解説者のプロフィール

永野正史(ながの・まさし)
練馬桜台クリニック院長。1985年、佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)卒業。三井記念病院にて内科研修医、内科腎センター医員を経て、92年に敬愛病院内科勤務。96年、敬愛病院副院長を務めた後、2003年に練馬桜台病院を開業(内科・透析・健診)。近著に『感染がいやならおなかを温めなさい』(マキノ出版)など。
▼練馬桜台クリニック(公式サイト)
「免疫」とは病原体を撃退する体のしくみ
新型コロナウイルス(COVID-19。以下、新型コロナ)が、いまだに世界中で猛威を奮っています。また、これからの季節、インフルエンザにも注意しなければなりません。インフルエンザも重症化リスクと死亡リスクが高い、恐ろしい感染症です。
新型コロナも、インフルエンザも、なるべく感染しないよう、日ごろから手洗い、うがい、マスクの着用など、予防措置に努めることが重要です。
そのうえで、多くの医師が推奨しているように、「免疫力を高めておくこと」が有効です。免疫力が高ければ、新型コロナやインフルエンザの感染を防ぐことが可能です。
私たちの体には、体内に侵入してきた細菌やウイルスを撃退する「しくみ」が備わっています。それが免疫と呼ばれるもので、「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類に大別されます。
自然免疫とは、体内に侵入してきた病原体の種類にかかわらず、血液内の白血球などが病原体を攻撃するしくみのこと。
この自然免疫から逃れた病原体に対して働くしくみが、獲得免疫です。獲得免疫は、免疫細胞から送られてきた「ウイルスが来たぞ」という情報をもとに、それに対応した抗体(免疫グロブリン)を作って、病原体を攻撃します。
獲得免疫は、免疫システムの最後の砦であり、ここを病原体に突破されると、その病気に感染・発症してしまうのです。

ただ、新型コロナの場合、人類にとっては未経験の「新型のウイルス」なので、獲得免疫はあまり当てになりません。必然的に浮かび上がってくるのが、「どんな敵でも選ばずに攻撃してくれる、自然免疫にがんばってもらうしかない」ということです。
自然免疫においては、未知の新型コロナも攻撃対象になります。だからこそ、ふだんから免疫力を高めて、自然免疫の働きを十分に発揮できる環境を整えておくことが重要なのです。たとえ抗体がなくても、自然免疫の働きによって、新型コロナの感染を防ぐことができます。
また、もし新型コロナに感染してしまった際も、免疫力が高ければ、スムーズに抗体を作りだすことができます。
では、免疫力を高めるには、どうすればいいのでしょうか。
とても簡単な方法があります。それは「おなかを温めること」です。
体温が最も低くなる就寝中の冷えを回避
自然免疫と獲得免疫のどちらにおいても、非常に重要な働きをしてくれる免疫細胞があります。それが、白血球の一種である「マクロファージ」と呼ばれる細胞です。
マクロファージは、脳や皮膚、肝臓、肺などに分布していますが、その大多数は、おなかの中(腹腔内)に存在します。
このマクロファージの弱点は「冷え」です。マクロファージは、1~2度おなかが冷えただけで、その働きが衰えます。つまり、免疫力を低下させないためには、おなかを冷やさないことが重要なのです。
おなかを温める手段として、私が強くお勧めしたいのが、「腹巻きをすること」です。
腹巻きは、いつでもどこでも、おなかを温めることができます。副作用もありません。さらに、安価で入手しやすいので誰でも気軽に始められる最高の免疫力アップ術といえます。
やり方はとても簡単です。
❶寝る前に腹巻きをつける(肌着や寝間着の上から)
❷そのまま眠る
ヒトの体温が最も低くなる就寝中に腹巻きをすることで、マクロファージの弱点である「冷え」を回避し、その働きをよくすることができます。
腹巻きにも、いろいろな種類や素材があります。まずは、寸胴型のスタンダードタイプを選びましょう。素材はなんでもかまいませんが、最初は綿で作られた薄手の腹巻きから試してください。
腹巻き選びで大切なのは、伸縮性。なるべく、ゆったりとしたサイズを選んでください。きつ過ぎると、おなかを締めつけられて不快に感じる人もいるはずです。毎日続けるためにも、自分に合った、着け心地のいい腹巻きを使いましょう。

伸縮性のある着け心地のいい物を選ぶ
腹巻きで免疫力が高まることは、私の臨床経験上でも明らかです。
私のクリニックには、人工透析を受けている患者さんが、常時150人います。以前は、毎年、肺炎などの感染症で亡くなる人が5~10人いました。人工透析は、腎臓が弱った人の最後の治療法です。患者さんは、免疫力も低下しているため、感染症にかかりやすいのです。
2009年に、私は〝腹巻きキャンペーン〟と称して、患者さんに腹巻きを勧めました。
すると、その年から現在まで、腹巻きをして、感染症で亡くなる患者さんは、ゼロになったのです。また、感染症が引き金になる、肺炎を併発するケースも激減しました。これこそ、腹巻きで免疫力が高まる証といえるでしょう。
新型コロナもインフルエンザも、基礎疾患がある人ほど重症化しやすいことが知られています。新型コロナの場合、特に気をつけてもらいたいのが、心血管系疾患、糖尿病、高血圧、呼吸器系の疾患、がんです。
これらの病気を抱えている人は、持病が悪化しないよう努めつつ、腹巻きをして、免疫力を高めておきましょう。
また、免疫力は加齢によって衰えることも判明しています。衰えた免疫力を補うためにも、腹巻きが役立ちます。
このコロナ禍で身についた新習慣に、ぜひ腹巻きを加えて、この苦難を乗り越えましょう。

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。
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