解説者のプロフィール

森田茂人(もりた・しげと)
モリタ整体院総院長。1990年モリタ整体院を開院。MCメディカル系列院の総院長。延べ28万人の施術を行う。手技により筋肉・骨格のこわばりを取り、ゆがみを整えて自然治癒力を高めている。『膝痛解消!神の手を持つ13人』(現代書林)で紹介される。
がんばり屋ほど不調を起こしやすい
新型コロナウイルスの感染が収まらない中、当院に来られるお客さまにも変化が起こっています。原因不明のめまい、耳鳴り、難聴などの症状を訴える人が増えているのです。同じような状況は、東日本大震災のときもみられました。
どちらにも共通するのが、ストレスです。強いストレスを受けると、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスがくずれて平衡感覚が乱れたり、耳の奥の内耳がむくんだりして、耳の症状が出やすくなるのです。
私の分析では、まじめでがんばり屋の人ほど、その傾向が強いようです。大変な状況の中で、1人でがんばってストレスをため込んでしまうと、心労(脳疲労)が積み重なって、めまいや耳鳴りが起こってしまうのです。緊張の糸がプツンと切れたときが、特に危険です。
私は東日本大震災の後、こうしためまいや耳鳴り、難聴を治す方法はないかと試行錯誤し、「耳たぶあんま」(正式名称は「耳もみ整体」)を考案しました。
耳をもむと、なぜこれらの症状の改善に役立つのでしょうか。理由は以下の通りです。
①血行がよくなり、内耳のむくみが取れる
私は、原因不明のめまいや耳鳴りの多くは、内耳の血行不良で起こると考えています。血流が悪いと、内耳や聴覚細胞に酸素が届かなくなり、細胞の代謝が低下して、機能が落ちます。
また、リンパ(体内の余分な水分や老廃物、毒素などを運び出す体液)の流れも悪くなるので、三半規管に水がたまり、内耳がむくんできます。これが西洋医学でいう「内リンパ水腫」で、治療法として、利尿剤が処方されます。
耳をもむと血流がよくなり、内耳の酸欠の改善に役立ちます。さらに、耳は脳に近いところにありますから、耳をもむと脳の疲れも緩和され、自律神経を整える効果も期待できます。
また、東洋医学では、耳は五臓の一つである「腎」と深い関係があると考えます。腎は尿を作るところですから、耳をもむと腎が刺激されて利尿作用が高まります。これも、耳の不調の改善に役立つと考えられます。
②周囲の筋肉や血管がゆるむ
頭部を横から見ると、耳は首につながっており、頭と顔に隣接しています。つまり、耳は首、頭、顔の境目にあり、その真ん中に位置しているのです。
耳の周囲には、重要な筋肉や血管、リンパ管が集まっています。耳をもむと、それらを一気にゆるめることができ、血流がよくなります。
耳は、ちょうど巾着袋の口のような存在と考えることができます。巾着袋の口をゆるめれば、周囲の布も一気に広がります。そんなイメージを持ちながら、耳をもむといいでしょう。
耳の硬さが取れると症状もらくになる
耳たぶあんまのやり方は、下項の通りですが、大事なポイントが一つあります。それは「笑顔を作りながら、耳をもむ」ことです。
めまいや耳鳴りのある人は、たいてい顔がこわばり、暗い表情をしています。ストレスや心配事が多く、楽しいことを考えられなくなっているのです。
私は、お客さまの耳をもむとき「目尻と眉間をゆるめ、口角を上げてください」と言って、意識的に笑顔を作ってもらいます。
こうして笑顔を作ると、だんだん心が軽くなり、楽しいことを思い浮かべられるようになります。その状態で耳をもむと、効果が早く現れるのです。
私はこれまで、たくさんの人の耳に触ってきましたが、体調の悪い人ほど耳が硬く、もむと痛がります。
ところが、耳をもむうちに硬さがだんだん取れてきて、もむのが気持ちよくなってきます。それとともに体調もよくなり、めまいや耳鳴りが改善していきます。

笑顔を作りながら行おう
新型コロナの影響で、ステイホームをしている間に耳鳴りになった学校の先生がいました。「コロナに感染したら大変だ」という心配や、仕事や生徒たちに対する心労、運動不足による血流不足などが原因だと思います。
マスクの影響もあるでしょう。常時マスクをつけていると耳の付け根が圧迫されて、周囲の血流が悪くなります。それが耳鳴りや聞こえの悪さを招いている可能性もあるのです。
ですからこういうときこそ、耳をよくもんでほぐし、血行をよくすることが大事です。
耳鳴りやめまいが治りにくい人の中には、いつ耳鳴りやめまいが起こるか不安で、自分で症状を探してしまう人がいます。こうなると、耳鳴りやめまい自体がストレスになって、そこから抜け出せなくなります。
何かに夢中になっているときは、耳鳴りも聞こえないものです。そういう気分転換できるものを見つけ、体を動かし、十分な睡眠をとることも、症状の改善にはとても大事です。
耳たぶあんまのやり方
【POINT】
●片方ずつ行っても、両方一度に行ってもOK。笑顔を作りながら行うと効果がアップする。
●1日に何回でも、いつ行ってもよい。入浴中やお風呂上がりに行うと、血流がよりよくなる。
●症状が片方の側にしかない場合も、両側に行う。
●気圧の変化で頭痛がするなどの気象病の改善にも、非常に効果的。

❶指の腹全体を使って、耳を前後に素早く10往復こする。

❷耳の付け根を親指と人さし指で挟み、後ろに10回回す。

❸耳の後ろの付け根部分の下に親指の腹を当て、指を少しずつずらしながら、下から上に押しもみしていく。

❹耳輪(耳の際で内側に丸まった部分)を広げるように伸ばす。3回行う。

❺耳を放射線状に引っ張り、よく伸ばす。5ヵ所くらいに分けて、各5回ずつ引っ張る。

❻耳珠(耳の顔側の付け根にある出っ張り)をもみほぐす。10秒行う。

❼耳を顔側に倒し、耳の裏側を伸ばす。次に、耳上部は下に、耳たぶは上に倒して、耳の裏をまんべんなく伸ばす。3ヵ所を各3回ずつ行う。

❽耳の上下をつまみ、2つ折りにする。5回行う。

❾耳を2つ折りにしたまま、後ろに回す。5回行う。

❿耳たぶの裏の凹みにあるツボ「翳風」に親指を当て、他の4指は側頭部に軽く当てる。親指でツボを押しながら、側頭部をゆるめるように4指を後ろに回す。5回行う。

⓫小鼻の膨らみのわきで、押して圧痛がある場所(迎香というツボ)に中指を当て、同じ側の手の親指の腹を耳の後ろの付け根部分の下に当てる。中指で迎香を押しながら、親指の腹で耳の後ろの付け根を、下から上に押しもみしていく。

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp