構造医学の骨格体操の一つが、骨盤を整える「足首パタパタ」です。この体操は、歩く動作から生み出された体操で、二足歩行をできる限り再現したものです。とても簡単な体操で、腰やひざの痛みをはじめ、肩こりや頭痛といった不調の解消が期待できます。【解説】菅沼加奈子(菅沼病院副院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

菅沼加奈子(すがぬま・かなこ)

菅沼病院副院長。2002年、新潟大学医学部医学科卒業。04年より川崎市立川崎病院勤務。05年、認定内科医取得。08年、総合内科専門医取得。14年より菅沼病院内科・リハビリテーション科勤務、18年、同病院副院長。16年、歩クリニック開院。骨格のたいせつさを伝える講演会を全国で行っている。著書に『腰痛、ひざ痛が自分で治せる足首パタパタ』(主婦の友社)がある。
▼菅沼病院(公式サイト)

骨盤の左右バランスがくずれると全身に悪影響

私は幼少のころより、原因不明の頭痛や腰痛などに悩んでいました。そんななか、人間の体を物理生物学的に解析する「構造医学」と出合いました。そして、骨格を整えるようにしたところ、こうした不調が薬なしですっかり改善したのです。

それからは構造医学を学び、治療に取り入れるようになりました。今は内科診療のほか、患者さんの腰やひざ、股関節、肩などの痛みを取るリハビリテーションも行っています。

かつての私のように、病院をはしごして検査をくり返しても、異常や原因がわからず、治療できずに、腰やひざの痛みに悩まされている人は多いのではないでしょうか。

こうした原因不明の腰やひざの痛みは、骨格の上下、左右、前後のバランスが悪く、ゆがんでいることも多いものです。

私たち人間は、頭上から重力という圧力がかかった状態で生活しています。骨格のバランスが悪く、重力や体重が片側に偏ってかかる(骨格がゆがむ)と、骨や関節に負担がかかり、痛みの原因となります。

なぜなら、骨についている筋肉も、本来の位置からずれて、筋肉や筋膜が過度に緊張し、炎症が起こるからです。

また、骨格に付随した神経や血管も、本来の位置からずれて、神経が圧迫されたり引っ張られたり、血流が滞ったりして、痛みが出やすくなるのです。

なかでも、骨格のゆがみの大本となるのが骨盤です。骨盤は、全身の骨格をバランスよく動かすために最も重要な部位。骨盤は、中央にある仙骨とその左右にある寛骨で構成されています(下の図参照)。三つの骨が120度の同じ角度でくっついているのが正常な状態です。

しかし、仙腸関節(仙骨と寛骨のつなぎめ)の隙間が左右どちらかに大きく偏ると、骨盤の左右のバランスがくずれるのです。

画像: 骨盤の左右バランスがくずれると全身に悪影響

骨盤が左右バランスよく、きちんと動くと、股関節や、さらに太ももの骨を介して股関節とつながるひざ関節もしっかりと動き、スムーズに歩けます。しかし、骨盤が左か右に傾いてしまうと、体のさまざまな部分に、左右差が生じてしまうのです。

原因不明の腰痛やひざ痛に悩む多くの人は、骨盤が左右いずれかに傾いていることが多いものです。重力や体重が過剰にかかった骨盤周辺の筋肉は緊張して炎症を起こしやすくなり、腰に痛みが出ます。

骨盤の左右のバランスが悪いと、股関節や、太ももの骨を介して股関節とつながるひざ関節にも負荷がかかって、滑らかに動けなくなり、ひざにも痛みが出やすくなります。

さらに、背骨にも影響が出ます。骨盤がゆがむと、背骨も左右にカーブしてゆがむのです(側弯症)。また、背骨は人間特有のS字カーブを描くことがとてもたいせつ。そのためにも、正しい姿勢を保つことが重要です。

誤解されがちですが、胸を張ることが正しい姿勢ではありません。背骨の腰の部分を前に出すのが正解です。骨盤を後ろに寝かせずに立てるよう意識するということです。そのためにも、やはり骨盤の左右バランスが均等であることが大事です。

二足歩行を再現した骨格体操

私は腰痛やひざ痛などの体の痛みを抱えている人に、まず歩くことを勧めています。歩くだけで、治りが格段に早まるからです。

人間は二足で歩いて進化してきた動物なので、歩くことで骨格が整い、体をきれいに動かせるようになります。また、歩かないでいると、足腰がどんどん衰えてしまいます。これは日々、患者さんを診ていて実感していることです。

家にこもりがちな生活は、骨格のゆがみや関節痛の大きな原因になるのです。しかし、歩くことになかなか気の進まない人が多いのも事実。また、新型コロナウイルスの影響で、外出しづらいという人もいるでしょう。

そこで紹介したいのが、構造医学の骨格体操の一つ、骨盤を整える「足首パタパタ」です。この体操は、歩く動作から生み出された体操で、二足歩行をできる限り再現したものです。

足首パタパタは、とても簡単な体操で、腰やひざの痛みをはじめ、肩こりや頭痛といった不調の解消が期待できます。これまで多くの患者さんに指導したところ、さまざまな症状が緩和され、とても喜ばれています。

私自身も、毎日朝晩や移動中に足首パタパタをしていて、体が動かしやすくなり、楽になるのを実感しています。

起床時と就寝前に行うのがおすすめ

「足首パタパタ」は、あおむけになって、左右の足首を手前と奥交互に曲げ伸ばしするだけの簡単な体操です。腰やひざ、頭の痛み、肩こりなどの解消が期待できます。詳しいやり方は下項をご覧ください。

足首パタパタのしくみについて、説明しましょう。骨盤のゆがみは、中央の仙骨と、その左右にある寛骨との隙間(仙腸関節)が、左右いずれかに大きく広がり、バランスが悪くなるのが原因です。

足首を手前に曲げる動作では、ふくらはぎと太もも裏の筋肉が伸びて、寛骨が後ろに回旋し、骨盤の仙腸関節が締まります。また、足首を奥へ伸ばす動作は、ふくらはぎと太もも裏の筋肉が縮み、寛骨が前に回旋し、骨盤の仙腸関節が緩みます。

この仙腸関節を締めたり緩めたりすることをくり返すことで、骨盤の左右のバランスが整い、本来の正常な位置に戻ります。さらに、股関節や、ひざ関節がよく動くようになり、位置のズレもなくなっていきます。

こうすることで、骨や関節に付随する筋肉や神経、血管などの位置のズレもなくなり、腰やひざ、股関節の痛みが消えていくのです。骨盤のゆがみを正すだけで、痛みがすぐに消える人も少なくありません。

背骨の前後のS字カーブを整えるのにも有効です。頭痛や肩こり、背中などの痛みの解消にも役立つのです。

足首パタパタは、特に起床時と就眠前に行うのがお勧めです。朝は、こり固まった体をほぐし、痛みを出にくくするほか、転倒防止や階段の上り下りなどの動作が楽になります。夜に行うと、1日の骨格のゆがみを取ってから就眠でき、翌朝はまた体を動かしやすくなります。

足首パタパタは、特にふだんあまり歩かない人にお勧めです。スポーツのケガを予防したい人も行うといいでしょう。

ただし、足首を痛めている人や、血栓の治療中の人は、控えてください。また、途中で痛みが出る人は中止してください

また、骨盤がゆがんでいると、ひざに負担がかかります。ひざ周りを整えて、骨格全体をリセットできる「トイレ体操」も、ぜひ併せてお試しください(やり方は下項参照)。トイレに立つたびにおこなってほしいという意味で「トイレ体操」と言っています。好きなときに何回行ってもかまいません。

足首パタパタのやり方

あおむけになって、両手を骨盤の左右に置く。
3秒かけて、左の足首を大きくゆっくりひざ側に反らすとともに、右の足首を反対側に伸ばす。

画像: 骨盤の上に置いた手は動かさない。

骨盤の上に置いた手は動かさない。

3秒かけて、右の足首を大きくゆっくりひざ側に反らすとともに、左の足首を反対側に伸ばす。
5分間、②と③を交互にくり返す。

画像: 骨盤が足首と連動して動くのを感じ取る。

骨盤が足首と連動して動くのを感じ取る。

画像: ひざを曲げないように。

ひざを曲げないように。

※慣れないうちは行うのは1分でもよい。慣れたらだんだん回数を増やしていき、疲れなければ10分行ってもよい。
※②と③は逆の順序で行ってもよい。
※①〜④を1セットとし、1日3セットが目安。何セット行ってもよい。
※座りながら行ってもよい。

トイレ体操のやり方

肩幅に足を開き、前かがみになる。両手をひざにやさしく当てて、腰をなるべく反らす。ひじは伸ばしてあごをひく。

画像1: 足首パタパタのやり方

視線を前にして、口から息を吐きながら、できるところまでひざをゆっくり曲げていく。このとき、かかとはつけたままにして、ひじは曲げない。

画像2: 足首パタパタのやり方

ひざを曲げきったら、ゆっくり元の位置まで戻る。そのあと、鼻から息を吸う。
②と③を5~10回くり返す。

画像3: 足首パタパタのやり方
画像4: 足首パタパタのやり方

※好きなときに何回行ってもよい。トイレに行くたびに行うとよい。

画像: この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。

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