解説者のプロフィール

田中勝(たなか・まさる)
田中鍼灸指圧治療院院長。1948年北海道出身。鍼、灸、あんまマッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あんま、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
加齢で起こる不調は「腎の弱り」が原因
便秘の人は、例外なく「腎」が弱っています。ここでいう腎とは、中医学から見た、腎臓を含め、体内の水分をつかさどる働きを指します。
中医学では「腎は二便をつかさどる」と説明しています。「二便」とは、「小便」と「大便」のこと。腎の働きで尿が出るのは、誰しも納得するところでしょう。しかしそれだけでなく、大便の排泄にも、腎は関わっているのです。
50代のある男性患者さんは、「飲み会が続いて、味の濃い食事が増えると、便秘になる」とおっしゃっていました。これは塩分をとり過ぎたことで、腎が弱り、便秘になる典型的なパターンです。ときどき便秘になる人は、この患者さんと同様、塩分過多で、腎が弱ったのかもしれません。
年を取ると、便秘に悩む人が増えるのも、腎が弱るせいです。便秘だけでなく、「加齢に伴って起こる症状は全て、腎の弱りから起こる」と中医学では考えています。
その治療法として効果的なのが、腎の経絡(けいらく)の上にある、ツボへの刺激です。
経絡とは「気(一種の生命エネルギー)」の通り道のこと。中医学では、「気の巡りがスムーズであれば健康を保てる」と考えています。
そこで、気の出入り口であるツボを刺激して、気の詰まりを取ります。すると、経絡の気の流れが整い、症状が改善へと向かうのです。
背中のツボはテニスボールで刺激
では、腎臓の経絡上で、便秘に効くツボはどこかというと、腎兪(じんゆ)と下髎(げりょう)です(下図参照)。順に説明しましょう。

①腎兪
へその裏側、背骨から指幅2本分、外側に左右一対ある。
ちょうどへその裏側の、背骨の両端にあります。ここは便秘に最も関係が深いツボです。ある60代の女性患者さんは、このツボに鍼を打ったところ、ものすごい量の大便が出て、驚かれていました。
②下髎
お尻にある逆三角形の骨(仙骨)の下端に左右1対ある。
仙骨の下側の両端にあるツボです。内臓に不調がある場合、「その真後ろに効果的なツボがある」という原則があり、それに該当するツボとなります。このツボを刺激すると、たいていの患者さんのおなかが、すぐに動き出すほどで、ほぼすべての便秘に効きます。
腎兪と下髎はどちらも背中にあり、自分で正確に探し当るのが難しいツボです。あおむけに寝て、テニスボールを押し当て、おおよその位置を刺激してみてください。テニスボールをゴロゴロと転がし、特に痛みやこりが強い場所があれば、そこが特効ツボです。

【共通の押し方】あおむけに寝て、ツボにテニスボールを押し当て、ゴリゴリと5分ほど押圧する。圧痛に左右差がある場合は、痛い方を重点的に行う。反対側も同様に刺激する。
手足のツボも便秘や下痢に有効
この他、便秘に効果的なツボは、他にも2つあります。下巨虚(げこきょ)と合谷(ごうこく)です。

③下巨虚
足のすねの外側、ひざと足首の中間の高さの筋肉の際にある。
ひざと足首の中間の高さで、すねの外側の筋肉の際にあるツボです。実は、大腸と関連するすねのツボは他にもありますが、私の経験上、便秘には、下巨虚の方がよく効きます。下巨虚は、胃の経絡上にあるツボで、小腸と関係が深く、肛門にも関わっています。そのため、腸全般の調子を整えるのに、有効なのかもしれません。
いすに座り、片足をもう一方の足の上にのせた姿勢でツボを押すと、刺激しやすくなります(やり方は下図参照)。

【押し方】いすに座り、片足をもう片方の足にのせる。手の中指でツボを押し、他方の手を重ねて刺激する。反対側も同様に刺激する。

④合谷
手の親指と人さし指の骨が交差する位置より、1指幅分だけ人さし指寄りに上がった骨の際にある。
手の親指と人さし指の骨が交差する付近にあるツボ。便がたまっていると、合谷にこりが見つかることがあります。合谷は大腸の経絡の「原穴」(各経絡の重要なツボ)に当たります。ですから、便秘に高い効果があるのです。

【押し方1】親指と人さし指で、反対側のツボを指圧する。

【押し方2】テーブルに両ひじをつき、片手で反対側の手を包み込むようにして、ツボを指圧する。
どのツボも症状が重い人ほど、押したときに強烈な痛みを感じるでしょう。しかし、その激痛こそ、「このツボは効く」というサインですから、最低でも1分は押し続けましょう。
なお、早い人で30秒、通常は2~3分程度押し続けると、痛みが軽減してきます。これは気の詰まりが取れてきた証拠です。痛みに左右差がある場合は、痛い方をより長く押しましょう。
これらのツボは便秘だけでなく、下痢など、腸の症状全般に有効です。腸を整えるために、継続して行うといいでしょう。ぜひお試しください。

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。
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