免疫機能の50~70%が集まっている腸の中で、多くの免疫の働きをサポートしているのが、「パイエル板」です。ビタミンB1不足が進むとパイエル板が縮まり、免疫機能自体が低下し感染症にかかりやすくなるのです。【解説】國澤純(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センターセンター長)

解説者のプロフィール

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國澤純(くにさわ・じゅん)

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センターセンター長。 1996年大阪大学薬学部卒業。2001年薬学博士(大阪大学)。米国カリフォルニア大学バークレー校への留学後、2004年東京大学医科学研究所助手。同研究所助教、講師、准教授を経て2013年より現所属プロジェクトリーダー。2019年より現所属センター長。その他、東京大学医科学研究所・客員教授、大阪大学薬学研究科・招聘教授(連携大学院)などを兼任。

免疫機構に大きく関わるビタミンB1

私は長年、粘膜免疫を専門に研究を続けてきました。そのなかで、特にビタミンB1には、免疫機能と密接な関係があることがわかってきました。ビタミンB1が不足すると、免疫が弱くなったり、ワクチンなどが効きにくくなったりするのです。

この研究について解説をするために、まずは免疫のしくみについて説明しましょう。ウイルスなどの病原体が体内に侵入してきたとき、人の体の中では、主に二つの免疫機構が働きます。

一つが、「抗体による防御機構」です。ウイルスなどの外敵が体の中に入ってきたことがわかると、その外敵に対する抗体が作られます。ウイルスは、私たちの細胞の中に入り込んで、細胞の力を借りて増殖します。

抗体は、ウイルスが細胞に取りつくのを阻止し、細胞内に侵入するのを防いだり、ウイルスを殺傷したりして細胞への感染を防ぐのです。

もう一つは「免疫細胞による排除機構」です。防御しきれず、ウイルスが細胞内に入り込んでしまうと、もはや抗体にはどうにもできません。

そこで今度は、免疫細胞の一つであるT細胞が働き、ウイルスに感染した細胞を殺傷して排除するのです。

ビタミンB1は、この二つの免疫機構にかかわっています。

私たちの免疫機能の50~70%が集まっているのが腸です。その腸の中で、多くの免疫の働きをサポートしているのが、「パイエル板」です。パイエル板は、小腸の絨毛(小腸内壁の無数のひだ)の間にある腸管特有の免疫組織です。

ウイルスなどの病原体が腸管に入ってくると、パイエル板にいる細胞がそれをキャッチします。そして、免疫細胞がその情報を学習し、危険とわかれば、抗体を作り出します。

ビタミンB1の摂取が不足すると、このパイエル板が明らかに小さくなってくるのです。

マウスの実験では、ビタミンB1不足が進むと、ふくらんでいたパイエル板が縮まり、ほとんど見つからないくらいまで小さくなってしまうケースもあります。

そうなると抗体が作られなくなってしまいます。結果として、免疫機能自体が低下し、ワクチンを打っても、その効果が弱まり、感染症にかかりやすくなるのです。

また、ウイルスに感染した細胞を撃退し、細胞ごとウイルスを排除するT細胞は、胸腺という場所で作られます。胸腺は、胸部中央にある臓器で、10代前後がいちばん大きく、その後、萎縮していきます。年齢とともに、T細胞を作る力が衰えてくるのです。

この胸腺は、ビタミンB1不足によっても小さくなってしまいます。小さくなると、T細胞を作り出すことができなくなるので、その意味でも、感染を起こしやすくなります。

このように、ビタミンB1不足は、二つの免疫機能に大きなマイナスをもたらすのです。

日ごろから食事で摂取するのがベスト

幸いなことに、不足したビタミンB1を補えば、小さくなったパイエル板は、元の大きさへと戻ってきます。ただし、回復するまでに、1~2週間かかります。ですから、そもそもビタミンB1不足にならないように、日ごろから摂取に努めることが肝心です。

厚生労働省が推奨するビタミンB1の1日の摂取量は、女性で約1〜1.5mg。しかし、実際の摂取量は、平均0.86mgといわれています。私たちは、恒常的にビタミンB1の摂取不足である可能性があるわけです。

ビタミンB1の多い食材としては、豚肉、大豆、玄米、ウナギなどが挙げられます。

ビタミンB1は、ニンニクやタマネギ、ニラなどに含まれるアリシンという物質と結合すると、アリチアミンという物質になります。すると、腸管での吸収が促されるのです。しかも、吸収されたのちも、アリチアミンは血中に長く滞留します。

ビタミンB1は水溶性ビタミンですから、そもそも滞留しにくいのですが、アリチアミンになると、単独で吸収されたときより長く血中に留まり、その効果もより長く発揮されることになります。

ですから、豚肉などのビタミンB1が豊富な食材は、ニンニクやタマネギ、ニラなどと組み合わせるといいでしょう。

ビタミンB1が摂取不足の場合、サプリメントで補ってもいいかとよく聞かれます。

この場合サプリメントでも問題はありません。ただし、免疫機能を高めるうえでは、ビタミンB1以外のほかの栄養素も大事になるので、やはり、ふだんの食事でバランスよく食べていただくのがベストです。

なお、アルコールは多量にとると、ビタミンの吸収の妨げとなります。免疫力アップのためにも、「お酒はほどほどに」がいいでしょう。

ビタミンB₁が豊富な食品
豚肉、大豆など豆類、玄米のほか、ウナギやキノコ類、カシューナッツなど。ニンニクやタマネギといっしょに食べると体内への吸収が促される。

画像: この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。

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