関節炎は加齢が発病の引き金になることも多く、全身のどの関節でも発生します。この痛みについては、温熱療法が効果的です。継続すれば変形部分の炎症物質を除去し、椎体間の間隔を広げて神経への圧迫を軽減する効果が徐々に現れます。【解説】入江健二(米国・ロスアンゼルス 元リトル東京入江診療所所長・医師)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

入江健二(いりえ・けんじ)

1940年、東京世田谷生まれ。66年、東京大学医学部卒業。卒業時から「青年医師連合」運動にかかわる。71年渡米し、UCLAでがん研究5年。81年、ロスアンゼルス・リトル東京で開業。73年からは、リトル東京の草の根団体「日系福祉権擁護会」の中に主に日系一世・二世を対象とする「健康相談室」を開設、現在に至る。著書に『70歳からの健康法』(論創社刊)など。

熱めのお湯で痛いところを強めにもむ

私は1966年に医学部を卒業後、東大病院、国立がんセンターなどに勤務していましたが、31歳のときに渡米。カリフォルニア大学ロスアンゼルス校でがん免疫研究に取り組みました。

1981年、当地で医院を個人開業し、昨年4月に難聴のため閉院するまで、38年間診察を続けてきました。80歳になる現在も、ロスアンゼルスで医療活動を続けています。

さて、私の患者さんには高齢のかたが多くおられます。そのため、加齢によって起こる体の不調についての相談が多いのですが、特によく相談される病気の一つに、「関節炎」があります。関節炎は加齢が発病の引き金になることも多く、全身のどの関節でも発生します。

この痛みについては、温熱療法が効果的です。そこで今回は、関節炎に効果があると思われる「温め」セルフケアについて、私自身の経験をもとに、ご紹介したいと思います。

まずは指の関節炎です。症状は、痛みのほか、はれ、起床時のこわばり、など。ズキンズキンと脈打つように痛むこともあります。お勧めしたいのが、起床時、熱めの湯で指の関節を「もみしだく」ことです。

毎朝顔を洗うとき、やけどをしない程度に熱い湯を使いましょう。そして、その湯の中で、ふくらんだ指の関節をギュウギュウと押すのです。マッサージというよりも、もっと強めにもんでください。時間は1~2分でけっこうです。 

実は私も、左手指に慢性の変形性関節炎がありました。特に中指の末節は、水がたまるくらい炎症がひどかったのですが、しつこく続けた結果、痛みは消え、はれもほぼ引きました。

これは、局所の血液循環が刺激され、炎症を起こす物質や細胞がだんだんと取り除かれたため、と考えられます。炎症そのものを除去するわけですから、これは決して単なる対症療法ではないのです。

画像: 熱い湯の中でギュウギュウ押す。

熱い湯の中でギュウギュウ押す。

寝違いや肩こりにも効果的

つぎに、腰の関節炎について、お話ししましょう。

年をとるとともに、腰椎(腰の部分の背骨)の慢性変形性関節炎を発症する人が多くなります。この腰痛に著効があると私が考えるのは、「熱い風呂に全身を浸すこと」です。時間は、就寝前の5分間。汗が出る程度の、熱い風呂の中での5分間は意外に長く感じるはずです。

しかし、痛みはグッと軽くなります。痛みがひどければ朝も入ってください。痛みの軽減効果は永続しませんが、継続すれば変形部分の炎症物質を除去し、椎体間の間隔を広げて神経への圧迫を軽減する効果が徐々に現れます。それにより、痛みのレベルが下がっていきます。

私は、45歳から始めた剣道を趣味にしていますが、76歳のとき、稽古中に椎間板ヘルニアを起こしました。この椎間板ヘルニアに特有の「灼熱痛」と称される強烈な痛みを軽減するうえでも、熱い風呂は大変役に立ちました。

いわゆるギックリ腰も、これまでに何度か経験しましたが、熱い風呂による効果は体験的に証言できます。

そのほか、体各所の関節炎・腱鞘炎・筋肉炎・滑液包炎などにも温熱療法は効果的です。これらの病気に悩む診療室を訪れるかたがたには、私は必ず「HME」 をお勧めしました。

Hは温めること(Heating)、Mはマッサージ(Massage)、Eは局所周辺を軽く動かすこと(Exercise)。特に、温めることで血液の循環を促し、痛みの原因(炎症物質)を除去することの重要さを説明していました。

また、寝違いによる首すじの痛みやいわゆる「肩こり」にも、温熱療法は著効があります。

温熱療法以外でいえば、「トリガーポイント(Trigger point)療法」も勧められます。

これは、関節炎で特に痛むポイントを、親指か人差し指で、朝夕しっかりと30秒間ずつ押さえつけるだけ。30秒間、痛いのを我慢すると、体が血液の循環をその部分に集中させて、炎症物質を早く取り除く、と考えられています。

さて、閉院はしたものの、私は今も地元の看護ホームなどへの訪問診療を続けています。

ニュースなどでご存じのかたもおいでかもしれませんが、ロスアンゼルスの看護ホームでは、新型コロナウイルス患者が多発しています。そこで、宇宙飛行士ほどではありませんが、それに準ずるような装備で回診しています。

ホーム入居者は、家族の訪問も厳しく禁止されており、孤独です。私が行くと、受け持ちの患者さんでないかたにも喜ばれます。そのため、多少の危険を覚悟のうえで回診を続けることは、医師としての務めと思い、頑張っているところです。

コロナ禍トンネルの先になかなか灯りが見えてきませんが、読者の皆さん、お互いに「負けてたまるか」と唱えつつ、頑張りましょう!

画像: この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。

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