今回は顔ツボストレッチのなかから、耳鳴りや聞こえの低下、めまいなどに効果的な「三焦経ほぐし」を紹介します。皮膚を軽く引っ張ることで、経絡を緩めて気血の流れを整えることが目的ですから、ツボを強く押すのは禁物です。【解説】鈴木康玄(康鍼治療院院長)

解説者のプロフィール

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鈴木康玄(すずき・やすはる)

康鍼治療院院長。1973年東京生まれ。鍼灸師、日本古来の脈診と鍼灸技法による経絡治療家。 2004年に康鍼治療院開業。生き方が病をつくるという視点で東洋医学をとらえ、「康塾」を全国各地、米国のニューヨークなどで開催。また、13年より薬日本堂・漢方スクールにて講師も務める。著書に『不調にすぐ効く顔つぼストレッチ』『東洋医学式 体内時刻を制すれば痛みが消える!不調がなくなる!』(共に産業編集センター)がある。
▼康鍼治療院(公式サイト)

皮膚をピンと伸ばして気血を巡らせる

東洋医学では、顔は全身の健康状態を表し、全身の状態を変えることができる場所としてとらえます。

これは、「顔へ適切な刺激を加えることによって、全身の状態を整えることができる」ということでもあります。

そこで私は、顔にあるツボをストレッチして不調を改善する「顔ツボストレッチ」というセルフケア法を考案しました。

ツボへの刺激というと、一般的には「1点を強く押す」というイメージがあると思います。しかし、顔ツボストレッチは、2ヵ所のツボを指で軽くつまんだり軽く押したりして、皮膚をピンと伸ばします。

ツボを指圧するのではなく、名前のとおり、ツボや経絡にストレッチを加えるのがポイントです。

その理由を説明しましょう。

東洋医学の重要な基本概念に、「気血(きけつ)」があります。気血とは、人の体内にある生気(一種の生命エネルギー)と血液を合わせた概念で、気血が巡る道すじを経絡(けいらく)と呼びます。

東洋医学では、経絡に気血が巡ることによって、生命活動が成り立っていると考えます。そして顔には、全身を巡る気血が通り、多くの経絡が集まっています。

経絡は、手足の内側を通り五臓(内臓)へと流れる「陰の経絡」と、五臓から手足の外側へと流れる「陽の経絡」に大別されます。

陽の経絡は、手の外側を上って顔へ流れ、顔で折り返して、足へと下りていきます。顔の経絡は、全身の陽の経絡の折り返し地点となる、重要な場所なのです。

私たちの心身のコンディションは、全身の経絡に気血がスムーズに流れ、陰陽の経絡がバランスよく働くことによって、健康が保たれています。

昼間は陽の経絡の巡りが活発になり、気血が内臓から頭部や手足へ巡り、心身ともに活動状態をつくります。夜になるにつれて陽から陰へとバランスが移り、気血が体の内側へと向かい、内臓を温め養います。

一方で、顔は外気や精神状態の影響を受けやすいものです。寒くて顔がこわばっていたり、緊張して顔によけいな力が入ったりすると、皮膚の表面近くを走っている経絡の巡りにも滞りが生じます。

その結果、全身の気血の流れも悪くなり、さまざまな不調につながるのです。

そこで、顔ツボストレッチでは、経絡に沿って点在しているツボを2点つまみ、その間の皮膚を軽く引っ張ることで、経絡を緩めて気血の流れをよくします。経絡の流れを整えることが目的ですから、ツボを強く押すのは禁物です。

耳の周りを通る「三焦経」の流れを改善

私たちがテストした結果、顔ツボストレッチは、さまざまな全身の不調の解消に効果があることがわかりました。そして、ツボの位置や経絡の種類に応じて、改善効果が異なります。

今回は顔ツボストレッチのなかから、耳鳴りや聞こえの低下、めまいなどに効果的な「三焦経(さんしょうけい)ほぐし」を紹介します。やり方は下項をご覧ください。

三焦とは、東洋医学に独特の概念で、形のある臓器ではありません。エネルギーを全身に分配し、各内臓を温め機能させるための、水路のような働きをしています。経絡の三焦経は、両手の薬指から手の甲を通り、腕の外側、肩の上部、首の側面、耳周りを通ってまゆ尻へとつながっています。

デスクワークなどで目を酷使したり、緊張が続いたりすると、三焦経の巡りが悪くなり、前述の不調や、首や肩のコリにつながります。体内の熱や水の流れにも支障が出るので、内臓の不調や、体の冷え、むくみにつながることもあります。

現代人は特に三焦経が滞りやすいので、三焦経ほぐしで経絡の巡りを整えることが大切です。三焦経ほぐしのほかに、小腸経という経絡のストレッチも、前述の不調に効果的ですので、併せて行うのをお勧めします(やり方は下項参照)。

汗や脈など体の反応を確かめながら行う

三焦経ほぐしは、起床時や就眠前に行うのがお勧めです。朝に行うと、陽の気を顔や頭に集め、活動モードのスイッチを入れる効果が期待できます。

寝る前に行うと、心身の緊張を緩め、上半身の熱を内臓へと循環させ、夜間の内臓の働きが活発になります。首や肩、背中の緊張が緩むので、安眠にもつながります。

三焦経ほぐしや小腸経ほぐし(顔ツボストレッチ)で最も大切なことは、体の反応を感じながら行うこと。

しばらくストレッチをしていると、皮膚がしっとりと汗ばんできたり、皮膚が脈打つ感じがしたりと、なんらかの変化が現れます。これが、刺激が体になじんだ合図ですので、指を離して終了します。

1回のストレッチにつき15~30秒くらいが目安ですが、この感覚を感じるには個人差がありますので、反応が感じられるまで行ってください。

ストレッチの力加減は、自分が心地よいと感じる程度を目安にします。皮膚がピンと伸びていれば刺激されているので、あまり強く引っ張る必要はありません。

なるべくゆったりとした環境で、リラックスしながら、自分の体の反応を確かめながら行ってください。

三焦経ほぐしのやり方

顔の片側(どちらでもよい)の、下図の2点のツボ(絲竹空と和髎)を軽く押すかつまむ。片方を押して、もう片方をつまんでもよい。

絲竹空(しちくくう)…まゆ尻の外側にあるくぼみ
和髎(わりょう)…側頭部のほほ骨ライン上、もみあげ付近

画像1: 三焦経ほぐしのやり方

①の2点のツボを直線で結ぶように、互いに反対方向へ引っ張る。心地よいと思う力加減で行う。
皮膚がしっとりと汗ばむ、皮膚の脈打ちを感じるなど、なにかしらの反応を体感できるまで行う(目安は15~30秒)。

画像1: 互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

反対側の顔で①〜②を行う。

下図の2点のツボ(絲竹空と翳風)で、①~③を行う。

絲竹空(しちくくう)…まゆ尻の外側にあるくぼみ
翳風(えいふう)…耳たぶの裏と、耳の後ろの出っ張っている骨の間にあるくぼみ

画像2: 三焦経ほぐしのやり方
画像2: 互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

1日に何回行ってもよいが、リラックスしているときに行う。起床時や就眠前、疲れを感じたときが特にお勧め。

小腸経ほぐしのやり方

顔の片側(どちらでもよい)の、下図の2点のツボ(顴髎と聴宮)を軽く押すかつまむ。片方を押して、もう片方をつまんでもよい。

顴髎(かんりょう)…ほほ骨ライン下と目尻直下が交わる所
聴宮(ちょうきゅう)…耳前部、耳珠の前

画像1: 小腸経ほぐしのやり方

①の2点のツボを直線で結ぶように、互いに反対方向へ引っ張る。心地よいと思う力加減で行う。皮膚がしっとりと汗ばむ、皮膚の脈打ちを感じるなど、なにかしらの反応を体感できるまで行う(目安は15~30秒)。

画像3: 互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

反対側の顔で①〜②を行う。

下図の2点のツボ(顴髎と天容)で、①~③を行う。

顴髎(かんりょう)…ほほ骨ライン下と目尻直下が交わる所
天容(てんよう)…耳の後ろにある骨の先端に位置する、首側面の太い筋肉の内側のへり

画像2: 小腸経ほぐしのやり方
画像4: 互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

互いに反対方向へ、心地よい力加減で引っ張る

1日に何回行ってもよいが、リラックスしているときに行う。起床時や就眠前、疲れを感じたときが特にお勧め。

画像: この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。

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