解説者のプロフィール

小田原雅人(おだわら・まさと)
1980年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部第三内科入局後、90年に附属病院助手。筑波大学講師を経て、96年に英国オックスフォード大学医学部に講師として赴任。2000年に虎の門病院内分泌代謝科部長に着任。04年に東京医科大学内科学第三講座主任教授。同大学病院副院長を経て14年より教授、20年より現職。日本内科学会認定医・指導医、日本糖尿病学会認定医・指導医。
免疫力を上げ感染症を抑制する
私の専門である糖尿病治療において、柱となるのが食事療法です。食事の内容と、血糖値への影響は切り離せません。そのため、食品の作用がどう治療に役立つかといった食品機能性の研究にも力を注いできました。
そんな私が注目してきた食品の一つが、緑茶です。
私は鹿児島の出身で、鹿児島県は、静岡県に次ぐ緑茶の名産地です。生家の隣には焙煎所があり、緑茶の香りに包まれて少年時代を過ごした記憶があります。そんなわけで、幼いころからの緑茶好き。今も1日に1Lくらいは飲むでしょうか。
緑茶には多くの、優れた健康効果があります。それらの健康効果を生む主成分が、茶カテキンです。緑茶に含まれるカテキン類は正確には、その構造からいくつかに分類されますが、ここではひと口に、茶カテキンとしておきましょう。
茶カテキンは、ポリフェノール(植物の苦みや渋みのもととなる物質)の一種。強力な抗酸化作用で、体内で老化や病気の原因である酸化を抑制します。
なかでも免疫力向上や感染症の抑制作用は確実で、多くの研究により認められています。
よく知られているのは、緑茶の抗菌作用です。茶葉の産地では、「緑茶うがい」が推奨されています。
インフルエンザのウイルスは細胞に吸着して体内で広がっていきますが、茶カテキンは、ウイルスの突起にくっついて、細胞への付着を阻害。防ぎきれずに体内に入ったウイルスの増殖も、抑制することが判明しているのです。
実際、水道水によるうがいと比べて科学的な検証が行われたところ、緑茶でうがいをしたグループのほうが、インフルエンザの罹患率が有意に低いという結果が出ています。
茶カテキンはほかにも、黄色ブドウ球菌や、マイコプラズマ肺炎を起こす菌、O157などにも有効性があるというデータもあります。緑茶の飲用を習慣づければ、さまざまなウイルスや菌を寄せつけない、丈夫な体になれるというわけです。
粉末緑茶なら食物繊維もとれる
注目すべきは、抗がん作用です。狭山茶で有名な埼玉県の、県立がんセンターの研究により「1日に10杯以上緑茶を飲用すると、多くの臓器のがんを予防する」ことが判明しています。
近年は同センターの研究で「茶カテキンが、がん細胞の細胞膜を硬化し活性化を抑制する」という機序も判明しました。
国立がんセンターが行った、男女9万人を19年間追跡調査した研究でも、緑茶を飲む量が多いほど全死亡リスクが低減。前立腺がんは5割、女性の胃がんは3割、発症リスクが低下すると報告されています。
ほかにも、血糖値やコレステロール値を低下させたり、心筋梗塞や脳卒中の誘因となる全身の炎症マーカーを下げたりする作用が明らかになっています。緑茶はまさに、健康飲料の王様といえるでしょう。

茶葉ごととれる粉末緑茶がお勧め。
先述したように、茶カテキンには種類があり、厳密にいえば抽出温度によって、その量の比率が多少変わります。
また、カテキンは本来、日光によく当たった茶葉が有する、渋みや苦み成分です。旨み成分を多くするため日に当たらないように育てた玉露などの高級茶や、抹茶には、含有量が比較的少ないといえます。
普通の煎茶を、ある程度渋みが出るよう、高めの温度の湯で入れ、二番茶、三番茶まで飲むのがいいでしょう。
なかでも私のお勧めは、茶葉の成分ごと摂取できる、粉末状の緑茶です。今はスーパーなどでも、普通に置いてあります。粉茶なら、お湯で入れただけでは抽出しきれないポリフェノールや食物繊維なども、併せてとれます。
緑茶にはカフェインが含まれていますが、妊婦のかた以外はさほど気にする必要はありません。カテキンの血中濃度は1時間ほどで最大になるので、1時間おきに1杯など、ちょこちょこ飲むのがお勧めです。緑茶を積極的に飲んで、健康の維持・向上に活用してください。

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。
www.makino-g.jp