解説者のプロフィール

篠浦伸禎(しのうら・のぶさだ)
東京都立駒込病院脳神経外科部長。1958年生まれ。東京大学医学部卒業後、富士脳障害研究所、都立荏原病院を経て、2009年より現職。脳の覚醒下手術では、日本トップクラスの成績。新刊『統合医療の真実』(きれい・ねっと)好評発売中。
がんや生活習慣病を防ぐと米国でも注目
[別記事:有名料理長が40年続けるタマネギスープ→]
私は5~6年前から、自身の健康維持のために毎日「タマネギスープ」を食べています。
タマネギスープは主に、お昼に病院で玄米とともに食べています。必要な栄養素が十分にとれるので、忙しい診療の合間に食べるには最適です。野菜の自然な甘味やうま味が凝縮していて、少量でも満足感が得られるからです。
続けて食べていたところ、普段から腹八分目で満足できるようになりました。それとともに、体重が減ってきたのです。
タマネギスープを食べ始める前、体重は81kgありました。それが現在は64kgまで減り、ウエストも10cm以上細くなったのです。それだけでなく、「先生、肌ツヤがよくなったのでは?」「若返りましたね」とも言われるようになりました。
なお私のタマネギスープは、タマネギ、ニンジン、カボチャ、キャベツを適当な大きさに切って(ニンジン、カボチャは皮付きのまま)鍋に入れ、水を加えて20分ほど煮込んで作ります。これに、天然のだしの素とみそを加えて味付けをします。休日に鍋いっぱいに作り、1食分ずつに分けて冷凍し、病院の冷凍庫に常備しています。

毎日、昼食にタマネギスープを食べる。
私がタマネギスープを食べ始めたきっかけは、米国コーネル大学の栄養学者、コリン・キャンベル教授の著書です。
キャンベル教授は、中国全土に及ぶ大規模な食生活調査を行い、米国と比較した成果から、野菜と全粒穀物(精白などの処理をしていない穀物)中心の食事が、がんや生活習慣病を防ぐと提言しています。しっかりした研究に基づく説でしたから、私も実践してみたのです。
ファイトケミカルが健康に役立つ
タマネギスープは、植物の機能性成分「ファイトケミカル」に富んでいます。ファイトケミカルとは、植物の色や香り、辛味、苦味などの元になる成分です。よく知られた「ポリフェノール」も、その一種です。
植物は自らの身を守るためにファイトケミカルを作るのですが、その作用は、私たち人間の健康にも有益です。
例えば、活性酸素を除去する抗酸化作用。植物は太陽の光を浴びて育ちますが、太陽光に含まれる紫外線は、細胞を傷つける活性酸素を発生させます。
そこで植物は抗酸化作用を持つファイトケミカルを作り、活性酸素の害を防いでいるのです。
タマネギに含まれる「ケルセチン」には、強力な抗酸化作用や血液サラサラ作用があります。カボチャ、ニンジン、キャベツに豊富な「β‐カロテン」や「イソチオシアネート」なども抗酸化作用があります。
こういった成分の働きで、活性酸素によって傷つけられた細胞が修復されると、健康維持に大いに力を発揮します。例えば、血管の傷が修復されれば、動脈硬化を防止し、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)や心筋梗塞予防にもつながります。
自然な野菜のうま味が食欲を適正に調整

篠浦先生は病院にタマネギスープを常備。
私はタマネギスープは「脳にもよい」と考えています。
脳では、視床下部が食欲をコントロールしていますが、食欲に大きく影響するのが、扁桃体で感じる「快・不快」の感覚です。
扁桃体は生存本能をつかさどる部位で「おいしい=快」と感じることで食欲を刺激します。しかし、この刺激が強過ぎると、視床下部での食欲のコントロールが乱れ、過食を招きやすくなります。
特に、肉類や精製された穀物、化学調味料などは扁桃体を刺激しやすい食べ物です。
タマネギスープの自然な野菜のうま味は、扁桃体を過度に刺激しません。それが、食欲コントロールを正常にするだけでなく、視床下部の機能を正常に戻す助けにもなるのではないかと、私は考えています。
視床下部は、体温調節や睡眠・覚醒のリズムをつかさどるなど、きわめて重要な働きを持ちます。ストレスを和らげる「幸せホルモン」のオキシトシンも分泌しています。視床下部が正常になると、心身両面の健康維持に役立つのは言うまでもないでしょう。
ぜひ皆さんの食生活に取り入れてください。

この記事は『安心』2021年2月号に掲載されています。
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