解説者のプロフィール

真柄俊一(まがら・しゅんいち)
素問八王子クリニック院長。1939年、新潟市生まれ。64年、新潟大学医学部卒業。産婦人科医、第一生命医事研究室勤務を経て、2003年に自律神経免疫療法によるがん専門医院、素問八王子クリニックを開業。食事療法、刺絡療法、メンタルケアなどを柱としたがん治療に定評がある。全日本鍼灸学会会員。著書に『がんは治療困難な特別な病気ではありません!』(イースト・ プレス)など多数。
治療の大きな柱が食事療法
[別記事:腸と心を整えよ!免疫アップの極意を名医が指南→]
日本ではこの70年、がんによる死亡率が年々上昇してきました。一方、欧米では30年前からがん死亡率が下降し続けていることをご存じでしょうか。
欧米でがん死亡率下降への契機の一つとなったのが、『マクガバンレポート』です。
1970年代のアメリカでは、がんなどの現代病が増え続けて国家の財政を圧迫していることが大きな問題となり、国民の栄養と病気の関係について、徹底的な調査が行われました。
それをまとめたマクガバンレポートでは、がん、心臓病などのアメリカの6大死因といわれる病気が、現代の間違った食生活が原因で起こる「食原病」であると結論づけられました。
がんなどを招く間違った食事とは、肉食中心の食事です。欧米では、こうした食事の間違いを理解した人が増えたので、がんの死亡率が減少したのです。
ところが戦後の日本では、急速に肉食中心の食事へと変化し、それが最近はますます加速しています。
近年のゲノム(遺伝情報)の研究により、ヒトの祖先がチンパンジーであることが証明されました。チンパンジーがふだん食べているのは、草や樹木の葉などです。つまり、ヒトの祖先は草食動物といっても大きな間違いではありません。
草食動物であるヒトが肉を食べたらどうなるか。遺伝子の働きが悪化し、がんや生活習慣病などが発現しやすくなります。
私のクリニックは、がん専門のクリニックとして患者さんの治療にあたっています。その治療の大きな柱となるのが食事療法で、多くのがん患者さんが快方に向かっています。
では、私が指導する食事療法のポイントを説明しましょう。
❶ 動物性食品はとらない
第1に、がんの最大の原因である肉や乳製品などの動物性食品を極力食べないことが大原則です。魚は、肉ほど悪くはありませんが、少なめに摂取してください。
動物性たんぱく質とがん発症の関連性については、米国コーネル大学名誉教授のT・コリン・キャンベル博士の多くの研究で証明されています。
動物性食品をとらなくても、たんぱく質の摂取不足を心配する必要はありません。緑黄色野菜や果物、穀物などの植物にも、たんぱく質は十分過ぎるほど豊富に含まれています。
❷ 野菜と果物を積極的に食べる
植物には、非常に多くの種類の栄養素が含まれています。それらをまとめてファイトケミカルと呼びます。微量な物まで入れると1万種類以上あり、その全部が私たちに必要です。
ファイトケミカルは、活性酸素を抑制する抗酸化力が強く、免疫力を高めてくれますから、野菜や果物はどんどんとってください。
私は、できる限り生で食べることを推奨しています。野菜に含まれるビタミンや酵素をしっかりとるためです。ただし、ニンニクとキノコ類は必ず加熱してください。
野菜をスープなどにしてとる場合、有効成分が汁の中に溶け出しているので、スープは残さず飲みましょう。
野菜や果物に含まれるカリウムも重要です。カリウムをとることで、塩分(ナトリウム)の排出が促されます。
私の食事療法では、ナトリウムを減らし、カリウムを増やします。尿中のカリウムに対するナトリウムの割合を見ると、日本人の平均値は3.8。これを0.1以下に近づけると、進行したがんでも消える可能性が高くなります。
その理由を簡単に説明します。がん細胞のなかのナトリウムが少なく、カリウムが多い状態になると、アポトーシスという、自身の細胞を自殺させる機能が働きます。つまり、がん細胞が死亡するのです。
ヒトはチンパンジーや類人猿であった大昔から、毎日1万mgものカリウムを摂取していたと考えられます。ところが現在では、1日分の推奨量4700mgを摂取している人は2%以下であると、わかっています。
このような大事なことを医師が指導していないから、がんで死ぬ人を減らせないのです。
未精製のものをそのまま味わう
❸ 精製された食品(白米・小麦など)を控え、加工食品は禁止
精製された白米や小麦はやめ、かわりに未精製の玄米や大麦、雑穀、全粒粉などをとります。保存料や発色剤、着色料など、さまざまな毒性を持つ添加物が使われている加工食品は、食べてはいけません。
❹ 無塩・味つけはしない
調理には塩を使いません。がんの患者さんも、最初は無塩の食事には抵抗を感じる人が多いようです。しかし、治るためには無塩を心がけるべきです。
塩分過多が、胃がんをはじめとしたがんの原因になっていることはよく知られています。塩は動脈の内皮細胞を傷つけ、その結果として動脈硬化が進み、高血圧へ、さらに心筋梗塞や脳梗塞などまでを引き起こす有力な要因にもなります。
最初のうちは、無塩の食事が味気なく感じられるのは確かです。しかし、3週間我慢すると、舌の味蕾細胞が生まれ変わります。野菜や果物の素材そのものの味を感じ取れるようになり、塩分の多い食品は逆に受けつけなくなります。
がん専門医・真柄先生の
「食事療法のポイント」
❶動物性食品はとらない
魚は少なめならとってよい。
❷野菜や果物を積極的に食べる
生でとることを推奨(ニンニクとキノコ類は加熱)野菜スープは汁を残さない。
❸精製された食品(白米、小麦など)を控え、加工食品は禁止
未精製の玄米、大麦、雑穀、全粒粉を推奨。
❹無塩・味つけはしない

この記事は『壮快』2021年2月号に掲載されています。
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