解説者のプロフィール

宮崎北斗(みやざき・ほくと)
JRA騎手、脳神経学トレーナー。1989年生まれ。2007年に騎手デビュー。2014年に落馬事故で脳挫傷、胸椎骨折の大ケガを負ったことがきっかけで、アメリカにて応用脳神経学の勉強を開始。日本で数名しか取得していない、実践的な脳神経学の応用知識を提供する「Z-HEALTH」のトレーナー資格を得る。現在はJRA騎手として活動しながら、脳神経学トレーナーとしても活動している。
▼「カラダマニアちゃんねる」(YouTube)
回復すべき目の機能は人によって異なる
皆さま、はじめまして。宮崎北斗と申します。私は、JRA(日本中央競馬会)騎手として活動する傍ら、脳神経学トレーナーとして、脳科学や解剖学に基づいたトレーニングやセルフケアを動画サイト「YouTube」で発信しています。
今回はその中で、私の体験から考案した「視力回復トレーニング」をご紹介しましょう。
私がトレーニングで視力が回復すると知ったのは、JRAの競馬学校の受験を控えた、中学3年生の頃。競馬学校の受験には、左右ともに0.8以上の視力が必要です。しかし、当時の私の視力は、0.4しかありませんでした。
そこで、視力回復センターへ通い、トレーニングを受けることになりました。その方法は、視力検査表にある、ギリギリ見えない大きさのCマーク(ランドルト環)を、20秒間じっと見続けるというもの。
これを3ヵ月間続けたところ、視力は1.2~1.5まで回復し、無事に競馬学校を受験することができました。
当時の私の視力が回復したのは、「見る」という行為に必要な目の機能の一つが、トレーニングで高まったからでしょう。
しかし、皆さんが私と同じトレーニングをしても、視力が必ず回復するとは言えません。その理由を説明します。
私たちは普段、さまざまな目の機能によって物を見ています。例えば、水晶体(目の中のレンズに当たる組織)の厚さを変えてピントを調節したり、瞳孔の大きさを変えて目に入る光の量を調節したり、目から得た情報を脳で処理したり……といった具合にです。
その人に不足している目の機能が異なれば、必要なトレーニングも変わります。つまり、視力が落ちている原因の機能を回復しなければ、せっかくトレーニングを行っても、あまり効果が見込めないのです。
疲れ目やかすみ目の改善にもおすすめ
今回は、異なる目の機能を高める三つのトレーニングを紹介します(やり方は下項)。
トレーニングの前後で、物の見えやすさの違いを確認し、ご自身の目に合った方法を習慣にしてください。
①光スライド
スマートフォンの懐中電灯機能や、ペンライトなどの小さな光を、目のそばで上下に動かす方法です。これにより、動眼神経を鍛えます。
動眼神経とは、目を動かしたり、ピントを合わせたりする筋肉をコントロールする神経のこと。光の強さに応じて、瞳孔の大きさが変わることで、動眼神経を刺激します。
②手のひら目隠し
このトレーニングでは、使い過ぎて過敏になった目の神経を休めます。目をよく使う人には、特に効果的です。
まず、隙間ができないように手のひらを組み、目を覆います。その状態で、暗闇を見るように意識します。
本来、この状態では視界は真っ暗で、何も見えません。しかし、目の神経が過敏になっていると、モヤモヤ、チカチカとした光のようなものが浮かんで見えます。これらが見えなくなるまで暗闇を見つめてください。
③背中反らし
視力回復トレーニングで体を動かすのは、奇妙に思うかもしれません。しかし、背すじと視力には、ある関係があります。
私たちの目の筋肉は、小脳と深くつながっています。さらに小脳は、視覚情報だけでなく、背すじを中心とした筋肉の情報も処理しています。
脳細胞が健康な働きを保つには、情報という刺激が必要です。しかし、背中の筋肉の働きが悪くなると、筋肉から小脳へ送られる刺激が減ります。
すると、視点を安定させる筋肉の働きも悪くなり、見えづらさを招く可能性がある、というわけです。
このトレーニングには、背すじから小脳に刺激を与えることで、脳の視覚情報の処理機能を高める効果があります。
今回ご紹介したトレーニングは、疲れ目やかすみ目、老眼などにも有効です。また、目の代謝を高めるため、眼病の予防・改善効果も期待できます。
とは言え、目が見えやすくなっても、その状態を定着させるには、ある程度の時間が必要。3ヵ月を目安に、毎日続けるとよいでしょう。
1分視力回復トレーニングのやり方
①~③のトレーニングは、全て試してみて、物が見えやすくなったものを習慣にしましょう。もちろん、全てのトレーニングを習慣にしても構いません。
早ければ行ってすぐ効果が出る人もいますが、視力を維持するために、3ヵ月程度は毎日行うようにしてください。
①動眼神経を刺激する
「光スライド」

❶普段見づらく感じる距離にある、カレンダーの文字などに視線を合わせる。
❷視線は正面に向けたまま、スマートフォンの後ろ側のライトを、心地いいと感じる距離で、顔の側面に当てる。
❸できるだけゆっくり、光が目に当たる範囲で上下に動かす。
【ポイント】
・見づらい方のみ行っても、左右両方行ってもよい。
・目の疲労を避けるため、1回につき30秒ほど行う。
・1日に何度行ってもよいが、光が交感神経を刺激して眠りを妨げるため、夜はお勧めしない。
・慣れるまでは瞳孔の反応が遅いため、ライトはできるだけゆっくりと動かす。
・まぶしさを感じるほど光を近づけたり、光を感じないほど遠ざけたりするのはNG。

・100円ショップで売っているような、小さいペンライトで行ってもよい。

②目の神経を休める
「手のひら目隠し」

❶両手をこすり合わせ、手のひらを温める。
❷指の間などから光が漏れないように手を組み、手のひらで目を覆うようにして置く。
❸②の状態で目を閉じ、モヤモヤ、チカチカと動く光のような反応が見えなくなるまでを目安に、30秒ほど暗闇を見続ける。
【ポイント】
・1日に何度行ってもよい。
・読書やパソコン作業をしているときなど、目を使う作業の合間に、こまめに行うのがお勧め。
・目を覆う際、手のひらには力を込めない。
③小脳の情報処理機能を高める
「背中反らし」

背すじを伸ばし、腕を手のひらが上向きになるようにねじりながら、背中を反らす。
【ポイント】
・1回につき15~30秒ほど行う。1日に何度行ってもよい。
・背中や腰に痛みがある人は、自分が心地よいと感じる程度に背中を反らす。
・背中を反らしている最中は、背中の筋肉が縮むのを意識する。

この記事は『安心』2021年2月号に掲載されています。
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