プロフィール

窪田好直(くぼた・よしなお)
グリル満点星総料理長。1932年、東京都生まれ。丸の内会館にて「天皇の料理番」として知られる秋山徳蔵氏の下でフランス料理を修行。さらに、より健康に配慮した独自の洋食を考案し1987年、麻布十番に「グリル満天星」の本店をオープン。現在、関東を中心に店舗を展開。
無理なく続けられるレシピを考案
私は、30代の若さで糖尿病を患いました。
当時はフランス料理の料理人をしていて、1日に何十回もの味見をしていました。フランス料理は、バターと油をふんだんに使用するので、1回の味見は少しの量でも、一日中ともなると、かなりのカロリーを摂取します。
さらに、当時の私は大の酒好き。料理人を引き連れて毎晩のように飲みに出かけたり、風呂場に一升瓶を持ち込んだりする生活を続けていたところ、気がつけば、身長162cmに対して、体重は、75kgになっていました。
そんなある日のことです。トイレに行ったら、自分のオシッコから甘い臭いがしたのです。先輩料理人たちに糖尿病の人が多いこともあり、もしや自分も……と思い、病院で検査をしたところ、予感的中。インスリンを打つか、食事を1日1500kcal以内に抑えるかの選択を迫られました。
薬に頼りたくなかった私は、食生活を見直すことにしたのです。とはいえ、朝早くから夜遅くまで立ちっ放しの仕事をしながら、1500kcalに抑えることは時間的にも栄養的にもつらく、耐え難い空腹に何度も襲われました。
「なんとかこの空腹を抑える方法はないだろうか」と考えた私がたどり着いた答えが、スープでした。
スープなら、おなかがいっぱいになりますし、具材として野菜もたくさんとれます。私は、料理人としての知恵と、糖尿病になってから学んだ栄養学の知識を基に試行錯誤し、タマネギをメイン具材にした「タマネギスープ」を作ることにしました(作り方は下項に)。
タマネギは、低カロリーなのはもちろん、糖尿病の緩和にも役立つともたびたび耳にしていました。特に、普段捨てがちな皮にも血糖値を下げる効果があるということで、皮も煮出して使うことにしました。
もう一つ気を使ったのは、無理なく長く続けられるレシピにすることでした。糖尿病は、1日2日食事を改善したぐらいでは治りません。継続が必要です。簡単に作れ、保存できるようなスープにしなければ、忙しい日が続いたりすると、面倒になってやめてしまうと思ったからです。
そして選んだ具材が、ニンニクやコンブ、ベーコンなど、手軽に手に入る食材でした。なお、酢を入れるのは、長期間保存できるようにするためです。
ほか、好みで野菜を追加して作っても構いません。その場合は、作りおきとは別に、食べるときに足して煮込めばよいと思います。
40年以上毎日飲み続けている
カロリー制限のために飲み始めたタマネギスープでしたが、しばらくたつと、想像以上の変化が現れました。
最高300mg/dlもあった血糖値が、なんと120mg/dlにまで下がっていたのです(正常値は110mg/dl未満)。これはタマネギスープのおかげに違いない!と知人やお客さまにもお話ししました。
すると、実践してくださった糖尿病のお客さまから「インスリン注射をしなくてもよくなりました!」と感謝の手紙をいただくなど、効果を実感された人からの声がたくさん寄せられました。

私自身、40年以上、毎日タマネギスープを飲み続けています。おかげで、今日まで糖尿病の薬は飲まずに済んでいます。今の血糖値は、130mg/dlほどで、3ヵ月に一度、定期検診に行くくらいです。
タマネギスープのおかげで、糖尿病を心配しながらの生活とは無縁になった私は、88歳になった今でも、やりたいことが多過ぎて時間が足りないほど元気です。75歳で始めた庭のバラ栽培は、今では地元の皆さんの憩いの場となり、お友だちづくりにも役立っています。
また、糖尿病をきっかけに、料理はおいしさだけを追求するのではなく、お客さまが健康で、幸せな気持ちになれるものでなければいけないと考えるようになりました。
そのため、高カロリーな印象の洋食ですが、私のお店では、名物の「オムライス」でさえも、バターを1食5gに抑えて作っています。
基本のタマネギスープの作り方
料理・スタイリング/古澤靖子

【材料】(7杯分)
タマネギ……大4個(1㎏)
ニンニク……大1/2片
ベーコン……50g
酢……大さじ2/3
水……6カップ(1200ml)
刻みコンブ……15g
【作り方】
❶タマネギは皮をむき、1cm角のさいの目切りにする。ニンニクはみじん切り、ベーコンは5mm角に切る。

❷鍋に水、①で切った材料、酢、刻みコンブを入れて、強火にかける。

❸沸騰したら弱火にして、ふたをする。30分ほど、タマネギが軟らかくなるまで煮ると完成。

【保存方法】
冷蔵庫で5日間は保存可能。冷凍してもよい。

【食べ方】
窪田好直料理長の味付け
〈材料〉(1杯分)
基本のタマネギスープ…1杯分
白だし……小さじ1
しょうゆ……小さじ1
コショウ……少々

基本のタマネギスープを食べる前に鍋で温め、白だし、しょうゆ、コショウを入れて強火にかける。
タマネギスープ アレンジレシピ
レモン風味のタマネギスープ

口当たりが爽やか!
【材料】(2人分)
基本のタマネギスープ……カップ2杯(400ml)
キャベツ……30g
エリンギ……小1本
レモンスライス……4枚
塩……少々
ナンプラー……小さじ1
コショウ……少々
香草(お好みで)……少々
【作り方】
❶キャベツを2cm角に切る。エリンギは食べやすい大きさに裂く。
❷鍋にタマネギスープ、塩、①、レモンスライスを汁を絞ってから加え、ふたをして野菜が軟らかくなるまで煮る。
❸ナンプラーで味を調えて器に盛り、コショウを振り、香草を添える。
クラムチャウダー風タマネギスープ

クリーミーで食べ応えも抜群
【材料】(2人分)
基本のタマネギスープ……カップ1杯半(300ml)
カブ……1個
カボチャ……50g
ブロッコリー……1房
アサリ……10個
牛乳……100ml
塩、コショウ……各適量
【作り方】
❶カブは皮をむき、8等分のくし形に切る。カボチャは食べやすい大きさに切る。ブロッコリーを手で食べやすい大きさに裂く。アサリはよく洗う。
❷鍋にタマネギスープ、①を入れ、ふたをして中火にかける。アサリの口が開き、野菜が軟らかくなったら牛乳を加える。沸騰しないように温め、塩、コショウで味を調えたら完成。
ピリ辛タマネギみそスープ

ほどよい辛さで体もポカポカ!
【材料】(2人分)
基本のタマネギスープ……カップ2杯(400ml)
ミニトマト……4個
ホウレンソウ……少々
ニンジン……3cm長さ(30g)
みそ……大さじ1
コチュジャン……小さじ1/2
【作り方】
❶ミニトマトを半分に切り、ホウレンソウは3cm長さに切る。ニンジンは皮をむいて7〜8mmの厚さで半月切り。
❷鍋にタマネギスープ、ミニトマト、ニンジンを入れてふたをして火にかける。
❸ ニンジンが軟らかくなったら、ホウレンソウを加えてひと混ぜし、みそ、コチュジャンを溶き入れる。

この記事は『安心』2021年2月号に掲載されています。
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