私が、腹式呼吸の深呼吸を毎日10回以上続けたところ、1ヵ月ほどで胸やけがなくなったことを実感できました。そして、その後さらに1ヵ月ほどで、それまであった逆流性食道炎の症状がすべてなくなったのです。
その後は、胃の症状で悩む人には、この腹式呼吸の深呼吸を勧めています。
当院の患者さんは、当初は体の痛みを訴えて来られますが、胃の不調で悩んでいる人が少なくありません。私自身の経験と長い施術経験から、胃に問題がある人は、首の横がとてもかたくなっていたり、背中が慢性的に張っていたりすることが多いとわかってきました。
そのような人に「胃の調子は悪くありませんか?」と尋ねると、たいがい「あります」という答えが返ってきます。肩こりや腰痛も、胃の症状と関連している場合が少なくありません。そこで腹式呼吸を勧めると、実践した人の多くが改善します。
そのほかにも、肩こりや慢性頭痛の改善、精神的に落ち込むことが少なくなったといった報告もあります。なかには、血糖値や血圧が降下したという人もいます。
下項で腹式呼吸のやり方を紹介しているので、逆流性食道炎の症状でお悩みのかたは実践してください。最初はうまくできなくても続けていくうちにできるようになります。すぐに楽にはならなくても、最低でも3ヵ月は続けてみましょう。
朝の空腹時に行うと胃腸の調子を整える効果が高まりますし、夜の睡眠前に行うとリラックス効果で眠りやすくなります。
ストレスも逆流性食道炎の原因の一つであることが知られてます。また、早食いや、スマホやパソコンを見ながらの「ながら食べ」、就寝前など夜遅くに食べるのも逆流性食道炎の原因になります。
さらに、現代人はデスクワークなどで前のめりになっていることが多く、そのため横隔膜を使わない胸式呼吸で呼吸をしていることがほとんどです。
横隔膜を動かす腹式呼吸は、意識しないとできません。薬で逆流性食道炎の症状が改善しなかったという人は一度、腹式呼吸を試してみてはいかがでしょうか。
腹式呼吸のやり方

●5秒かけて鼻から息を吸って、5秒かけて口から吐く。このとき、おなかに手を当てて、息を吸っておなかが膨らむことを意識する。
※1日10回、できるだけ空腹時に行う。それ以上行ってもOK。
※1日に何回も行うより、毎日継続することが重要。
※初めは座ってやるのがお勧め。

この記事は『逆流性食道炎 自力でスッキリ治す!』に掲載されています。
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