解説者のプロフィール

熊沢義雄(くまざわ・よしお)
医学博士。順天堂大学医学部非常勤講師。前北里大学教授。株式会社Vino Science Japan 代表取締役社長。日本細菌学会の理事・監事を12年間務める。現在はフラボノイドに関する研究とフラボノイドの力を活用するための健康食品の開発を行っている。
慢性炎症が続くほど脳や体の老化は進行する
[別記事:栄養をまるごと食べる!ミカン酢の作り方&活用レシピ→]
「ミカン酢」のミカンは、ぜひ皮ごと食べてください。これから順を追って説明しますが、ミカンの皮には、「慢性炎症」を予防する成分が豊富に含まれているのです。
慢性炎症とは、同じ場所で何度もくり返される刺激によって長い間起こり続けている炎症のことです。
最近の研究で、慢性炎症が血管や臓器の細胞を傷つけ、がんをはじめ、動脈硬化や糖尿病など、さまざまな生活習慣病の引き金になっていることがわかってきました。それどころか、慢性炎症が続くほど、脳や体の老化が進行するのです。
もともと炎症は、体内で起こった異常な状態を元に戻すための防御反応の一つです。
例えば、傷口から細菌が体内に侵入したとします。このとき患部には、細菌と戦う白血球が集まります。それが白血球の一つ、好中球です。
ただ好中球は寿命が短く、どんどん討ち死にします。その死骸の片づけや好中球を助けるために集まるのが、白血球の一種である、マクロファージです。
マクロファージは、周囲の細胞へ「現在、攻撃を受けています」というお知らせも発します。このお知らせは「サイトカイン」という、たんぱく質の一種です。
サイトカインによって臨戦態勢に入った周囲の細胞は、血管を広げたり、リンパ液を集めたりします。これが炎症反応で、傷口の周囲が赤く腫れたり熱を持ったりするのです。
このように、炎症は体を守るための反応で、通常は短期間で治まります。
しかし、ときには炎症が治まらず、長期にわたって体を攻撃し続けることがあります(過剰な炎症)。これが慢性炎症です。
ミカンの成分が慢性炎症を抑制する
サイトカインの中でも、過剰な炎症を起こす最大の旗振り役は「TNF-α」です。関節炎から動脈硬化、アルツハイマー病、がんにも関わります。
TNF-αは、糖尿病にも関わっています。
血液中のブドウ糖(血糖)は、インスリンの刺激で作られる運び屋であるトランスポーター「GULT4」の働きによって細胞へ送られ、エネルギーとして消費されます。
しかし、TNF-αはGULT4を「作るな」という指令を出すのです。これでは血糖値は下がりません。
しかし、ミカンの皮に含まれるヘスペリジンなどのフラボノイドには、体内でこのTNF-αの産生を抑える働きがあるのです。つまり、慢性炎症を抑制することができるのです。
私がフラボノイドの研究を始めたのは、北里大学理学部に所属していた1995年頃です。本来、私の専門は免疫学です。特に、病原菌が持つ内毒素によって起こるエンドトキシンショックという、体のショック症状を研究していました。
実は、エンドトキシンショックにも、TNF-αは関わっています。調べてみると、フラボノイドはこのエンドトキシンショックを抑制することがわかったのです。
関心を持った私は、その後も研究を重ね、2004年には江崎グリコ、久留米大学、北里大学の合同チームでリウマチ患者にヘスペリジン入り飲料を飲んでもらう実験を行いました。
結果は約3割の患者で効果を確認。これは健康食品の作用としては驚きの結果です。
皮の苦味成分が病気への抵抗力をアップ
慢性炎症が抑制できるのなら、高価な薬に頼る必要はありません。病気や老化の進行を防ぐためには、日頃からフラボノイドを積極的にとるべきでしょう。
ミカンの皮には、かんきつ類でも特に強い抗炎症作用と抗酸化作用を持つフラボノイドがバランスよく含まれています。
代表的なフラボノイドであるヘスペリジンは、主に、ミカンの皮の内側やすじなど、白い部分に多く含まれており、血流改善や血管の強化、血圧上昇の抑制などに効果があります。
皮の苦味成分であるチリンジンは、血中脂肪酸の分解や免疫力(病気に抵抗する力)の向上などが、ノビレチンは、がんの抑制やリウマチ、認知症の予防効果が期待できます。
ミカンの皮と実には、フラボノイドだけでなく、天然色素のカロテノイドも豊富です。
中でもβ-クリプトキサンチンは、骨粗鬆症や糖尿病の予防効果が期待できます。
ミカンの皮を食事と一緒にとれば、肝臓に脂肪がたまる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の予防が期待できるという報告もあります。
ぜひミカン酢のミカンを皮ごと食生活に取り入れて、炎症に強い、病気と老化とは無縁の体を手に入れてください。


この記事は『安心』2021年2月号に掲載されています。
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