どうすれば冷えは改善できるのでしょうか。ふだん運動習慣のない人や筋力が著しく低下している人にとっては、運動を急に始めるのは難しいでしょう。そこで私がお勧めするのが、体をふるえさせて、体の内側から熱を生み出すことです。【解説】高林孝光(アスリートゴリラ鍼灸接骨院)

解説者のプロフィール

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高林孝光(たかばやし・たかみつ)

アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。鍼灸師。柔道整復師。患者さんやアスリートに「冷えない体」を手に入れてほしいと思い、体温を自分でコントロールできる、ふるえのトレーニング法(ぷるトレ)を考案。その普及に努めている。著書に『ぷるトレ』(飛鳥新社)、『1日7秒手を伸ばしなさい』(ダイヤモンド社)、『腱鞘炎は自分で治せる』(マキノ出版)など多数。

体をふるえさせて体の内側から熱を産出

どんなに厚着をしても、部屋を暖めても、手足の冷えが治まらない──。特に寒い時期になると、私の治療院には、このような悩みで来院される女性やお年寄りがグンと増えます。

努めて温めているのに冷えるのはなぜでしょうか。

それは、「体の中から温めていないから」。正確にいえば、体の熱を生む機能が低下した状態になっているからです。

体の中で熱を生み出すのは、筋肉です。つまり、筋肉の多い人は多くの熱を生み出せますが、筋肉の少ない人は熱を生み出す量も少ないのです。

一般的に、女性は男性より筋肉量が少なく、筋肉量は男女ともに年をとると減少します。そうしたことで、女性やお年寄りは冷えやすいわけです。

また、なにごとも便利になった現代は、仕事や家事で体を動かす機会が減っています。仕事の打合せはメールで済み、買い物はネットで届けてもらう。これでは、筋肉が熱を生み出す働きも低下してしまうでしょう。

冷えを放置していたら、血流が悪くなり、さまざまな不調や病気を招きます。

実際に、冷えを訴える患者さんには、冷えのほかに複数の不定愁訴をお持ちの人が少なくありません。例えば、腰痛、ひざ痛、肩こり、手足のしびれ、胃腸の不調、便秘、不眠、むくみ、肌荒れ、乾燥肌などです。

では、どうすれば冷えは改善できるのでしょうか。定期的に運動して筋肉を使うのもいいでしょう。体の中から熱を生み出すことにつながります。ただし、ふだん運動習慣のない人や筋力が著しく低下している人にとっては、運動を急に始めるのは難しいでしょう。

そこで私がお勧めするのが、体をふるえさせて、体の内側から熱を生み出すことです。

続けることで冷えにくい体に

私たちの体には、自律神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを調整する神経)の指令で筋肉をふるえさせ、熱を発生させるという防御システムがあります。

例えば、寒い時期にオシッコをすると、体がブルッとふるえます。これは温かい尿が体外に放出されることで一時的に下がった体温を元の体温に戻そうとして筋肉をふるえさせているという現象です。

寒い時期に暖かい家の中から戸外に出ると、やはりブルッとふるえます。これも同じで、体の中から熱を作る現象です。

では、筋肉がふるえるとなぜ体が温まるのでしょう。その説明には電子レンジがもってこいです。

電子レンジが火を使わずに食品をすぐに温められるのは、マイクロ波という電磁波の作用によります。マイクロ波には水分子を激しくふるわせる性質があり、水分を含む食品に当てると、食品中の分子どうしが盛んに振動してぶつかり合います。その摩擦が熱を生み出すのです。

筋肉は、通常、自律神経の指令によって筋肉をふるわせ、同様に熱を発生させますが、私たちは運動神経と骨格筋に働きかけてふるえさせることもできます。つまり、自分の意志でふるわせることができるのです。

「レンジでチン」と同様に、とても簡単で、瞬く間に体を温める方法があります。それが、私が考案した「ぷるトレ」です。

ぷるトレとは、ふるえを利用したトレーニングのことで、やっている最中に筋肉がぷるぷるとふるえるので、そう名づけました。少ない労力で効率的に筋肉を使い、熱を産出できます。

いくつかの種類がありますが、ここではその代表的なものとして、「ふるえ合掌(忍者ぷるぷる体操)」をご紹介しましょう(やり方は下記を参照)。

滝修行を思い浮かべてください。冷たい水に打たれる修行者は、両手をしっかり合わせています。このイメージです。

両手のひらを胸の前で合わせ、力いっぱい押し合います。それを1分も続けると、指や腕、肩が小刻みにぷるぷるとふるえてきます。同時に両太もももそろえて押し合うと、より熱を生み出す効果が高まります。

表面の筋肉はもちろん、ふだんあまり使わないためにかたくなっている深層筋(背骨に付着する多裂筋や大腰筋など)まで共振によってふるえてきます。ただし、あまり長く力を入れ続けると、血圧上昇を招く恐れがあるので、2分以上は行わないでください

1日何回行ってもかまいません。続けていると、冷えにくい体に変わります。即効性があるので、冷えを感じたら応急手当として行うのもお勧めです。

ふるえ合掌は、当院のほとんどの患者さんに勧めていますが、皆さん瞬時に体が温まると、とても喜ばれています。なかには、冷えだけでなく、腰痛やひざ痛、肩こり、五十肩、手足のしびれ、むくみ、肌荒れなどが改善したという人もいらっしゃいます。

ふるえ合掌のやり方

ポイント
・指や腕、肩がぷるぷるとふるえるくらい力を込めて押し合う。
注意
・息は止めず、普通に呼吸する。
・2分以上は行わない。

画像1: ふるえ合掌のやり方

背すじを伸ばして立ち、両足をそろえ、両手のひらを胸の前で合わせる。
両手を力強く押し合い、同時に太ももも押し合う。これを30秒から1分続ける。
1日に何回行ってもよい。

座って行う場合
太ももの間に丸めたタオルなどをはさんで同様に行う。

画像2: ふるえ合掌のやり方

五十肩の人は
両手を合わせる位置を低くする。

画像3: ふるえ合掌のやり方

血流が促進され全身の代謝が改善

このふるえ合掌は、テレビ番組の『ヒルナンデス!』(日本テレビ)や『ソレダメ!』(テレビ東京)でも紹介させていただきました。出演者のかたには、「体がポカポカ温まる」「汗がじんわり出てきた」と大変好評でした。

実際、遠赤外線で体の表面温度を調べると、ふるえ合掌を行ったあとには、体温が確実に上がることもわかりました。

ふるえ合掌を行った患者さんをお二人ご紹介しましょう。

Kさん(70代・女性)は、ひざ痛の治療で来院されました。電気治療を勧めたところ、なぜか「別の治療法にしてほしい」といわれます。話を聞いてみると、「ズボンのすそを上げると、皮膚からフケのような粉が落ちるので、恥ずかしい」とのことでした。寒い季節、特に肌が乾燥しやすい人にはよく見受けられる症状です。

私はKさんの気持ちをくみ、ふるえ合掌でひざの痛みを緩和するよう、お勧めしました。その後1週間ほどして来院されたKさん、「今日は電気もお願いします」と、元気よくすそをまくり上げます。ひざに目をやると、粉は出ていません。それどころか、皮膚はキレイな状態です。「ふるえ合掌を続けたら、こうなったの」と、Kさんは満面の笑顔でした。

この乾燥肌の改善は、ふるえ合掌で体が温まって血流が促され、全身の代謝がよくなったためだと思われます。治療後、イスから立ち上がるときも、以前より力強い感じでした。ふるえ合掌を行うことで、ひざ痛も乾燥肌もずいぶんよくなったようです。

もう一人は、五十肩を訴えられていたOさん(50代・女性)です。五十肩は、英語ではフローズン・ショルダー(凍った肩)とも呼ばれるほど肩が固着しているので、筋トレやストレッチなどで必要な筋肉に働きかけることが困難です。しかし、ふるえ合掌なら、運動のかわりに十分なるので、自信を持ってお勧めしました。

ただし、肩を上げられないので合掌する位置は低めにしてもらいました。氷の肩は間もなく温まったようで、数日後には「起床時が楽になった」との報告を受けました。1ヵ月すると痛みもなくなり、肩も普通に回せるようになったそうです。

皆さんも、ふるえ合掌で体内温度を自分でコントロールする習慣をつけ、冷えを寄せつけない健康な体になってください。

画像: この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年3月号に掲載されています。

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