解説者のプロフィール

平松類(ひらまつ・るい)
二本松眼科医院副院長・医学博士。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院、彩の国東大宮メディカルセンターなどでの勤務を経て、2018年より現職。緑内障手術トラベクトーム指導医。テレビ、雑誌、新聞などでの医者任せにしないための医療解説に定評がある、『眼科医がすすめる目の不調を感じたら毎日食べたい料理』(KADOKAWA刊)など、著書多数。YouTube「眼科医平松類チャンネル」にて、目の健康情報を無料で配信。
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緑内障
●どんな病気?
徐々に視野が欠け、視力が低下。放っておくと失明に至る。日本人の成人後の失明原因の第1位。
●対処法は?
早期発見・早期治療が肝心。定期的な眼底検査を。血流の悪化が眼圧を上げるので、適度な運動を心掛ける。
緑内障は、徐々に視野が欠けて視力が低下する病気です。放っておくと失明に至ります。
進行はごくゆるやかで、発病当初は自覚しづらいのが特徴です。片方の目にだけ発症した場合、反対側の目が視野を補ってしまうため、片方の目が見えなくなるまで病気に気づかないという人も少なくありません。日本では、成人後の失明原因の第1位の病気です。
緑内障は、眼圧(眼球内部の圧力)が上昇することで、視神経が圧迫・障害されて起こります。ただ、実際には患者の約7割は、眼圧が正常とされる値でも視神経に異常が生じています(正常眼圧緑内障)。
正常眼圧緑内障の原因は、ハッキリとはわかっていません。ただ発病した人は、眼圧は正常でも、眼圧の圧迫に対する視神経の耐性が通常よりも弱いのではないかと考えられています。
緑内障は、血流の状態と関連の深い病気です。そのため、高血圧や低血圧の人は発病リスクが上がります。また、近視の人は2倍、家族に緑内障がいる人は4倍、発病リスクが高いといわれています。
異常が生じた視神経は、元には戻りません。発病したら進行する一方で、完治はしないので、早期発見・早期治療が肝心な病気です。
緑内障は、眼底検査で見つけることができます。40歳を過ぎたら、最低でも年に一度は眼科で眼底検査を受けてください。
治療は、点眼薬や手術で眼圧を下げて進行を遅らせます。
血流が悪くなると、眼圧が上がって病状が進行します。過剰なストレスや喫煙習慣、ネクタイなどの首元をきつく締める服装などは、眼圧を上げます。また、いびきをかく人や睡眠時無呼吸症候群の人は、夜間に眼圧が上がります。
発病の予防や進行抑制のためには、適度な運動で、血流をよくすることが大切です。食事では、カシスなどのベリー系の果物に含まれるアントシアニンが有効といわれています。
白内障
●どんな病気?
目のレンズの役割をする水晶体が濁り、物が見えづらくなる。70代で約8割、80代以降は99.9%が発病。
●対処法は?
初期の段階では、進行を遅らせる点眼薬での治療が中心。最終的には、水晶体を人工レンズに取り替える手術をする。
目をカメラに例えたとき、レンズの役割を果たしているのが水晶体です。水晶体は透明で、目に入ってきた光を屈曲させて網膜にピントを合わせる働きがあります。白内障は、この水晶体が白く濁る病気です。
水晶体の濁りの程度や位置などによって、視界がまだらに暗くなったり、全体的にぼやけたり、明るい所でまぶしさを強く感じたり、暗い所で物が見えづらくなったりなど、症状は変わります。また、白く濁った水晶体は光を通しづらくなるため、視力が徐々に低下します。
白内障は、大半は目の老化が原因で起こります。50代の約半数、70代の約8割、80代以降は99.9%が発病するといわれています。誰にでも起こる目の老化現象と考えてよいでしょう。
近視や遠視などによって発病のリスクが上がることはありません。ただ、紫外線を多く浴びたり、アトピー性皮膚炎などで目をよくこすったりすると、リスクは上がります。
いったん濁った水晶体は、元には戻りません。治療は、進行を遅らせる点眼薬などが中心となります。
水晶体を人工レンズに取り換える手術も一般的に行われています。物が見えづらくなると、活動が制限されて、認知症が進行します。そのため、60~70代で手術を受けるケースが多く見られます。人工レンズの寿命は長いため、60~70代で手術を受ければ、その後はレンズを入れ替える必要はありません。
白内障の予防・改善には、紫外線をカットする機能のあるメガネやコンタクトレンズ、サングラスなどの使用が有効です。
食事では、アスタキサンチンやルテインに効果が期待されています。
黄斑変性
●どんな病気?
眼球内の網膜の中心(黄斑部)に異常が生じ、物が見えづらくなる病気。多くは加齢が原因。日本人の失明原因の第4位だが、患者数は年々増えている。
●対処法は?
新生血管の生成を抑える薬の目への注射や、新生血管をレーザーで焼く治療が中心。食生活が強く影響するので、食事の見直しも重要。
目をカメラにたとえたとき、フィルムに該当するのが網膜です。黄斑変性は、その網膜の中心にある黄斑という部分に異常が生じることで、物がゆがんで見えたり、中心部が黒く影になって見えづらくなったりする病気です。進行すると、視力も低下します。
黄斑変性は、その多くが加齢が原因で起こります。加齢とともに、黄斑にはドルーゼンという老廃物がたまります。また、悪くなった血流を補うために、新しい血管(新生血管)ができたりします。
しかし、この新しい血管はもろく、すぐに破れて血液がもれ出ます。こうした黄斑の異常によって、物が見えづらくなるのです。
加齢が原因の黄斑変性は、50代から発病します。50歳以上の80人に1人は黄斑変性であるともいわれています。
黄斑変性は、欧米では成人後の失明原因の第1位の病気です。日本では現在第4位。ただ日本では、高齢化と食事の欧米化によって、患者数が年々増加しています。
治療は、定期的に目に薬物を注射するという薬物療法が一般的です。これは、黄斑に新生血管ができるのを抑えることを目的としています。その他にも、レーザー手術などがあります。また、近年はiPS細胞を用いた再生医療の研究も進んでいます。
黄斑変性は、血流の悪化の影響を強く受ける病気です。そのため、喫煙習慣のある人が多く、過剰なストレスを受けがちな男性に比較的多く見られます。また、パソコンやスマートフォンに使用されているブルーライトも発病リスクを高めるといわれています。
なお、黄斑変性は食習慣との関連も強く、特に質の悪い脂質は、とり過ぎると発病・悪化のリスクを高めるとされています。ですから、食事の見直しも重要になってきます。
ブロッコリーなどの緑黄色野菜に含まれるルテインに、予防・改善効果が期待されています。加えて、適度な運動で血流をよくすることも大切です。
糖尿病網膜症
●どんな病気?
糖尿病の合併症の一つで、最も早く現れるもの。高血糖の影響で目の毛細血管がもろくなり、網膜に異常が起こって、視野が狭くなったり視力が低下したりする病気。日本人の成人後の失明原因の第3位。
●対処法は?
高血糖の改善が第一。定期的な受診とともに、食事や運動で血糖コントロールを行うこと。突然飛蚊症が出たら、発症の恐れがあるので、すぐ受診を。
糖尿病では、高血糖の状態が続くことで血管がもろくなります。そのため、さまざまな合併症が起こります。糖尿病網膜症も、その一つです。
糖尿病網膜症は、糖尿病の合併症の中で最も早く現れます。糖尿病の人の2~3割に発病するといわれ、患者は40~60代に多く見られます。
糖尿病網膜症では、網膜の血管が詰まって、むくんだり、出血したりします。また、黄斑変性と同じく、悪くなった血流を補うために、もろい新生血管がたくさんできます。この新生血管が破れて出血することもあります。
これらの網膜の異常によって、視界が狭くなったり、視力が低下したりするのです。
糖尿病網膜症は、発病当初はほとんど自覚症状がありません。しかし、進行のスピードはとても速く、放っておくと視力が低下し、場合によっては失明に至ります。
糖尿病網膜症は、日本では、成人後の失明原因の第3位の病気です。そのため、糖尿病患者には、特に症状がなくても、定期的に眼科を受診し、眼底検査を受けて、網膜の状態を確認することが勧められています。
網膜の小さな出血は、当初は飛蚊症(目の前を蚊が飛ぶように見える症状)として確認できます。糖尿病の方で急に飛蚊症が出たら、発病を疑い、すぐに眼科を受診したほうがよいでしょう。
治療では、網膜のむくみを和らげるために眼球に薬物を注射したり、出血した箇所を焼くためにレーザー手術などが行われたりします。
糖尿病網膜症は、高血糖の状態が続くと進行します。予防・改善には、適度な運動や食事の管理などで血糖値をコントロールするのが一番です。
また、もろくなった血管に負担をかけないために、血圧のコントロールも必要です。

この記事は『安心』2021年2月号に掲載されています。
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