解説者のプロフィール

菅原卓也(すがはら・たくや)
愛媛大学大学院農学研究科生命機能学専攻健康機能栄養科学特別コース教授。食品の機能性をヒトレベルにおいて解明し健康維持に寄与することをミッションに掲げた愛媛大学大学院農学研究科附属食品健康科学研究センター・センター長。食品機能学とは、食べ物に含まれる成分が動物細胞や実験動物、さらにはヒトの健康にどう影響するかを調べる学問分野。食品によってヒト細胞の機能が高まった場合、機能性食品の開発につながることから、今、最も熱い注目を集める研究者でもある。
組み合わせることで劇的な効果が得られる
冬の代表的な果物といえば、ミカン(温州ミカン)です。しかしながら、ミカンの消費量は、年々減り続けています。
ミカンのよさを知って、もっとミカンに注目してもらいたい──愛媛という土地柄も手伝い、ミカンの研究を始めたところ、花粉症に劇的に効果のある組み合わせを発見しました。
それが「ミカンの皮ヨーグルト」です。ミカンの皮に含まれる「ノビレチン」というフラボノイドの一種には、アレルギーを抑制する作用のあることがわかりました。
ノビレチンは、ミカンやシークワーサー、ポンカンなど、かんきつ類の皮に含まれる成分で、抗炎症作用や脂肪の蓄積を抑制する作用などがあることが報告されています。
アレルギーを抑制するのは、抗炎症作用によるものです。
一方、私の研究室では、牛乳に含まれるたんぱく質の一種、β‐ラクトグロブリンにも、抗アレルギー作用があることを確認しています。
そこで、この二つを組み合わせると、それぞれ単独で摂取したときと比べて効果にどのような違いが出るのか、研究することにしました。
目のかゆみと充血が劇的に抑制できた
まず行ったのは、培養細胞の実験です。
アレルギー症状、中でも即時型と呼ばれるアレルギー症状は「脱顆粒」といって、細胞からヒスタミンという成分が放出されることによって起こります。しかし、ノビレチンやβ‐ラクトグロブリンを細胞に作用させると、この脱顆粒が抑制されるのです。
今回の実験では、ノビレチンとβ‐ラクトグロブリンの両方を同時に作用させると、それぞれ単独で作用させたときよりも、脱顆粒の抑制効果がぐんと高まることが確認できました。
次に、スギ花粉によるアレルギー症状を発症させたマウスに、ミカンの皮とヨーグルトを投与して、くしゃみの回数の変化を調べてみました。
すると、ミカンの皮だけを投与したマウス、ヨーグルトだけを投与したマウスでもくしゃみの回数は幾分減ったのですが、両方を同時に投与したマウスは、その回数が激減しました。

さらに、愛媛大学医学部附属病院眼科学講座白石教授・原准教授のご協力の下、ヒトでも実験を行いました。
スギ花粉にアレルギーを持つ人31名に、花粉を点眼して結膜炎を起こしました(下の写真①)。次に、3週間ミカンの皮入りヨーグルトを1日1回、150ml摂取してもらった後、花粉を点眼して(写真②)、症状の変化を見ました。
その結果、3週間後には、目の充血がほとんどなくなり、眼球結膜の温度上昇も有意に抑えられていました。

この研究から、ミカンの皮とヨーグルトを同時に摂取すれば、花粉症の症状改善に高い効果が期待できるといえます。
アレルギーが起こる機序は同じなので、スギ以外の花粉にも効果はあるはずです。
実は、ヒトでの実験を行った際、被験者の中にアトピー性皮膚炎の人がいて、「ミカンの皮入りヨーグルトをとっている間はアトピーの症状も緩和していた」という声がありました。
そこで、アトピー性皮膚炎を発症させたマウスに、ミカンの皮入りヨーグルトを投与したところ、症状が有意に軽減されるという結果が得られました(下の写真参照)。

今後、ヒトのアトピー性皮膚炎に対する効果についても、研究を進めていく予定です。
ミカン酢を作るなら黒酢がおすすめ
ミカンの皮入りヨーグルトは、商品化されたものが「Nプラスヨーグルト」として、販売されています。愛媛大学の学生が中心となって、地元企業とともに商品開発を行ったものです。手軽にとれて味もよいので、私も気に入っています。
また、ミカンもヨーグルトも手軽に入手できるものなので、手作りしてもよいのですが、ミカンの皮の食感はボソボソして、とても食べ続けられるものではありません。
しかし、別記事で紹介している「ミカン酢」で漬けたミカンを使うと、ミカンの皮と果実が一体化して、おいしく食べることができるそうです。
[別記事:栄養をまるごと食べる!ミカン酢の作り方&活用レシピ→]
ミカン酢ヨーグルトの作り方

❶ミカン酢を作る(上記別記事参照)。
❷漬けたミカンを取り出し、食べやすい大きさに切る。
❸プレーンヨーグルトにのせて、好みでハチミツをかけて食べる。
ミカン酢に使う酢は、アレルギー緩和効果を期待するなら、黒酢がお勧めです。
私は鹿児島の黒酢を使って、やはりアレルギーに対する研究を行っていますが、ヒスタミンの放出を抑えて花粉症を改善する効果や、炎症を抑える効果を確認することができました。
黒酢の成分と、ミカンの皮の成分、ヨーグルトの成分がどのような相乗効果を生むのかについては今後の研究課題ですが、どちらも体にいいものであることは疑いようがありません。
ミカンの皮に含まれるノビレチンには、認知機能を改善する効果も確認されています。
ミカンの皮には他にも、β-クリプトキサンチンといって、骨粗鬆症や糖尿病、動脈硬化のリスクを軽減する物質も豊富に含まれています。
これらの健康効果を見ると、ミカンの皮は、高齢者には特にお勧めの食べ物といえます。なお、ミカンの皮ヨーグルトは、アレルギーに対して即効性はあるのですが、残念ながら、持続性は期待できません。そのため、最低でも1日1回は召し上がることをお勧めします。
1回に食べる量は、ヨーグルト150gに対し、ミカンの皮1個分もあれば十分でしょう。
なお、牛乳アレルギーのある人は、ミカンの皮ヨーグルトはお控えください。
食べ物の機能性は、バランスよく食べるだけではとり入れることは難しく、意識してとることが大切です。ぜひ、ミカン酢ヨーグルトをご活用ください。

この記事は『安心』2021年1月号別冊付録に掲載されています。
www.makino-g.jp