病気を抱えていたり、高齢になったりして、体を動かすのが困難な人もいるでしょう。そんな人でも熱をつくる方法があります。呼吸のやり方を少し変えることで、体を簡単に温めることができるのです。私が提唱しているのは、息を止めたあと、ゆっくり息を吐くという「息止め深呼吸」です【解説】今津嘉宏(芝大門いまづクリニック院長)

解説者のプロフィール

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今津嘉宏(いまづ・よしひろ)

芝大門いまづクリニック院長。藤田保健衛生大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部助手、慶應大学医学部漢方医学センター助教、麻布ミューズクリニック院長などを経て、2013年、東京都港区に芝大門いまづクリニックを開院。著書に『長生き朝ごはん‐病気知らずの名医が食べている‐』『病気が逃げ出す上体温のすすめ』(いずれもワニブックス)など多数。
▼芝大門いまづクリニック(公式サイト)

筋肉を動かして熱をつくり出す

私はこれまで、外科医として多くのがん患者さんの治療を行ってきました。私たち外科医は、患者さんの体の状態を診るために、毎日必ず触診をします。そうした経験から私が気づいたのは、「病気の状態が悪い人ほど、体の冷えが強い」ということでした。

特に、腹部が冷えていると、腸の動きが低下し、栄養の吸収が悪くなったり、免疫が落ちたりして、体調をくずす傾向があります。

そこで、私が患者さんに勧めているのが、体を温めることです。もちろん、室温を上げたり、厚着したりして、体の外側から温めることも大事です。

ただし、体を芯から温めるには、体の中で熱をつくり、体の内側から温めることが重要となります。それが、真の健康につながるのです。

人間の体には、二つの発熱装置が備わっています。

一つは筋肉です。筋肉を動かすことで熱エネルギーが産生され、体温が上がります。上がり過ぎると発汗し、気化熱で体温が下がり、一定に保たれます。

もう一つは褐色脂肪細胞です。脂肪細胞には、脂肪をため込む白色脂肪細胞と、脂肪を分解して熱エネルギーを産生する褐色脂肪細胞があります。

褐色脂肪細胞は、寒いところでも体温が下がらないように、脂肪を燃やして体を温めてくれます。この細胞は子供に多く、成長とともに減少します。子供が冬でも薄着で平気なのは、褐色脂肪細胞のおかげでしょう。逆に、褐色脂肪細胞が少ない大人は体が冷えやすくなります。

つまり、大人は褐色脂肪細胞に頼れないので、筋肉を動かして熱をつくり出す必要があります。定期的に運動を行い、筋力を保つことが、冷え対策につながるのです。

しかし、病気を抱えていたり、高齢になったりして、体を動かすのが困難な人もいるでしょう。そんな人でも熱をつくる方法があります。それは私が考案・実践し、患者さん全員に勧めている呼吸法です。

筋肉には、自分の意志で動かせる随意筋と、意志とは無関係に動く不随意筋があります。手足の筋肉は随意筋、心臓や腸などの内臓の筋肉は不随意筋です。

しかし、内臓の筋肉でも呼吸に関係する筋肉は、不随意筋と随意筋の両方の機能を持ちます。ふだんは意志とは無関係に動いていますが、意識して動かすこともできます。呼吸のやり方を少し変えることで、体を簡単に温めることができるのです。

私が提唱しているのは、ゆっくり鼻から息を吸い、2〜3秒息を止めたあと、ゆっくり息を吐くという、「息止め深呼吸」です(やり方は下項参照)。

この呼吸法を行うと、体が温かくなり、体温が上がります。行っている最中に汗をかくという人もいます。

鼻からゆっくり息を吸うのが大事

息止め深呼吸で大切なのは、ゆっくり呼吸をすることと、鼻から息を吸うことです。

ゆっくり息を吸い、ゆっくり吐くと、胸腔と腹腔を区切る横隔膜が上下にしっかり動きます。横隔膜は体幹にある大きな筋肉で、これを動かすことで熱が発生するのです。

つまり、ゆっくりした呼吸を行うだけで、体が温まることになります。仮に1分間に8回呼吸すれば、8回横隔膜が上下に大きく動き、そのたびに熱が産生されます。

ゆっくりした呼吸は、自律神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスも整えてくれます。休息時に優位になる副交感神経の働きが高まり、心身ともにリラックスした状態になります。

すると、体じゅうの筋肉が和らぎ、末梢の血流がよくなります。温かい血液が、手足の先端まで届くので、やはり体は温まります。

逆に、ハッハッハッという速くて浅い呼吸は、体を冷やす傾向があります。

呼吸法を重視する、ヨガ、気功、瞑想から、合気道、柔道、空手などの武道まで、いずれも基本はゆっくりした呼吸です。

息止め深呼吸は、鼻から息を吸います。なぜ鼻から吸うのかといえば、呼吸器の機能を守るためです。

呼吸器の気道から気管支の内側は、線毛に覆われています。線毛は、外から侵入したばい菌などの異物を捕らえて排除してくれます。しかし、乾燥と冷気に弱い線毛は、口から乾いた冷気が入るとボロボロになり、その機能が低下します。

一方、鼻から空気を吸い込むと、乾いた空気は鼻の奥にある副鼻腔で加湿されます。外気がいかに乾いていても、肺に入る段階では湿度が100%になります。つまり、線毛を傷めることなく、肺の浄化機能を守れるのです。

また、息をしっかり吸ったあとで息を止めると、肺が広がった状態を維持できます。それによって、肺の機能を強化することができます。

吐くときは鼻からでも口からでもかまいません。

息止め深呼吸は、3回を1セットとして行います。最初は普通にゆっくり深呼吸を行い、2回めは1回めよりゆっくり、3回めはもっと長い時間をかけてゆっくりと呼吸します。これをくり返しているうちに、深い腹式呼吸が自然にできるようになります。

息止め深呼吸のやり方

ゆっくり
ゆっくり鼻から息を吸って(写真Ⓐ)、ゆっくり吐き出す(写真Ⓒ)。
※息を吐き出すのは、鼻と口どちらからでもよい(①と③も同じ)

よりゆっくり
①よりもゆっくり吸う。2~3秒ほど息を止める(写真Ⓑ)。①よりゆっくり息を吐き出す。

もっとゆっくり
②よりもっと、ゆっくり吸う。可能な限り息を止める。②よりもっとゆっくり息を吐き出す。

ポイント
• ①~③を必ずセットとして行う。
• 毎日行う。いつ、何セット行ってもよい。

画像1: 息止め深呼吸のやり方
画像2: 息止め深呼吸のやり方
画像3: 息止め深呼吸のやり方

※手の位置はどこでもよい。
※立って行っても、座って行ってもよい。

体温が低い起床直後に行うのがおすすめ

この息止め深呼吸で体調がよくなった患者さんの例をご紹介しましょう。

肺がんの手術後に来院されたAさん(60代・男性)は、初診時、ひどいネコ背で顔も真っ青、呼吸が苦しそうで、うまく話ができない状態でした。

そこで、息止め深呼吸を教え、自宅で行ってもらいました。2週間後、Aさんの血色は少しよくなり、話すときもあまり苦しそうではありません。その2週間後、より明るい顔色に変わり、姿勢もよくなりました。大きな声も出て、とても元気そうです。

息止め深呼吸を行うと、多くの場合、このように体調が改善します。体が温まり、血流がよくなるので、食欲も出て元気になるのです。また、気持ちの持ち方まで変わってくるようです。

息止め深呼吸のよいところは、お金も道具もいらず、いつでもどこでもできること。気づいたときに何度でも行うといいでしょう。特にお勧めは、体温が低い朝の起床直後です。

コロナ禍で自粛が求められている今、外出もままなりません。しかし息止め深呼吸なら、自宅で簡単に体を温めることができます。しかも、呼吸器系を鍛えることができるので、新型コロナやインフルエンザ、カゼなどの感染予防・重症化の防止も期待できます。

画像: この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。

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