解説者のプロフィール

安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)
2003年に米国のナショナルアンガーマネジメント協会にてアンガーマネジメントを学び、日本に導入。同協会で1500名以上在籍するアンガーマネジメントファシリテーターの中でも15名しか選ばれていない最高ランクの「トレーニングプロフェッショナル」に、米国人以外で唯一選出されている国内の第一人者。企業、官公庁、教育委員会、医療機関などで数多くの講演、研修などを行う。厚生労働省「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の委員も務める。『あなたの怒りは武器になる』(河出書房新社)、『あなたのまわりの怒っている人図鑑』(飛鳥新社)など著書多数。
不安や不満で社会にマイナス感情が充満
最近、過度にイライラ、ピリピリして、他者の行動にまで不寛容な人が増えています。
新型コロナウイルスのパンデミック(感染爆発)に加えて、怒りやイライラのパンデミックまで起こっているような、一触即発の状況に、ストレスを覚えている人も多いのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染症によって、突然、これまで当たり前だった日常が奪われました。予定や計画も全て台無しとなり、経済活動も停滞。未知の病気への恐怖と、先行き不安、自由な活動を制限されることへの不満が蔓延する中、
「自分よりも我慢していない」ように見える人への怒りやイライラとなって、マグマのようにあちこちで噴出しているのです。
怒りや許せないという気持ちの発生は、ライターの火とよく似ています。ライターは着火石という部品をこすり合わせ、発生した火花を燃料のガスに着火させます。
ガスに当たるのが、不安や苦しみなど、その人が持つ「マイナスの感情」と、寝不足やストレスなど「マイナスの心身の状態」です。
そこに「○○すべき」「○○するのが常識」という自分の信念(コアビリーフ)に反する出来事が起こると、着火石に摩擦が起こり、火花が散ります。
マイナス感情とコアビリーフへの抵抗。この二つの要素がそろったときに、怒りという感情が燃え上がるのです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策の一環として、不要不急の移動の自粛や人の集まる店舗への休業などが呼び掛けられる中、「自粛(マスク)警察」「他県ナンバー狩り」といった残念な新語が生まれるほどトラブルが続出したことも、記憶に新しいところです。
コロナ禍によって、社会全体にマイナス感情が通底したことで、他県ナンバーの車やマスクをしていない人、営業をしている飲食店などを誹謗中傷したり、ひどい場合は石を投げるといった危害を加えたりするような、行き過ぎた「怒り」が頻発したのです。
問題は、怒りの炎は、他者だけでなく、自分自身も傷つける両刃の剣だということ。
新型コロナウイルス感染症が重症化しやすい理由として「サイトカインストーム(本来は体をウイルスなどから守るための免疫のしくみが暴走して、自分自身の細胞まで攻撃してしまう現象)が挙げられるそうです。
度を越した「怒り」の表出というのは、いわば「心のサイトカインストーム(免疫暴走)」を起こした状態であり、自分自身の身を焦がし、大きなトラブルや遺恨を残しかねないことを認識しておく必要があります。
怒りは安直に楽しめる「孤独な貧乏人の娯楽」
こうした状況をさらに助長したのが、人間関係の希薄化です。お互いが皆知り合いで、密接な関わりを持つ「村社会」の中では、怒りをあらわにするのは大きなリスクです。
怒りで頭に血が上ってやり過ぎたら、家族や友人から距離を置かれたり、職を失ったりしかねません。よほど自分が優位に立っていなければ、自分自身にも攻撃が跳ね返ってきます。
そうした「失うもの」の大きさが、むやみに怒ることを抑制してきた側面があります。
しかし、インターネット社会となり、匿名性によって自分が守られている状態であれば、どれだけ理不尽に怒りを発散しても、自分は傷つかずに済むようになりました。
その空間では、誰もが「無敵の人」(人からの信用や社会的地位、財産、仕事など失いたくないものを持たないために、犯罪行為への抑止が効かない人を指すインターネットスラング)になってしまいやすいのです。
身もふたもない言い方をすれば、「怒りは、孤独な貧乏人にとっての最高の娯楽」です。
特に日頃、居場所がない、話を聞いてもらえない、寂しい人が、いちばん安直に、お金をかけずに楽しめるのが、配慮なく「怒り」をまき散らしているときなのです。
しかも、怒っている間は、「自分は正しいことを言っている、している」という自尊心や満足感が生まれ、共感が得られれば承認欲求も満たせます。
相手を屈服させ、自分が優位に立ったような感覚も得られます。相手が自分よりも「恵まれた人」であれば、その喜びはさらに大きくなります。
こうした刺激は強いもので、ジャンクフードのように「やめられない、止まらない」状態に陥ります。実際にはなんの生産性もなく、人生の役に立たない、無駄な時間だったとしても、延々と怒りのネタを探して群がる「怒りジャンキー(中毒者)」となってしまうのです。
こうした「怒りジャンキー」への対処法は、「相手にしない」のが一番です。それが難しい場合は、下項の怒りのタイプ別診断結果を参考に、「怒りの裏に隠された感情」を知ることで、対処しやすくなるはずです。
合わせて、自分が陥りやすい「怒りポイント」も確認しておきましょう。
「人のフリ見て我がフリ直せ」。「お互いさま」の気持ちが、社会全体の不満ガスを減らすことにつながるのですから。
怒りのタイプ別診断テスト
下記の12の質問に、次の点数で回答してください。
・全くそう思わない= 1点
・そう思わない= 2点
・どちらかというとそう思わない= 3点
・どちらかというとそう思う= 4点
・そう思う= 5点
・強くそう思う= 6点
Q1.世の中には守るべきルールがある!人はそれに従うべきだ。 | 点 |
Q2.物事は納得がいくまで突き詰めるべきだ。 | 点 |
Q3.自分がやっていることは正しい。 | 点 |
Q4.自分が決めた計画や手順通りに進まないと気持ちが悪い。 | 点 |
Q5.性善説(人間の本性は基本的に善である)よりも性悪説(人間の本性は悪であり、善に至るにはたゆまぬ努力が必要)の方がしっくり来る。 | 点 |
Q6.自分がよいと思ったものは、世間でも人気があることが多い。 | 点 |
Q7.モラル(道徳・倫理)を保つことはとても大切だ。 | 点 |
Q8.人や物事の好き嫌いがはっきりしている方だ。 | 点 |
Q9.自分のことを周囲の人がどう考えているかが気になる。 | 点 |
Q10.心配ごとが多い方だ。 | 点 |
Q11.石橋をたたいて渡る慎重派だ。 | 点 |
Q12.後先考えずに行動に移すことがよくある。 | 点 |
下記の合計点が一番高かったのがあなたの怒りのタイプです。
Q1+Q7 =⃞点 → Aタイプ
Q2+Q8 =⃞点 → Bタイプ
Q3+Q9 =⃞点 → Cタイプ
Q4+Q10 =⃞点 → Dタイプ
Q5+Q11 =⃞点 → Eタイプ
Q6+Q12 =⃞点 → Fタイプ
Aタイプ
行き過ぎた「正義の味方」タイプ

【特徴】
道徳やマナーを重んじ、曲がったことが大嫌いです。同じことを他者にも求めるので、人に厳しい視線を向けがちになります。
これが高じると、ルールやマナーから外れた人が許せなくなり、「間違っている人には何をしてもよい」とエスカレートすることも。
過度に癇に障る「誰かのルール違反」は、「自分も本当はやりたいのに(人目があるから)我慢していること」である場合も多いのです。
【アドバイス】
特撮ヒーローたちは、「悪の組織」を暴力的に(しかも往々にして多数で少数を)排除しようとしますが、それを現実世界に持ち込むのはトラブルの元です。
そもそも価値観やなにが「正義」かは、その人の立場や経験によって様々。マナーやルールも、文化や時勢、世代によってあっさりひっくり返ることがよくあります。安易に「正義」を振りかざすと、後に自分の首を締めることになりかねません。
気になることがあっても、まず「何かそうせざるを得ない事情があったのかも」と他者に寄り添って考えてみましょう。
【このタイプの人に出会ったら】
このタイプの人は、基本的に「自分が絶対に正しい」と思い込んでいるため、相手の話を聞きません。お互いの「正義」をぶつけ合うのは、火に油。思い込みに基づく事実誤認も多いですが、思い込み部分には触れず、極力事実の部分だけに絞った対応を。
Bタイプ
思い込みの激しい「断定」タイプ

【特徴】
全てが「オール オア ナッシング」。敵か味方か、よいか悪いか、何事にも白黒をつけたがり、「どちらとも言えない」とか「場合による」といった、あいまいな判断に強い不快感を感じます。
「絶対」「いつも」「ありえない」といった決めつける言葉が口癖になっていることも。
異なる意見を言われると、自分を否定されたように感じ、「あなたの価値観を押し付けないで」と怒ることもあります。
しかし、そういう自分こそが価値観の押し付けをしている矛盾には気づきません。
【アドバイス】
「自分はこう思うけど、他の見方もできるのではないか」と、別の可能性を考える癖をつけることをお勧めします。
他者の個性を認める社会は、自分の個性を認めてもらえる社会でもあります。そんな社会をつくるために、まず自分から他者の個性や意見を受け入れる姿勢を持ちたいものです。
優柔不断な人にイライラしたときは、「複雑で豊かな感性の持ち主だから、決められないのだ」と大らかに捉えましょう。
【このタイプの人に出会ったら】
このタイプは多様化する価値観に反発を覚えているため、問題に対するあなたの結論が「どちらでもいい」なら、どちらか「これ」と決めて答えてしまうのも手です。「私の考えは違うけど、あなたの考えも認める」と告げておくと、納得してくれやすいかもしれません。
Cタイプ
立場の上下にこだわる「プライド」タイプ

【特徴】
「自分は人より優位にいる」という自負があり、プライドも高め。職業や年収、住んでいる地域など、偏った価値観で人をランク付けするのを好みます。
それゆえに自分が「見下されている」「大切に扱われていない」と感じると、激しい怒りを覚えます。
この特徴が悪い方へ出ると、自分より立場が下で、逆らいにくいと見た相手に、理不尽な態度に出ることも。お店や企業にささいなことでクレームをつけるのは、このタイプが多いです。
【アドバイス】
自分が上の立場だと常にアピールしたくなるのは、自信のなさや気の小ささの裏返しでもあります。
でも、誰かをおとしめて優越感に浸ったところで、自分より上の人が現れれば、劣等感に苦しむことに。比較はほどほどにして、素のままで、自信が持てることを見つけましょう。
人によってはパワハラなど会社や家庭で不当に扱われ、そのストレスを、より弱い立場の他者にぶつけていることもあるようです。思い当たる人は、相談機関や知人など周囲の力を借りて、そちらを解決することに力を注ぎましょう。
「お客さまは神様です」と、客側が言うのはナンセンスです。
【このタイプの人に出会ったら】
相手が優位性を感じている価値観の土俵に乗らず、対抗しないのが鉄則。対応するときには、最初に相手を立てていったん話を聞く姿勢を持ってもらうのがポイントです。ただし、相手が落ち着いた後は、必要以上に低姿勢を取らないように、是々非々で対応しましょう。
Dタイプ
融通のきかない「心配症」タイプ

【特徴】
このタイプは、「変化」に対して融通とか臨機応変な対応を求められるのが苦手で、新しいことや初めての体験に強い不安を覚える人が多いです。
そのため、自分が決めたルールや手順にもこだわり、そこから逸脱して失敗のリスクを取らされることに、強い怒りを覚えます。
人の意見を聞き入れない傾向もあり、他者を怒った後に思い違いを指摘されても、まだ怒り続けることも。「自分は正しい」という思いが強く、相手は自分の言う通りに動いて当然だと思い込みやすいです。
【アドバイス】
「自分なりのやり方」を持つことが悪いわけではありませんが、それを他人にまで押し付けないように気を付けましょう。「多様性の時代」と言われる現代は、「今まではこれでよかった」ことが日々通じなくなっていきます。
2020年6月に通称「パワハラ防止法」が施行されましたが、「自分ルール」では「指導」のつもりの言動が「パワハラ」となりかねません。
周囲の状況が変わっていく中では、「変わらないこと」もまたリスクとなります。自分が覚える「怒り」の底にある不安感と向き合ってみましょう。
【このタイプの人に出会ったら】
かたくなにこだわる気持ちの裏にある、「豊富な選択肢から正解を見つけるプレッシャー」に理解を示してあげると、かたくなさが少しマシになるかもしれません。選択肢を絞り、先の見通しや、万一の場合の解決方法を含めて説得するのがお勧めです。
Eタイプ
かまってちゃん化する「他責」タイプ

【特徴】
自分の思い通りにならない現状への不満を、他人や社会に責任転嫁していて、「あいつはずるい」「自分が損させられている」という被害妄想が怒りの底にあります。
他者からの評価に敏感で承認欲求が強いため、SNSなどの匿名性のある状態では、過激な怒りを発散しがちです。
一方で、ふてくされたりいじけたりすねたり「どうせ私なんて」と卑下しているように怒りを表現し、「そんなことないよ」と他者からの承認や賞賛を引き出そうとする「面倒くさい」人も多いです。そのため、ますます周囲から親しい相手がいなくなる悪循環に陥ります。
【アドバイス】
「人の不幸は蜜の味」と言われますが、他人が不幸になることと、自分の幸福度とは別個の問題。自分を取り巻く状況が変わるわけではありません。
成功している人は、人知れず努力をしているもの。人をねたむより、自分ができることを頑張って自己肯定感を高めるか、「足るを知る」ことが幸せへの近道です。
このタイプは、ある意味、観察力や洞察力のある人。あら探しと不平で終わらせず、「実際の改善につながる行動」を取るといいでしょう。
【このタイプの人に出会ったら】
前向きな姿勢でストレス発散に協力すると、相手も気分が切り換えやすくなります。いじけた態度をとられたり、愚痴を聞かされそうになったりしたら、「5分だけストレス解消に協力する」と、時間を区切るといいでしょう。
Fタイプ
粗暴で横暴「イライラ垂れ流し」タイプ

【特徴】
自分だけ嫌な目に遭うのが不公平に感じて、怒りやイライラを周囲にまき散らせば、自分の不快感が分散されて軽減するように感じています。
そのため、人目もはばからず物に当たったり、乱暴な態度で怒りを示したり、無関係の人の前で舌打ちや大声を出して不機嫌さをアピールすることもあります。
自分の非を指摘されると、逆ギレしやすいのもこのタイプの人。不利になると、ますます激しく怒りをアピールすることで、相手を威嚇し委縮させて、自分を守ろうとします。
【アドバイス】
当人にとっては、悪いのは「自分を怒らせる」人や出来事だと考えているため、不愉快な気持ちを周囲に垂れ流して、「被害者アピール」をしていますが、無関係な周囲にとっては迷惑極まりない行動です。周囲からの冷たい目線に、本人もますますイライラが募ることになってしまいます。
こういう人にこそ「アンガーマネジメント」のテクニックがお勧め。無性にイライラが募ってしまったときには、とりあえず6秒、他のことをして心を落ち着かせてみましょう。
【このタイプの人に出会ったら】
まき散らされた不快感を受け取らず、見なかったふりをして速やかに距離を置きましょう。「私はあなたの不快感に興味も持っておらず、共感もしません」と態度で表すのが最善です。
■イラスト/高橋陽子

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp