「マスクのせいか、最近聞こえが悪い」。これは、軽度難聴を見つけるチャンスです。早めの耳鼻科の受診でできるだけ聞こえの状態を把握することが大切で、難聴の進行の抑制にもつながります。聞こえの悪さを気にして会話を避けていると、認知症のリスクも高まります。【解説】平野浩二(ミルディス小児科耳鼻科院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

平野浩二(ひらの・こうじ)

ミルディス小児科耳鼻科院長。東北大学医学部卒業。聴覚障害者の手話による診療を長年行い、その延長で聴覚情報処理障害(APD)に出合う。APDのサイトを立ち上げ、その啓発に努めるとともに、年間200人ほどのAPD患者を診察する。著書に『聞こえているのに聞き取れないAPD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』(あさ出版)がある。

難聴の人にとってマスクは大問題

「近頃、人の言葉が聞き取りにくいな」「『えっ』と聞き返すことが増えたような気がする」。皆さんの中に、そんなふうに感じている人はいないでしょうか。

実は、「人の話が聞き取りにくくなった」という訴えが、最近、急に増えています。

その1つの理由は、「マスク」にあると私はにらんでいます。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、今やマスクは欠かせないものになりました。その影響が、思わぬところにまで出ています。マスクによって、「聞き取り」に苦労する人が増えているのです。

難聴のない健常者であれば、マスクをして話しても、会話に困ることはあまりありません。よほどのささやき声などは別ですが、通常の音量の会話なら、マスク越しでも十分聞こえるからです。

しかし、難聴のある人にとって、マスクは大問題です。

私は、もともと専門が難聴であることから、難聴の患者さんを多く受け持っており、友人にも難聴の方が多くいます。その方たちが一様に訴えるのが、「本当にマスクには悩まされる」ということです。

普段から口の動きを読んでいる重度の難聴者の場合は、マスクで口元が隠れることで、コミュニケーションの手段が奪われることになります。

それに対しては、今後、社会全体で解決策を見つけなければなりませんが、今回、取り上げたいのはまた別の問題です。

それは、高齢者に多い「軽度の難聴」に関することです。

これまで、日常的な会話なら不自由なくできたお年寄りが、皆がマスクをする世の中になったことで、聞き取りに苦労するケースが多くなっているのです。

マスクだけでなく、アクリル板のついたてやビニールの仕切りなども、聞こえづらさに影響しています。フェイスシールドなども同じです。

これは、軽度の難聴の人にとっても厄介な問題となります。

軽度の難聴の場合、自分が難聴であるということに気づいている人は少ないのです。そのため、「理由をよく認識しないまま、聞こえの悪さに悩まされる」ことになります。

その結果、「聞こえが悪くなったから、あまり人と話したくない」「外に出かけるのがおっくう」などと感じ、活動性を失ってしまう人が多いのです。

病院でも、医師の話がよく聞こえないのに、「何度も聞くと悪いから」と、理解があいまいなまま返事をしてしまう人もいます。これは、薬の服用法や生活上の注意などを把握しないことにもつながります。

現在のような「マスク時代」になって、聞こえが悪くなったと感じている人は、すでに軽度の難聴がある可能性があります。

「マスク越しだから、聞き取りにくいのは仕方がない」と軽く捉えずに、まずは早めの耳鼻科の受診をお勧めします。適切な検査や診療を受けて、できるだけ聞こえの状態を把握することが大切です。早めの対処が、難聴の進行の抑制にもつながります。

現在は、高性能で使いやすい補聴器もあるので、必要に応じて使うのもよい方法です。

補聴器は、かなり聞こえが悪くなってから使うより、少し早めに使い始めるほうが、快適に使いこなせます。

嫌がる人も多い補聴器ですが、適切に使う方が、むしろ若さを保てる便利なツールでもあるのです。

聞こえの悪さは隠れた難聴を見つけるチャンス

画像: 「聞こえにくい」を放置せず早めの受診を!

「聞こえにくい」を放置せず早めの受診を!

また、コロナ対策のせいで、認知症や寝たきり、うつなどのお年寄りも増えてきています。

中でも私が危惧しているのは、マスクの影響が大きいことに気づかないまま、聞こえの悪さを苦にして、引きこもり気味になるお年寄りが、これから急増するのではないかということです。

「認知症の発症や進行を防ぐには、人との会話が最も効果的」という研究結果もあります。つまり、聞こえの悪さを気にして会話を避けていると、認知症のリスクも高まるということです。

それだけでなく、外に出かける機会が減れば、足腰も弱りやすくなります。ちまたで言われる「コロナうつ」のように、さらなる精神的な落ちこみにもつながります。

聞こえが悪くなることの弊害は、そんなところにも現れるのです。

「マスクのせいか、最近聞こえが悪い」。これは、軽度難聴を見つけるチャンスです。

聞こえの悪さを放置しないで、早めの対処をし、コロナに負けず、いつまでも会話や外出を楽しんでいただきたいと願っています。

画像: この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.