足や腰に激痛、しびれが起こる脊柱管狭窄症。そのとき体の中で何が起きているのか、その症状や治療方法、さらに、セルフケアから具体的な手術の内容まで、「せぼねの名医」伊藤全哉先生に教えていただきました。【回答】伊藤全哉(あいちせぼね病院院長)

回答者のプロフィール

画像: 回答者のプロフィール

伊藤全哉(いとう・ぜんや)

あいちせぼね病院院長。1998年、名古屋大学医学部卒業。名古屋第一赤十字病院、国立長寿医療研究センター、Emory spine center(米国)、名古屋大学医学部付属病院等を経て、伊藤整形・内科あいち腰痛オペクリニック副院長。2017年、脊椎のあらゆる病気に対応する専門病院としてあいちせぼね病院を開院。年間900件以上の腰椎脊柱管狭窄症の手術を行っている。

Q1. 脊柱管狭窄症とはどういう病気ですか?

A1.
背骨(脊柱)の後ろ側にある神経の通り道(脊柱管)が、周囲の組織に圧迫されて狭まることで、痛みやしびれなどの神経症状を起こす病気です。

背骨は、「椎骨(ついこつ)」と呼ばれる骨が、24個積み重なってできています。椎骨は、腹側にある円柱状の「椎体」と、背側にある突起状の「椎弓」から構成されています。

画像: 背骨(脊柱)の構造

背骨(脊柱)の構造

この椎体と椎弓の間には穴(椎孔)が開いていて、椎骨が積み重なることでトンネル状の道「脊柱管(せきちゅうかん)」を作っています。

画像: 椎骨の構造

椎骨の構造

脊柱管には脳からつながる中枢神経(脊髄)が通っていて、椎弓の突起の隙間から全身につながる末梢神経を出し、脳からの指令を体に伝えたり、体からの情報を脳に伝えたりしています。

こうした神経自体が圧迫されて炎症を起こしたり、周辺の血管が圧迫されて、神経が酸欠や栄養不足になったりするために、うまく働かなくなります。それが、痛みやしびれ、感覚異常などの神経症状を起こすのです。

神経症状の現れ方によって、どこで狭窄が起こっているか、ある程度は見当をつけることができます。頸椎(首の部分の背骨)で狭窄が起こっていれば「頸髄症」、胸椎(背中部分の背骨)なら「胸髄症」、腰椎(腰の部分の背骨)なら「腰部脊柱管狭窄症」と呼ばれます。

ただし、MRI(核磁気共鳴画像法)などで脊柱管に狭窄が確認されても、症状が出ていなければ、治療の必要はありません。

次項からは、腰部脊柱管狭窄症について説明していきます。

Q2. なぜ脊柱管が狭窄してしまうのですか?

A2.
脊柱管狭窄症を起こす原因として最も多いのは、椎弓と椎弓をつないでいる黄色靭帯の肥厚です。

黄色靭帯は、脊柱管の背側(椎弓側)にあり、加齢の他、重いものを持ち上げるような動作をくり返し行うことで肥厚しやすくなります。

画像: Q2. なぜ脊柱管が狭窄してしまうのですか?

そのため、前かがみの姿勢を取ると黄色靭帯が伸びて薄くなり、脊柱管の狭窄が改善して神経症状も和らぎます。

言い換えれば、背中を反らす姿勢は黄色靭帯がより脊柱管を押し込んでしまうため、痛みが強く出やすいのです。悪化すると、まっすぐ立ったり、あおむけで寝たりするだけでもつらくなってきます。

画像: 前かがみになると黄色靭帯が伸びて薄くなり、脊柱管の圧迫が弱まる。

前かがみになると黄色靭帯が伸びて薄くなり、脊柱管の圧迫が弱まる。

画像: 背中を反らすと黄色靭帯が縮んで厚くなり、脊柱管の圧迫が強くなる。

背中を反らすと黄色靭帯が縮んで厚くなり、脊柱管の圧迫が強くなる。

その他、椎体と椎体の間でクッションの役割をしている「椎間板」が変形したり、椎骨がずれたり、骨が変形してできたとげのような出っ張り(「骨棘」)が脊柱管を圧迫することで、脊柱管の狭窄を起こすこともあります。

これらを脊柱管狭窄症に含める医師もいますが、それぞれ「椎間板ヘルニア」「腰椎すべり症」「変形性脊椎症」などの症状名で、診断されることが多いです。

Q3. 脊柱管狭窄症ではどのような症状が現れますか?

A3.
間欠性跛行、座骨神経痛、下肢のしびれ・脱力・ほてり、排尿・排便障害が代表的な症状です。

脊柱管狭窄症では、狭窄した場所そのものよりも、狭窄により圧迫されている神経が通っている部位に症状が現れます。

そのため、腰自体よりも、尻から足の裏にかけての下肢に、症状が現れやすいのが特徴です。

最も多いのが「間欠性跛行」です。歩いているうちに、腰から下にうずくような痛みやしびれ、脱力感が出て歩いていられなくなります。

しばらくしゃがんで前かがみになった姿勢で休憩を取ると回復するので、また歩き出せるようになりますが、しばらく歩くとまた痛みで歩けなくなり休むというのをくり返します。

下肢の症状は、神経が圧迫されている位置や強さによって、さまざまです。

ビリビリッとした鋭い痛みからチリチリ、ジンジンとしびれるような痛みが出る、筋肉に力が入らない(脱力)、足が上がりにくい、足の裏に何かが引っ付いたような違和感がある、足の裏や陰部に異様な灼熱感・冷感が起こる、こむら返りを起こしやすいといった症状が現れることもあります。

特に重症になると、頻尿や尿・便失禁といった排尿・排便障害が起こります。この場合はできるだけ速やかに手術を行う必要があります。

画像: 脊柱管狭窄症の代表的な症状

脊柱管狭窄症の代表的な症状

Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

A4.
「保存療法」から試していき、改善が見られなければ「手術」を行います。

自分の腹筋や背筋を鍛えて「筋肉のコルセット」を作り、脊椎の負担を軽減する「運動療法」や、医療用のコルセットやサポーターを着用して脊椎の負担を軽減する「装具療法」。

画像1: Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

鎮痛薬による「薬物療法」では、一般的な非ステロイド性消炎鎮痛薬で痛みや炎症を抑える他、症状に合わせて神経性疼痛治療薬や筋肉の緊張を取る薬、血行を促進する薬、神経賦活薬、抗うつ薬などを補助的に使うことがあります。

画像2: Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

これらで改善しなければ、「神経ブロック注射」を行います。強い痛みの原因となっている神経のすぐ近くに、局所麻酔剤を注射で注入します。

麻酔によって痛みを伝える信号をブロックするだけでなく、筋肉の緊張を取ったり、血管を広げて血行をよくしたりする効果があります。効果は麻酔が切れた後にも続き、これだけで症状が改善する場合もあります。

画像3: Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

神経ブロック注射でも症状が改善しなければ、手術を検討することになります。

Q5. 手術にはどのような方法がありますか?

A5.
大きく分けて「除圧術」と「固定術」があります。

以前は、背中を10cmほど大きく切開して手術を行っていたため、3週間~1ヵ月程度の入院が必要でしたが、現在は低侵襲(体への負担が少ない)の内視鏡手術が主流となり、入院期間もかなり短縮されてきています。

除圧術は、神経を圧迫している骨や靭帯を削り取り、脊柱管を広げる手術です。背中側から1.5cm程度切開して、椎弓と椎弓の隙間に針を差し込み、徐々に太い筋拡張管に変えながら穴を広げてい、中を内視鏡で確認しながら、神経を圧迫している骨や靭帯をドリルや鉗子で削り取ります。

画像: 椎弓の間に操作管を差し込み骨や靭帯を削り取る「除圧術」。

椎弓の間に操作管を差し込み骨や靭帯を削り取る「除圧術」。

一般的には直径16~18mmの操作管を用いるため、約1週間の入院と1ヵ月程度のリハビリが必要になります。

しかし、私の病院では、脊柱管の狭窄が1ヵ所であれば直径7mmの操作管を用いる「経皮的内視鏡下脊柱管拡大術(PEL)」、2ヵ所以上でも直径10mmまでの操作管で行う「内視鏡下脊柱管拡大術(MEL)」で、手術が可能(自費診療・一部保険適応)です。

画像: 一般的な直径16㎜(右)の操作管と直径7㎜(左)の操作管

一般的な直径16㎜(右)の操作管と直径7㎜(左)の操作管

直径18mmと10mmでは、面積は3倍以上異なります。操作管が細いほど医師に求められる技術は高くなりますが、骨や筋肉、靭帯の損傷や血管や神経への接触が少ないので、患者さんの体の負担は軽く、2泊3日(PELは最短1泊2日も可能)の入院で済み、手術後のリハビリも不要です。

特に高齢者の場合、「安静状態が1週間続くと筋力が10~15%落ちる」と言われていますので、早く日常生活に戻れるというのは大きなメリットなのです。

ただし、PELは特に高度な技術が求められるため、この術式が行えるのは日本国内ではまだ数施設しかありません。

もう一つの固定術は、除圧術を行った後、狭窄を起こしている部位の上下の椎骨にスクリュー(ネジ)などを左右2本ずつ計4本とネジを固定するパーツを設置して椎体間を固定し、脊椎を安定させる手術です。

画像: ネジで椎骨を固定する「固定術」

ネジで椎骨を固定する「固定術」

こちらも一般的には10cm以上の切開でおよそ2週間の入院が必要でしたが、内視鏡を用いることで、低侵襲に3cm程度の切開を5ヵ所、1週間の入院で行えるところが増えてきました(低侵襲腰椎後方椎体間固定術=MIS-TLIF)。

当院では、さらに小さく1.5cmの切開を4ヵ所で固定を実施できるため、4泊5日で退院することが可能です。

Q6. 手術を受けたのに足にしびれが残りました。どうしたらよいですか?

A6.
神経の損傷が大きい場合、手術で圧迫を取り除いても、痛みやしびれが残ることがあります。

残念ながら15%ぐらいの割合で、手術後も痛みやしびれが残ってしまう患者さんがいます。すでに神経自体に傷がついてしまっているため、そもそもの原因であった圧迫を取り除いても、神経の過敏反応が止められなくなっているのです。

こうした場合は、薬物療法(特に神経性疼痛治療薬や神経賦活剤)や神経ブロック注射を行いながら、神経の回復を待つことになります。

神経賦活剤としては、ビタミンB12がよく用いられます。ビタミンB12はアサリやシジミ、カキなどの貝類やイワシ、カツオなどの魚、肉(特にレバー)に多く含まれていますから、普段の食事にも積極的に取り入れるとよいでしょう。

また、脊椎の負担を減らすために、腹筋と背筋を鍛えるのも有効です。ポイントは、肋骨の下から骨盤の上までの部分を曲げ伸ばしせず、まっすぐに保ったままエクササイズを行うこと。

下記のやり方を参照してください。

お尻上げ体操

画像: お尻上げ体操

ひざを立ててあおむけに寝て、肩からひざまでが一直線になるようにお尻を持ち上げる。3秒キープしたら元の姿勢に戻り、10回くり返す。
※手で床を押さない。
※骨盤の上から肋骨下部までは常にまっすぐに保つ。

おへそのぞき体操

画像1: おへそのぞき体操

ひざを立ててあおむけに寝て、おへそをのぞき込むように体を起こしたら、元の姿勢に戻るのを10回くり返す。
※肩が少し上がればOK。首を曲げすぎないように注意。
※一般的な腹筋のように背中が上がり、骨盤の上から肋骨下部の間が曲がってしまうのはNG。

画像2: おへそのぞき体操
画像: この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。

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