解説者のプロフィール

萩原和真(はぎわら・かずま)
はぎわら鍼灸マッサージ院院長。柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。骨折、脱臼、脳梗塞などで外出が困難な人に対して、自宅や介護施設に訪問し、リハビリを行う。また、痛みの緩和や全身の血流改善を目的に鍼灸治療を実施する。
血液循環が悪くなると免疫力が低下
今年は、新型コロナウイルスの流行で出かける機会が減り、家の中でじっとしてばかりいる、という人も多いのではないでしょうか。
体を動かさずにいると、筋肉が緊張し、肩こりなどが起こりやすくなります。血液の循環が悪くなるので、免疫力も低下してしまいがちです。
特に、寒い季節は要注意。冷えて筋肉がかたくなると、ますます血液の流れが悪くなり、免疫力が低下して、カゼやインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなるのです。
手足など末梢が冷えているのは、血液循環が悪くなっているサインです。早めに免疫力を高める対策を講じておくことをお勧めします。
私は、大阪の堺市で、主に訪問を中心とした鍼灸マッサージを行っています。患者さんは、腰痛やひざ痛、またパーキンソン病や脳梗塞の後遺症など、動きに支障のある人です。そのため、ふだんから血流低下による体調の悪化には特に留意して、施術にあたっています。
その成果か、私が施術させていただいている患者さんたちは、カゼやインフルエンザにかかることがほとんどありません。
患者さんには私の施術とともに、できる人には自宅で行える運動や、簡単なツボ刺激を勧めています。そのなかから今回は、感染症予防や免疫力アップに効果的な「鎖骨の下もみ」を紹介しましょう。
呼吸が楽になり肩こりにも有効
鎖骨の下もみで刺激するのは、「兪府(ゆふ)」というツボです。このツボは、呼吸器の症状の予防・改善に役立つといわれています。カゼでよくセキが出る人や、感染症などによる呼吸器系の症状が心配な人は、ぜひ試してください。
ぜんそくの人にもお勧めです。鎖骨の下をもむ以外に、その部分を温めると、気道が広がりやすくなって呼吸が楽になるでしょう。
また、兪府は肩こりにも関係するツボで、この部分を刺激して胸の筋肉がほぐれると、胸郭が広がりやすくなります。すると、ネコ背や巻き肩が改善し、肩こりの軽減効果が得られます。肩がこっているということは、血液循環が悪くなっているということ。それを解消するのは、免疫力アップにもつながるはずです。
さらに、兪府は腎経という経絡(生命エネルギーに一種である気の通り道)にあり、腎経は足の裏の「湧泉」というツボから始まっています。ですから、兪府は足の冷えなどにも関係します。末梢の冷え対策としても、鎖骨の下もみが役立つでしょう。
鎖骨の下もみのやり方は下図をご覧ください。いずれも毎日数回行いましょう。
まず、ツボの場所を探しましょう。鎖骨と鎖骨の間にある凹みから、親指の幅2本分外側へいった左右の鎖骨の下に、兪府のツボがあります。指で押すと、少し痛みを感じる部分です。

鎖骨と鎖骨の間にある凹みから親指2本分外側へ行った左右の鎖骨の下。
ツボの位置がわかったら、人差し指と中指をそろえてその部分に当てて、痛くない程度の強さで10秒間、円を描くようにもみます。
左右の鎖骨の下を同時にもんでもいいですし、片方ずつでもけっこうです。行うタイミングは、セキや肩こりなどの症状が気になるときです。予防目的であれば、いつ行ってもかまいません。鎖骨付近に傷や痛みのある人は、行わないでください。

人差し指と中指をそろえて、兪府に当てて、痛くない程度の強さで10秒間、円を描くようにもむ。
次に、鎖骨の下もみに加えて、免疫力アップに効果的なツボをもう一つ、紹介します。
それは、「風池(ふうち)」というツボです。後頭部と首のちょうど境めの左右に、少しくぼんだ場所があります。そこが風池のツボがある位置です。東洋医学では、ここにカゼなどの邪気がとどまりやすいといわれます。

後頭部と首の境めで左右にある、少しくぼんだところ。
鎖骨の下もみと同じように、ツボに指を当てて、痛過ぎない程度に10秒間、円を描くようにもみましょう。どの指で行ってもかまいませんが、親指の腹がやりやすいのではないでしょうか。片方ずつでも同時でもいいので、左右ともにもみます。

親指の腹を風池に当てて、痛過ぎない程度に10秒間、円を描くようにもむ。
風池のツボに邪気がとどまらないよう、外出する際はマフラーで覆うなどして温めることも有効です。

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。
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