調べてみたところ、日本人の実に8割に腸のねじれがみられ、その影響で便秘が多いことがわかったのです。ねじれ腸は生まれ持った体質なので治すことはできませんが、ご安心ください。ねじれ腸による便秘は、適切な運動やマッサージでをすることで、驚くほど簡単に解消できます。【解説】水上健(国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

水上健(みずかみ・たけし)

国立病院機構久里浜医療センター内視鏡部長。慶應義塾大学消化器内科非常勤講師(便秘外来担当)。1965年福岡県生まれ。専門は大腸内視鏡検査・治療、過敏性腸症候群(IBS)、便秘の診断と治療。自身が開発した無麻酔大腸内視鏡挿入法「浸水法」は、スタンフォード大学・UCLAなどをはじめ国内外で広く導入されている。慢性便秘症診療ガイドライン作成委員。小児の診療にも力を入れている。 

便秘の人の大半は腸がねじれている

日本には、便秘の人が非常に多くみられます。便秘による腹痛やおなかの張り、ガス腹、痔に悩んで、下剤に手を出す人が世界的に見ても非常に多いことが問題になっています。

私は、苦痛の少ない大腸鏡検査法を開発しました。大腸鏡というと、痛くて苦しい大変な検査と思っている方は多いと思いますが、下図の「正常な腸」のような大腸の形の人なら、痛みを感じることもありませんし、検査する側にとっても簡単です。

では、どうして痛く苦しいというイメージがついてしまったのでしょうか? それは日本人の腸が、おなかの中でグルグルとねじれているからです。そして、便秘の人の大半は、腸がねじれているのです。

ねじれ腸」とは、このような「ねじれがある腸」のことです。正式な医学用語ではなく、この現象をわかりやすく伝えるために私が命名しました。

画像1: 便秘の人の大半は腸がねじれている
画像2: 便秘の人の大半は腸がねじれている

私がねじれ腸に気づいたきっかけは、国内外で行った大腸の内視鏡検査です。ドイツで100人以上の大腸検査をしましたが、ドイツ人の大腸は解剖図通りの形で、内視鏡もスムーズに入ったことには、本当にびっくりしました。

興味を持って調べてみたところ、日本人の実に8割に、腸のねじれがみられ、その影響で便秘が多いことがわかったのです。つまり、腸がねじれていて内視鏡が入りにくい人は、便も出にくかったのです。

ただし、日本人の便秘体質には以下の3タイプがあります。

けいれん性便秘タイプ

便が少なくコロコロ便が出やすいタイプ。旅行や季節の変わり目などで出なくなりやすいのですが、このタイプは、消化吸収力がずば抜けて高く、便が少ないだけなので、痛みやおなかの張りがなければ、1週間以上出なくても大丈夫なことがあります。

ねじれ腸便秘タイプ

腸のねじれによる便秘で、腹痛を伴います。この体質は、日本人の約8割に見られます。

直腸性便秘タイプ

トイレを我慢し、排便のスイッチがオフになって起こる便秘です。浣腸をして、規則正しい排便習慣をつけることで治ります。

ねじれ腸は治らないが便秘は簡単に治る

このうち、圧倒的に多いのがねじれ腸による便秘です。特に、下記の項目に当てはまる人はねじれ腸が疑われます。

【ねじれ腸チェック】

□ 子ども時代から便秘だった
□ 腹痛を伴う便秘がある
□ 便秘の後、下痢・軟便になることがある
□ 運動量が減ると便秘になりやすい

これらに当てはまる人は、「ねじれ腸を治したい」と思われるでしょうが、ねじれ腸は生まれ持った体質なので、残念ながら治すことはできません。

しかし、ご安心ください。ねじれ腸による便秘には、今すぐできる効果的な治療法があります。

それは、適度に腸を刺激できる運動やマッサージを行うことです。

実は、ねじれ腸があるだけでは便秘にはなりません。「ねじれ腸+運動不足」という2つの条件が重なったときに、便秘になるのです。

逆に言うと、適切な運動をすることで、ねじれ腸による便秘は、驚くほど簡単に解消できます。

その運動として最も効果的なのは、「ラジオ体操第一」です。ねじれ腸による便秘に効果的なひねりの動作が多く含まれていますし、全身の体調を整える効果もあります。

私自身も数年前からラジオ体操第一を、毎朝行っています。おかげで、便通はもちろん、全身が快調です。

とはいえ、体調によっては、ラジオ体操第一をできない方もいるでしょう。その場合は、「大腸押し上げマッサージ」(下項参照)がお勧めです。

これは以前、テレビ番組で紹介したところ、大きな反響がありました。「信じられないほど便が出た」という視聴者からの電話が、病院にかかってきたほどです。

私もたまたま便秘になったときに試したところ、いきなり2kgもの便が出て仰天しました。

なお、最近、病院で処方される便秘薬には、体に負担をかけずに便秘が改善できる、非常によい薬があります。運動やマッサージの効果が十分でない場合は、医療機関で受診し、最初のうちだけでも適切な薬を処方してもらうのもよいでしょう。

大腸押し上げマッサージのやり方

【注意!】脈動するものに手が当たったら、力を抜く!
おなかには太い血管(大動脈)が走っています。マッサージの途中で、ドクドクと脈を打っているものに触れたら、すぐに力を抜き、そこは押さないようにしましょう。

あおむけに寝る。このとき、腰の下に厚さ5cmほどのクッションなどを敷くと、下がった腸が元の位置に戻りやすくなるのでお勧め。ひざは軽く曲げる。

画像1: 大腸押し上げマッサージのやり方

両手を恥骨のすぐ上に置く。おなかが少しへこむくらいの力で、おなかを持ち上げるように両手を揺らしながら、へその下まで移動する。ねじれた大腸をゆさゆさ揺らして押し上げるイメージで行う。5回行う。

画像2: 大腸押し上げマッサージのやり方

両手を右足の付け根に当て、②と同じ要領で、おなかを揺らしながら手を上へと移動させる。へその高さまで来たら、また足の付け根に戻り、同様に5回行う。終わったら、左側も同様に行う。

画像3: 大腸押し上げマッサージのやり方

体をねじろう!ひねろう!

画像: 【便秘改善マッサージ】ねじれた腸を揺するようにもむ 「ラジオ体操第一」の体をひねる動作もおすすめ

一番のお勧めは「ラジオ体操第一」ですが、それに加え、こまめに上体をねじったり、ひねったりしましょう。やり方は簡単。両手を左右に大きく広げ、上体を左右に90度ずつひねるだけ。息を吐いたときに、体がねじれているとやりやすいでしょう。

では、このマッサージでねじれ腸便秘が改善できた例をご紹介しましょう。

10代の頃からおなかが痛くなる便秘だったAさん(60歳・女性)は、30代でさらにひどくなり、刺激性便秘薬を飲み続けていました。腹痛や残便感と便秘後の下痢に悩まされていましたが、大腸押し上げマッサージを行ったところ、薬なしで規則的な排便がつくようになりました。

Bさん(40代・女性)は、3〜4日に1回しか便通がなく、腹痛を伴うので受診されました。少量の緩下剤を服用するとともに、大腸押し上げマッサージを行ったところ、便は毎日出るようになり、腹痛も解消しました。

手軽にできる運動やマッサージで、ぜひ、ねじれ腸による便秘を解消してください。

最後になりますが、40歳以降に発症した便秘には、大腸がんなどの病気が隠れていることがあります。念のため病院で相談することをお勧めします。

画像: この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。

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