解説者のプロフィール

マスジマトモコ
東京都江東区にある、天然酵母のパンとおやつの店「はつたもの」店主。20代前半で自然食に目覚め、動物性食品や化学製品を一切とらない生活をスタート。2007年に天然酵母と出合い、「ウエダ家」などで天然酵母の作り方を学ぶ。2010年、現在の店をオープン。100%植物性で、砂糖や化学製品を一切使わないおやつや、天然酵母で作るパンを販売している。
▼「はつたもの」ネットショップ
ショウガが苦手でもおいしく食べられる
料理に爽やかな風味をつけ、多くの健康効果も期待できるショウガ。しかし、「ショウガを一つ買うと、最後まで使い切れない……」という人も多いのではないでしょうか。
そんな人は、ぜひ「発酵ショウガ」をお試しください。
作り方はとても簡単。皮ごとすりおろしたショウガを瓶に詰め、冷蔵庫で2週間以上放ったらかすだけです(詳しい作り方は下項に)。
発酵ショウガの特長は、何といっても保存期間の長さ。発酵しているため、半年~1年の間は、おいしく使うことができます。忙しいときの料理中や、飲み物に少量足すときに、いつでもパパッと使えるので、とても便利です。
しかも、ショウガの刺激や香りもマイルドになり、うま味も増します。そのため、ショウガの風味が苦手な人でも、おいしく楽しめるはずです。
私がこの発酵ショウガを作り始めたのは、10年ほど前のこと。発酵講座などを主宰している「ウエダ家」の天然酵母と出合ったことがきっかけでした。
ここで酵母について学び始めたときに、ショウガも発酵することを知りました。さっそく試してみたところ、長期保存の利く、おいしい発酵ショウガができたのです。
実は私は、昔からショウガの刺激が苦手。料理に使うようになったのは、30歳を過ぎてからです。それでも、ショウガ好きの夫のために使っていただけで、あまり積極的には入れていませんでした。
そんな私でも、発酵ショウガはおいしくいただけました。それから10年以上、発酵ショウガを作り続けています。

「はつたもの」で使用している発酵ショウガ
コクが出るので減塩にも役立つ
発酵ショウガのもう一つの魅力は、和洋中問わず、いろいろな料理に使えること。わが家では、青菜のおひたしや煮魚、蒸し豚をはじめ、炒め物や炒飯、パスタ、トマト系の煮込み料理など、何にでも発酵ショウガを入れています。
さらに、発酵ショウガは風味がよく、味にコクも出るため、減塩にも役立ちます。翌日以降に食べる汁物や常備菜などに使えば、酵母などの働きで時間がたつほど味が濃くなるので、薄めの味付けでも満足できる仕上がりになるのです。
お勧めは、下で紹介している「シイタケの発酵ショウガ焼き」。私が初めて発酵ショウガを作ったときに試したレシピです。簡単でおいしいため、今でもよく作っています。
このタレにゴマ油を加えて作る「モヤシのナムル」は、夫の好物。もちろん、家庭料理だけでなく、私のお店で販売するおやつやパンにも、発酵ショウガを使っています。
発酵ショウガが活躍するのは、料理だけではありません。飲み物に少し加えても、風味が豊かになります。
例えば、「ショウガくず湯」。私はカゼのひき始めに、必ずこれを飲んでいます。とても体が温まるため、寒い日や体が冷えている日にピッタリです。
発酵ショウガは味がよく、簡単に作れて保存もきくため、何人かのお客さまにも作り方を紹介しました。
すると、実際に作ってみたというお客さまの中から、頭痛や肩こりが消えた、やせた、などという声をいただきました。
実際に私自身も、発酵ショウガを食べ始めてから、カゼをひきづらくなっています。さらに最近では、花粉症の改善にも役立つのではないかと思うような出来事がありました。
2020年の春、私は発酵ショウガの本を作るために、いつもより多くの発酵ショウガを作って食べていました。すると、花粉症の症状が出ず、鼻水が出たときでも、ショウガ湯を飲んだらピタリと治まったのです。
この話を、あるお客さまにしたところ、さっそく試されたようです。後日、息子さんの花粉症が改善したと喜ばれました。
マスジマさんお勧めレシピ

シイタケの発酵ショウガ焼き
【材料】(作りやすい分量)
生シイタケ……1パック(6~8個)
Ⓐ発酵ショウガ……大さじ3程度
しょうゆ……大さじ3程度
※発酵ショウガとしょうゆは同量にする。〈作り方〉
【作り方】
❶生シイタケは軸を切り、カサと分けておく。
❷生シイタケのカサを下にして置き、フライパンで焼く。
❸カサのくぼみに、Ⓐを合わせたタレをかける。
※軸も適当に裂いて焼くと、カサからこぼれたタレが絡んでおいしい。
❹フライパンのふたを閉め、少し香りが立つまで焼いたら出来上がり。
モヤシのナムル
【材料】(作りやすい分量)
モヤシ……1袋
Ⓐ発酵ショウガ……大さじ3程度
しょうゆ……大さじ3程度
ゴマ油……大さじ1程度
【作り方】
❶モヤシはよく洗い、さっとゆでて保存容器に入れる。
❷Ⓐを合わせたタレを、①に入れて混ぜる。すぐに食べられるが、数日おいてもおいしい。
一番のポイントは気らくに作ること
簡単に作れてどんな料理にも合い、健康効果も期待できる発酵ショウガ。これを作る上で、いくつかポイントがあります。
まず、絶対に注意してほしいのが、途中でふたを開けたり、瓶を極度に傾けたりしないこと。発酵の具合が気になるでしょうが、カレンダーに印をつけるなどして、2週間気長に待ちましょう。
また、瓶の底に白いオリがたまることもありますが、これは乳酸菌の死骸だと思われます。食べても問題はありませんが、気になる人は、瓶のふたを閉め、よく振って中身を攪拌するとよいでしょう。
ただし、ショウガの表面や瓶の壁面などが黒ずむのは、カビです。この場合は、残念ですが全て捨ててください。
次に、瓶についてです。使用する瓶は、ふたをしっかり回して密閉できる、スクリュータイプのものを選んでください。
なるべく避けてほしいのが、ジャム瓶と、パッキンとクリップでふたをするタイプの瓶。
ジャム瓶は、糖が固まりふたがきつく閉まるのを防ぐため、開けやすい構造になっています。ただし、その分密閉度が甘く、発酵しづらいのです。パッキンやクリップがついている瓶も、種類によっては密閉性が甘く、うまく発酵しません。
ただし、発酵ショウガはガスが少し出るため、ふたが開けづらくなります。下項で対処法を紹介していますが、どうしても固いふたを開ける自信がないという方は、これらの瓶を使ってもいいでしょう。
注意点がいくつかあるものの、ショウガには強い殺菌作用があるため、他の酵母と比べると簡単に作れます。
例えば、発酵ショウガを作る際、私はあまり、水気が残るのを気にしていません。
保存食は通常、容器や食材に水気が残ったまま作ると傷みやすいのですが、発酵ショウガの場合、さっと水気を切ったり乾燥させたりするだけで、うまく作れてしまうのです。
発酵ショウガを続ける一番のコツは、気らくに作ること。あまり構えず、自分のやりやすい方法で作ってみてください。
発酵ショウガの作り方
【材料】
ショウガ…約200g
ガラス瓶(150~200ml)…1本
※ショウガは、無農薬のものがお勧め。

使う瓶のポイント
・ふたを何回か回して閉める、スクリュータイプのガラス瓶を使用する。
・すぐにふたが閉まるジャム瓶やパッキン付きの瓶は、密閉性が低いためお勧めしない。
※ただし、発酵ショウガは発酵後ふたがきつくなるので、握力に自信のない人などはこれらを使用するのも一つの手。

【作り方】
❶鍋にガラス瓶、ふた、瓶にかぶるくらいの水を入れ、湯を沸かす。沸騰してから5分ほど煮て、煮沸消毒を行う。

❷瓶とふたの口を上向きにして、自然乾燥させる。
※瓶とふたの口を下向きに置いたり、タオルで拭いたりすると、布についている雑菌が入る可能性があるので避ける。

❸ショウガは皮をよく洗って水気を取り、黒く傷んでいる部分があれば取り除く。おろし金で皮ごとすりおろす。

❹③を汁ごとガラス瓶に入れる。8分目くらいの量が目安。

❺ふたをして、冷蔵庫で2週間置けば出来上がり。
※2週間たつまでは、絶対にふたを開けないこと。

▼︎千切りやみじん切りにして、2週間置いても発酵ショウガが出来上がる。食感を残したい場合などに使い分けるのがお勧め。

発酵後、底に白いものがたまることがある。これは乳酸菌の死骸(オリ)なので、食べても問題ない。気になる場合は、軽く振ってから使用する。

【発酵と腐敗の見分け方】
【発酵】
●色が少し濃くなる(ピンクの場合は酸化しているが、食べられる)
●味や香りが、生ショウガよりマイルドになる
●小さな気泡ができる
●瓶を開けた際に、「プシュッ」と空気の抜けた音が鳴る
※発酵環境によっては、これらの特徴が表れないこともある。

【腐敗】
●瓶の縁やふたに、黒いカビがつく
●ショウガ特有のツンとした香りとは違う、いやな臭いがする
●味にえぐみを感じる、やたらと苦いなど、ショウガとは違う味がする
●発酵ショウガは、1日20g(親指2本分)を目安にとるとよい。ショウガは3時間程度で効果が切れるので、なるべくこまめに摂取する。
●保存期間は、半年~1年程度。基本的には冷蔵で保存する。
●ショウガを瓶のふたギリギリまで入れて発酵させると、開封する際に飛び散ることがあるので注意する。
●瓶の縁などに黒いカビがついている場合は、捨てること。
お勧めのおろし器&選び方のコツ
おろし器を選ぶポイント
❶目立てがしっかりしている
目立てとは、食材をすりおろす「おろし刃」を造る技法のこと。これがしっかりしていると、あまり力を入れなくても食材をすりおろせます。発酵ショウガでは、皮ごとショウガをすりおろすので、目立ての切れ味が特に重要です。
❷穴が大きい
おろし器の穴が小さいと、すった食材が何度も詰まってしまいます。ショウガは繊維が多く、詰まりやすい食材なので、大量にすりおろす場合は、穴の大きいおろし器を使いましょう。
❸受け皿がある
受け皿がないおろし器だと、安定感がなく、両手に無理な力がかかりがち。受け皿付きのものを選べば、無理に力を入れることなく、食材をすりおろすことができます。
お勧めのおろし器

有限会社和田商店
プロおろしV
1,980円(税抜)
購入できる場所:東急ハンズ
和田商店ネットショップ
https://shopping.geocities.jp/wadashouten/
プロの愛用者も多い「業務用プロおろし」の家庭版。目立て・穴・受け皿の3要素が揃っている上、適度な丸みと傾斜がついているので、硬いショウガも力いらずですりおろせます。さらに、受け皿の底についている滑り止めも非常に強力。水ぬれした滑りやすいところで使っても、動かず安定しています。老若男女問わず、安心して使えそうです。[安心編集部]

株式会社サンクラフト
おろし器セット受け皿付
1,500円(税抜)
購入できる場所:百貨店、専門店など
調理用品の大手による、家庭用おろし器。こちらも、目立て・穴・受け皿の3要素はもちろんバッチリです。受け皿とおろし器を一緒に握れるハンドルは、手になじむ角度のため、たくさんショウガをすりおろしても疲れません。コンパクトで使いやすいので、「あまりキッチンスペースを取りたくない」という方にお勧めです。[安心編集部]
「瓶のふたが開かない」トラブルの対処法
「発酵ショウガ」はとても便利ですが、発酵したときのガスでふたが固くなるのが困りものです。そんなときのための、瓶のふたを開けやすくする対処法をご紹介します。
① ふたに輪ゴムをつける

瓶のふたに輪ゴムをつけて、手の滑りを防ぎます。太い輪ゴムを使ったり、何本かまとめて巻いたりすれば、より滑りにくくなります。
② ふたの縁にスプーンの持ち手を差し込む

ふたの縁に、スプーンやフォークなどの持ち手を差し込み、「てこ」の要領でふたを持ち上げましょう。ただし、瓶によっては縁に隙間がないことも。その場合は、別の方法を試してください。
③ ふたの周りを押す

ふたの端に両手の親指を添え、上から体重をかけながら周りを押します。
④ 瓶を固定させ、ふたを回す

瓶の下に布を敷き、瓶を斜めにします。瓶を持つ手を固定した状態で、体重を下にかけながら、ふたを持つ手を回します。発酵ショウガが満タンに入っていると、ふたが開いたときにこぼれてしまうので、注意してください。
それでもふたが開かないときは…
・瓶ごとひっくり返した状態で、ふたをお湯につける。
・100円ショップなどで売っている、便利グッズを使用する。



ふたに引っかけて使うものや、ふたにかぶせるものなどさまざま。使いやすいものを選ぶとよい。
最終手段?
「今すぐ、発酵ショウガが使いたいんです!」と、酵母にお願いする。
酵母は生きているので、念じたりお願いしたりすると、自然とふたが開くこともあるのだとか。ここまでやってもふたが開かないときは、「今、その料理になる気分じゃない」という、酵母からのサインかも。そんなときは、タイミングを改めて再挑戦してみてください。

この記事は『安心』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp