解説者のプロフィール

前田浩(まえだ・ひろし)
熊本大学名誉教授、大阪大学大学院医学系招聘教授、東北大学特別招聘プロフェッサー、バイオダイナミックス研究所理事長。DDS研究の世界的なパイオニアで第一人者。2016年には、「がん治療における高分子薬物の血管透過性・滞留性亢進(EPR効果の発見)」で、トムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞し、化学部門の世界トップ5に選ばれ、ノーベル化学賞候補に挙がる。研究分野は、高分子薬剤、がんの治療・予防、フリーラジカル(特に活性酸素・NO)、DDSなど。日本がん予防学会会長、日本細菌学会会長、日本DDS学会会長などを歴任。「最強の野菜スープ」シリーズ第3弾『最強の野菜スープ 40人の証言』(マキノ出版)を2021年1月27日に刊行予定。
感染症を重症化させるのは過剰な活性酸素
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が世界中に蔓延し、いまだ予断を許さない状況が続いています。私たちは、感染を防ぐために、引き続きマスクの着用や手洗い、うがいなどを励行すべきです。特に、重症化しやすい高齢者や特定の病気を持つ人は、細心の注意と免疫力を上げる対策が必要です。
皆さん、新型コロナやインフルエンザなどで亡くなるのは、体内に侵入したウイルスによる直接的な攻撃が原因だと思っていませんか?
その実態は必ずしも正しくありません。ウイルスは病状悪化のきっかけに過ぎないのです。
私は、インフルエンザウイルスに感染したマウスをつくり、追跡調査を行ったことがあります。そのとき、死んだマウスの体内には、ウイルスが全く存在していませんでした。
なぜ、ウイルスがいなかったのか。調べてみると、「活性酸素(スーパーオキサイド)」が肺に大量に発生するのと同時に、免疫が暴走(サイトカインストーム。下記URL参照)して、肺炎を起こしていました。
https://www.gentosha.jp/article/16067/
そのとき、一酸化窒素(NO)まで生成されていることがわかりました。NOと活性酸素は直ちに反応して、強力な毒物(ONOO-)になるのです。
マウスやヒトの体には、ウイルスや細菌などが侵入すると、そうした外敵から自身を守る働きがあります。免疫をつかさどる白血球が、ウイルスを退治するために活性酸素を発生し、攻撃します。
ただし、ウイルスが多ければ多いほど、活性酸素は大量に作られ乱射され、細胞を傷つけます。また、ONOO-も細胞を強力に殺傷します。そうした影響が、肺の炎症を起こしていたのです。
つまり、マウスの病状が悪化して死んだのは、増え過ぎた活性酸素が原因ということです。インフルエンザに感染したマウスは、ウイルスそのもので死んだわけではありません。
こうした事実(ウイルスが宿主を殺すのではなく、原因は活性酸素や派生するNOなど)を論文にして、私は科学雑誌『サイエンス』(1989年)や『PNAS(米国アカデミーの刊行物)』(1996年)などに世界で初めて発表しました。
新型コロナの重症化も、インフルエンザと同様です。大量に発生する活性酸素が細胞を傷つけ炎症を引き起こすことが原因です。
一般に炎症局所では、こうした活性酸素の攻撃が問題になります。感染症だけでなく、がんやほとんどの病気、老化にも深く関係しています。
活性酸素とは、通常の酸素が変質したものです。生体の分子(例えば、DNAや酵素)と速やかに反応(結合)して、その働きを失わせるほど攻撃性の強い猛毒物質です。
ウイルス感染以外に、紫外線や放射線、化学物質、タバコ、食品添加物、呼吸で取り入れた酸素からも活性酸素は発生し、細胞や遺伝子を攻撃します。
例えば、がんは活性酸素が遺伝子を酸化させて損傷を与え、正常細胞をがん細胞に変異させることで、段階的につくられていきます。
一方で、私たちは体内で発生する活性酸素をうまく抑制できれば、ウイルス侵入後の発症も、がんを防ぐことも不可能ではないのです。
野菜は生より煮たほうが抗酸化力が高い
では何が、猛毒の活性酸素を抑制し消去してくれるのでしょう。
私は、さまざまな研究を重ね、植物中(野菜)にその働きをする物質が多く存在することを発見しました。その代表が、野菜に含まれる抗酸化物質であるフラボノイドなどの「ファイトケミカル」です。
ファイトケミカルは、植物が紫外線や害虫から身を守るために作り出す化学物質の総称で、植物の色や香り、苦みなどのもとになる成分です。ニンジンやカボチャのカロテン、トマトのリコピン、ホウレンソウのルテインなど、身近な野菜に豊富に含まれています。
残念ながら、ヒトの体内では作ることができません。
植物はファイトケミカルを持つおかげで、太陽光の強い紫外線を受けても活性酸素を消去できます。そのおかげでがんにもならない、と考えられます。
野菜のファイトケミカルといわれるものの中には、ビタミンやフラボノイド、あるいはポリフェノールが含まれており、それらが協同して活性酸素の攻撃を抑制してくれます。
ただし、こうした野菜の有効成分は、かたい細胞壁に守られています。細胞壁を構成する繊維成分(セルロースなど)は、人間の消化酵素では消化できませんし、噛んでもなかなか壊れません。つまり、野菜をそのまま食べても、有効成分を十分に消化・吸収できないのです。
そこでお勧めするのが、「野菜スープ」です(基本の作り方は下項参照)。
野菜の細胞壁は、煮たりゆでたりして加熱することで、壊すことができるのです。煮込んでスープにすることで野菜の頑丈な細胞壁は壊れ、抗酸化物質のファイトケミカルが溶け出します。
私たちの実験では、野菜の活性酸素を消去する力は、生野菜をすりつぶしたものより、野菜の煮汁(スープ)のほうが、10~100倍も強いことがわかっています。
野菜のファイトケミカルは熱に強く、加熱しても分解されません。ビタミンCも同様です。野菜に含まれる抗酸化物質の働きで、ビタミンCが安定化し、壊れにくくなるからです。ジャガイモを30分煮ても、ビタミンCは60%ほど残っています。

腸内の善玉菌が増え、免疫力を強化!
野菜スープをとることは、免疫力を高めることにもつながります。近年の研究で、腸内の善玉菌を優位に保つと、免疫力が上がることがわかりました。野菜スープに多く含まれる水溶性食物繊維や不溶性食物繊維は、いずれも腸内の善玉菌を増やし、免疫力の強化に役立ちます。
さらに水溶性食物繊維には、白血球を直接活性化する働きがあることを、私たちは実験で確認しています。つまり、水溶性食物繊維のたっぷり入った野菜スープは、善玉菌を増やし、白血球を直接活性化するというダブルの効果で、免疫力をアップさせると考えられるのです。
ぜひ、皆さんも野菜スープを習慣的にとり、活性酸素を抑制し、免疫力を高めてください。そうすることが、ウイルス感染の予防につながります。感染したとしても、軽度で済んだり、早期に回復したりすることが期待できます。
また、がんなどの病気を防ぐ一助にもなります。コロナ禍で高齢者や持病があり免疫力が低下している人には、特に野菜スープはお勧めです。
野菜スープの作り方は、とても簡単です。季節の野菜5~6種類を水で煮てスープにするだけです。
材料は、タマネギやニンジン、キャベツ、ホウレンソウ、カボチャ、セロリ、大根葉、トマトなど、身近に手に入る物でかまいません。そのまま食べてもおいしいですし、ミキサーかハンドブレンダーで攪拌し、ポタージュスープにしてとるのもおつなものです。
我が家では、毎日、朝食時に野菜スープを食べています。週に1~3回まとめて作り、冷ましてから小分けにし、冷蔵庫で保存します。食べるときは、そのつど温めます。
皆さんも野菜スープで病気を負けない体になり、元気で幸せな人生をお送りください。
前田先生の
「最強の野菜スープ」とは?
① 野菜は5種類以上
多くの種類を使うことで、異なる抗酸化物質をバランスよく摂取でき、がん予防効果が高まる。栄養価が高く抗酸化物質が豊富な、旬の野菜を選ぶとよい。およそ野菜1:水3になれば、野菜の配合量は好みで調整してOK。

② 調味料は、基本不使用
野菜から出る旨みで、味つけなしでも美味。物足りないようなら、隠し味程度に、塩、黒コショウ、しょうゆ、カレー粉、みそ、梅干しなどを少量を加えてもよい。だしで野菜を煮たり、果物を加えたりしても、味に変化が出る。

③ スープの形状は自由
野菜の形を残した「ゴロゴロスープ」でも、ミキサーにかけてなめらかにした「ポタージュスープ」でも、好みや体調に応じて選んでよい。ちなみに前田先生は、飲みやすいポタージュにして摂取しているそう。

【Q&A】
Q. いつ、どのくらいの量をとるとよい?
A. 1日に1~2回、1食当たり250~300mlとるとよい。前田先生は朝食時に飲んでいる。みそ汁がわりにすると、塩分の摂取量を減らせる。

Q. 保存はどうする?
A. 冷蔵で2~3日保存できる。冷凍も可。1食分ずつ小分けにすると、使う分だけ解凍できて便利。

Q. 野菜の切れ端は?
A. 外葉やヘタ、皮は抗酸化成分が特に豊富。水でよくすすぎ20分ほど漬けおき洗いし、10分煮て、ざるでこすと、野菜だしになる。スープやみそ汁、煮物などに活用を。

基本の「野菜スープ」
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・タマネギ、ブロッコリー、カボチャ、ニンジン、キャベツ…合わせて300g
・水…900ml

野菜はよく洗ってから使いましょう。
【作り方】
❶タマネギは皮をむく。ブロッコリーの芯は、厚めに皮をむく。カボチャは種を取り除く。すべての野菜をひと口大に切る。

❷①を水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。

❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
→ゴロゴロスープの完成!

❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成!

和風だしの根菜スープ

滋味がしみじみ胃に染みわたる!
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・ナガイモ、カブ(葉も使う)、万能ネギ、ニンジン、レンコン…合わせて300g
・カツオ節、刻みコンブ…各10g(不織布の袋に入れる)
・水…900ml
【作り方】
❶ナガイモは皮が気になる場合はむく。カブは実と葉を分け、葉の根もとは切り落として取り除く。万能ネギは根を切り落とす。すべての野菜を、ひと口大に切る。
❷①と、カツオ節とコンブの袋を水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮て、袋を取り除く。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
鶏だしのグリーンスープ

骨つき肉ならエキスがよく出る!
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・タマネギ、ブロッコリー、キャベツ、コマツナ、クレソン…合わせて300g
・鶏手羽中…100g
・水…900ml
【作り方】
❶タマネギは皮をむく。ブロッコリーの芯は、厚めに皮をむく。すべての野菜をひと口大に切る。
❷①と手羽中を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰したら火を弱め、アクを取る。約30分、具材がやわらかくなるまで煮て、手羽中を取り出す。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
※取り出した手羽中は、野菜スープにトッピングしても、ポン酢などで調味して食べてもよい。
※時間があれば、先に手羽中をよく煮て、あとから野菜を入れるとコラーゲンが出るのでお勧め。
タラ入り海のスープ

あら汁に似たおいしさ!ポタージュはトロトロに。
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・生タラ(切り身)…小2切れ(100g)
・ジャガイモ、トマト、マッシュルーム、ホウレンソウ、セロリ…合わせて300g
・水…900ml
【作り方】
❶タラは骨と皮が気になる場合は取り除く。ジャガイモは皮をむく。トマトはヘタを、マッシュルームは石突きを取り除く。ホウレンソウは根を切り落とす。すべての野菜をひと口大に切る。
❷①を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
鶏肉入りコク旨スープ

肉ごとミキサーにかけて介護食としても美味。
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・鶏むね肉…100g
・タマネギ、アスパラガス、トマト、チンゲンサイ、パセリ…合わせて300g
・水…900ml
【作り方】
❶タマネギは皮をむく。アスパラガスは皮がかたければむく。トマトはヘタを取り除く。鶏むね肉とすべての野菜を、ひと口大に切る。
❷鶏むね肉を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約10分煮てから野菜を入れ、さらに約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
キノコ入り山のスープ

滋養たっぷり!サラリとした食感
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・シイタケ、マイタケ…合わせて100g
・タマネギ、赤パプリカ、ブロッコリー、白菜、セロリ…合わせて200g
・水…900ml
【作り方】
❶シイタケとマイタケは石突きを取り除く。タマネギは皮をむき、赤パプリカはヘタと種を取り、ブロッコリーの芯は、厚めに皮をむく。すべての野菜をひと口大に切る。
❷①を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
豆入りゴロゴロスープ

食べごたえあり、おなか大満足!
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・ミックス豆(ゆで・缶)…100g
・大根、ニンジン、ゴボウ、インゲン、セロリ…合わせて200g
・水…900ml
【作り方】
❶すべての野菜をひと口大に切る。
❷①と豆を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
→ゴロゴロスープの完成
❹③が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
牛乳入りシチュー風スープ

ミルキーなまろやかさで野菜の甘みが引き立つ。
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・タマネギ、カリフラワー、カボチャ、ニンジン、レンコン、水菜…合わせて300g
・牛乳…200ml
・水…700ml
【作り方】
❶タマネギは皮をむく。カリフラワーの芯は、厚めに皮をむく。カボチャは種を取り除く。すべての野菜をひと口大に切る。
❷①を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
❹③に牛乳を加え、ひと煮立ちさせる。
→ゴロゴロスープの完成
❺④が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
果物入りショウガスープ

甘酸っぱいなかにピリッ!複雑な味わいが新鮮。
【材料】(出来上がり目安量=1L弱)
・リンゴ、キウイフルーツ…合わせて100g
・タマネギ、ニンジン、レタス…合わせて200g
・おろしショウガ…10g
・水…900ml
【作り方】
❶タマネギとキウイフルーツは皮をむく。リンゴは芯を取り除く。すべての野菜と果物をひと口大に切る。
❷①を、水とともに鍋に入れ、ふたをして火にかける。
❸沸騰しそうになったら火を弱め、約30分、具材がやわらかくなるまで煮る。
❹③におろしショウガを加え、ひと煮立ちさせる。
→ゴロゴロスープの完成
❺④が冷めてから、ミキサーかハンドブレンダーで撹拌・粉砕する。
→ポタージュスープの完成
■料理/MICHIKO(料理研究家・食養生士)、スタイリング/北舘明美

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。
www.makino-g.jp