患者さんから「先生、私、治りそうな気がしてきました」といわれることがあります。がん治療において、「気持ちの持ち方」は極めて重要です。具体的には、いい意味での「開き直り」や、絶対治るという「プラス思考」、「笑い」などが挙げられます。実際、このような患者さんは高い確率で治るのです。【解説】真柄俊一(素問八王子クリニック院長)

解説者のプロフィール

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真柄俊一(まがら・しゅんいち)

素問八王子クリニック院長。1939年、新潟市生まれ。64年、新潟大学医学部卒業。産婦人科医、第一生命医事研究室勤務を経て、2003年に自律神経免疫療法によるがん専門医院、素問八王子クリニックを開業。食事療法、刺絡療法、メンタルケアなどを柱としたがん治療に定評がある。全日本鍼灸学会会員。著書に『がんは治療困難な特別な病気ではありません!』(イースト・ プレス)など多数。
▼素問八王子クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

「笑い」が遺伝子をコントロールする

[別記事:免疫機能を整えるセルフケアの4本柱→

私はがんの患者さんの初診時に、3時間ぐらい時間をかけてがんの説明を行います。すると終盤に、患者さんから「先生、私、治りそうな気がしてきました」といわれることがあります。実際、このような患者さんは高い確率で治るのです。

逆に、がんになって、「自分はダメだ。もう助からない」などと悲観的になっている人は、なかなかよくなりません。がん治療において、「気持ちの持ち方」は極めて重要です。

これまでの研究で、がんを進行させる方向に働く悪い遺伝子(がん促進遺伝子)と、がんを治す方向に働くよい遺伝子(がん抑制遺伝子)の2種類の遺伝子があることがわかっています。

親からもらった遺伝子が、悪い遺伝子だった場合、運が悪かったとあきらめるほかないというのが、従来の考え方でした。健康状態は遺伝子が決定していると思われていたのです。

しかし、アメリカの細胞生物学者のブルース・リプトン博士がそれは間違いであることを証明しました。その研究成果は、「エピジェネティクス」と呼ばれています。

エピジェネティクスとは、「環境が遺伝子の活動をコントロールしている」という考え方です。つまり、環境を変えることによって、よい遺伝子のスイッチをオンに、悪い遺伝子をオフにすることも可能だということです。

そして、このよい遺伝子のスイッチをオンにする有力な因子の一つが、気持ちの持ち方なのです。具体的には、いい意味での「開き直り」や、絶対治るという「プラス思考」、「笑い」などが挙げられます。

志澤喜久先生という医師の貴重な体験を紹介しましょう。彼は、私と同じ新潟大学の卒業生で、7年後輩にあたります。

1996年に「反射性交感神経性ジストロフィー」という難病にかかり、症状が進行した結果、1日のうちで起き上がれる時間が1時間ほどになり、診療も続けられなくなりました。

回復の見込みもないなか、志澤先生は「笑い療法」の存在を知り、笑いに頼ってみることにしました。ビデオやラジオで落語や漫才を聞き、朝晩必ず、鏡に向かって笑顔で大きな声で笑う練習をくり返したのです。

根気よく続けたところ、1年半後には、しだいに筋力が回復。ついには仕事にも復帰できました。回復する人はいないと考えられる難病なのに、今も元気で仕事をしておられます。

笑いによってよい遺伝子のスイッチがオンになったのです。

画像: 笑うと免疫が高まる!

笑うと免疫が高まる!

心の持ち方を変えることで改善した例も

がんも例外ではありません。「がんの自然退縮」という現象があります。

これは、がんが発見されたあと、これといった治療を受けなかったにもかかわらず、自然に消失する現象です。医師から見放されて治療をやめた患者さんでも、「絶対治る」という思いを持つことで、がんが消えるケースがあるのです。

こうした現象も、心のあり方とエピジェネティクスから説明できるでしょう。開き直ったり、絶対治ると思い込んだりすることが、よい遺伝子のスイッチをオンにして、免疫力が高まる。そして我々が本来持っている自然治癒力によって、がんが消えていく、というわけです。

こうしたことから、がん治療においても、私は、常にメンタルケアを重視し、患者さんにも「絶対治る気持ち」を強く持つことを勧めています。同時に、食事療法なども併せて実践することが大事です。

メンタルケアと食事療法をいっしょに行うことで、よい遺伝子のスイッチをオンに入れやすくなり、免疫力もより高まってくると考えられます。

[別記事:がん専門医がすすめる食事→

こうした治療の結果、驚くような事例が多数ありました。

●大腸がんが肝臓に転移したAさん(女性・77歳)
Aさんは大腸がん(S字結腸がん)術後、肝臓に転移が認められ、ラジオ波焼灼手術や抗がん剤などの治療を受けるも、3度の再発があって、2007年に来院されました。当初は、表情も暗く、前院からの紹介状には、つらい闘病生活が続いた影響か、「統合失調症の疑いあり」と記載されていました。

そこで、Aさんには食事療法や刺絡療法に加え、メンタルケアに力を入れた治療を実施。「必ず治ると信じること」がいかに大切か、心の持ち方を変えることで、がんが治癒した例を来院されるたびにお話ししました。そして、Aさんより重い病状の患者さんのお話などをしていたら、しだいに表情が明るくなってきたのです。

その後、Aさんの高かった腫瘍マーカーは正常化し、現在に至るまで再発の兆しは全くありません。統合失調症の疑いありというのが信じられないほど、大変元気になられました。

●膵臓がんと胃がんのBさん(女性・92歳)
Bさんは、77歳のとき膵臓がんと胃がんの多重がん(別々に発生した複数のがん)で、6時間にも及ぶ大手術を受けました。しかし、術後「再発の危険性はあるが、高齢なので抗がん剤の使用はできない」といわれ、余命半年の宣告まで受けました。

そこで当院に来院。私は、抗がん剤は患者の免疫を落とすと考えていますから、「抗がん剤なしでよかった」と話して、早速、治療を始めました。膵臓がんは生存率の低いがんとして知られていますが、Bさんは余命半年といわれた時期をなんなく生き延び、14年以上経った今もとてもお元気です。

いつも前向きにポジティブに生きること。よく笑うこと。それが免疫力を高め、多くの病気に打ち勝つ秘訣といっても過言ではありません。

画像: この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。

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