解説者のプロフィール

春日井邦夫(かすがい・くにお)
愛知医科大学内科学講座(消化管内科)教授。愛知医科大学病院副院長、消化管内科・内視鏡センター部長。1985年、名古屋市立大学医学部医学科卒業後、同大学やミシガン大学などで研究。近年は後進の育成に励むとともに、メディアにも出演し、消化管に関する最新情報を解説している。
逆流性食道炎が増えた主な原因は3つ
「逆流性食道炎」は、胃酸や胃の内容物が逆流し、食道の粘膜を傷つけてしまう病気です。健康な人でも胃酸が逆流することがありますが、その時間が短いのであれば、大きな問題はありません。例えば、食後にゲップを1〜2回するくらいなら、食道に影響はないのです。
ところが、ゲップが過剰に出るようになったり、濃い胃酸が逆流したりするようになると、食道がただれてしまいます。その状態が進行すれば、食道に潰瘍やびらんが生じることになります。
この病気は、昔はめったに見られませんでした。私自身、医師として働き始めたころは、この病気にかかった人を診察した記憶はほとんどありません。
しかし、最近では、逆流性食道炎の患者さんが非常に増えています。かつては、逆流性食道炎のかたは100人中、1人か2人程度でした。ところが、今では、10~20人もの人が逆流性食道炎に悩んでいるというデータがあります。私自身も、以前とは打って変わって、逆流性食道炎の患者さんを毎日のように診ています。
このように逆流性食道炎が増えてきた主な原因としては、三つが考えられます。
❶食生活の欧米化
❷高齢化
❸ピロリ菌の減少
第一に、食生活の欧米化が進んだことです。
欧米由来の高脂肪の食事が、逆流性食道炎を引き起こす有力な要因となっています。この食生活の変化が、日本において、逆流性食道炎の患者さんを増大させているといってよいでしょう。
また、欧米化した食事により、太る人も増えました。肥満によっておなかが出てくると、腹圧が上がります。腹圧が高くなると、胃酸の逆流が起こりやすくなるのです。
第二に、高齢化も、その要因の一つです。
食道から胃に通じるところに、下部食道括約筋という筋肉があります(下図参照)。この筋肉は、食道を下ってきた食べ物を胃へ通しますが、胃酸などが食道に逆流しないように弁の働きをしているのです。

年をとってくると、この筋肉が緩んで、弁の働きが不十分になり、胃酸が逆流しやすくなります。加えて高齢になると、どうしても姿勢が悪くなります。姿勢が悪くなり、前かがみの状態が続くと、肥満と同様に腹圧が高まるのです。
第三に、ピロリ菌の除菌が進んだ影響もあるでしょう。
かつては、日本人の8~9割がピロリ菌に感染していました。ピロリ菌がいると、胃炎が起こり、胃の元気がなくなります。このため、胃酸の分泌が抑制されていたのです。
ところが、近年、ピロリ菌の除菌が進められました。その結果、多くのかたの胃の中からピロリ菌が消えました。すると、胃は元気になり、胃酸をたくさん分泌するようになります。そのたくさんの胃酸が逆流し、逆流性食道炎に悩む人が出てきたとも考えられるのです。
生活を変えることで予防や改善が可能
このように逆流性食道炎とは、文字通りの「現代病」であり、かつ、ふだんの生活習慣や食事などが影響を及ぼしている点から、「生活習慣病」でもあるのです。
では、逆流性食道炎になると、どんな症状が出てくるのでしょうか。主に以下の五つがあります。
❶胸やけ・呑酸
❷のどの違和感
❸セキ
❹胸の痛み
❺胃もたれ
代表的なのが、みぞおちの辺りが熱くなり不快な感じがする胸やけ、酸っぱい物が胃から上がってくる感じ、ゲップがよく出るといった症状です。
のどの違和感を感じる人もいます。逆流した胃酸によって、のどが炎症を起こし、痛みや違和感を感じます。声がかすれることもあります。
逆流した胃酸に刺激を受けて、からセキが止まらなくなったり、気管支炎やぜんそくを引き起こしたりする人もいます。
胸の痛みを訴える人もいます。心臓を調べてもなんともないのに、この病気の影響で、胸を締めつけられるような痛みが起こることがあるのです。
胃もたれや、おなかの張りもよく見られる症状です。
日ごろから、胸やけなどを感じているかたは、次のチェックシートで、ぜひチェックしてみてください。
逆流性食道炎チェックシート
以下の1から14の症状に、思い当たる点数をつけて合計しましょう。
ない=0、まれに=1、ときどき=2、しばしば=3、いつも=4
症状 | 点数 | |
1 | 胸やけがしますか? | |
2 | 思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか? | |
3 | 食事をしたあとに胸やけが起こりますか? | |
4 | 物を飲み込むと、つかえることがありますか? | |
5 | 苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか? | |
6 | 前かがみをすると胸やけがしますか? | |
7 | のどの違和感がありますか? | |
8 | おなかが張ることがありますか? | |
9 | 食事をしたあとに胃が重苦しいことがありますか? | |
10 | 食事をしたあとに気持ちが悪くなることがありますか? | |
11 | 食事の途中で満腹になってしまいますか? | |
12 | ゲップがよく出ますか? | |
13 | 食事をしたあとにみぞおちが痛みますか? | |
14 | 空腹時にみぞおちが痛みますか? | |
合計点数 | ||
総合計点数が8点以上なら逆流性食道炎の疑いあり。医師に診てもらうのがお勧め。 |
Kusano M.et al.:J Gastroenterol.Hepatol.,27(7).1187-1191(2012)一部改編[PRT-1021]
草野元康ら:消化器の臨床,15(4).465-473(2012)一部改編[PRT-960]
軽い胸やけやゲップなどは、少し食べ過ぎたときにも起こるため、病院を受診するほどではないと思いがちです。
しかし、逆流性食道炎を放っておくと、食事がつらくなります。すると、QOL(生活の質)が下がり、認知症やフレイル(心身の虚弱状態)といった、日常生活に支障を来す要因になることがわかっています。そうならないためにも、早めに対策を講じたほうがよいのです。
しかも、逆流性食道炎のひどい炎症を長い間放置すれば、食道がんの原因にもなります。さらに高齢者の場合、逆流した胃酸を誤嚥すると、誤嚥性肺炎になるリスクもあります。
お年寄りは、逆流性食道炎になっていても、自覚症状がないことがあります。食べ物がつかえるというので、調べてみたら、逆流性食道炎でひどく食道が荒れていたとか、症状が進行し、食道の狭窄が起こっていたというケースもあります。高齢のかたには、ぜひ用心していただきたいのです。
逆流性食道炎が疑われるときは、少なくとも一度は内科や消化器内科を受診し、調べてもらってください。
逆流性食道炎は、良性の病気です。治療法がはっきりわかっており、いい治療薬ができています。ですから、怪しいと思ったら、早めの受診をお勧めしたいのです。
また、逆流性食道炎の原因は、生活習慣とも大きくかかわっているので、生活を変えることで、予防や改善をすることが可能です。

この記事は『逆流性食道炎 自力でスッキリ治す!』に掲載されています。
www.makino-g.jp