東洋医学では肝の不調は、気分の落ち込み、胸苦しさ、生理不順、生理痛、目が疲れる、めまい、こむら返り、筋力低下などが起こる「肝虚」と、イライラ、うっ血、頭痛、耳鳴り、目の充血、不眠、ほてりなどの症状が現れる「肝実」の二つのタイプにわけられます。どちらのタイプかを把握して、それに応じたケアをすることが大切です。【解説】川井大輔(東京都鍼灸師会理事・川井治療院院長)

解説者のプロフィール

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川井大輔(かわい・だいすけ)

東京都鍼灸師会理事・川井治療院院長。東洋鍼灸専門学校卒。鍼・灸・あん摩マッサージ指圧師。鍼灸マッサージ師の両親を持ち、川井鍼灸院で修行。その後、西洋医学を学ぶため整形外科に勤務。治療院の院長を5年間務めた後に独立、川井治療院を開業。地域の医療、介護関係者と官民問わず連携し、医師との緊密な関係を築くことで、健康保険で鍼灸が受けられる形を確立。鍼灸業界の発展に尽力中。

不調のタイプを把握しよう

東洋医学では、内臓を肝・心・脾・肺・腎の「五臓」という概念で捉えています。一般的に肝臓は、ほぼこの「肝」に相当すると考えてもよいでしょう。

今回は、私がお勧めする肝のセルフケア法「綿棒ツボ押し」をご紹介します。その前にまず、肝が不調のときの症状とツボについて解説しましょう。

肝臓の主な働きは、西洋医学では代謝、貯蔵、解毒作用が挙げられますが、東洋医学の「肝」では、疏泄(そせつ:気・血を巡らせる)と蔵血(ぞうけつ:血液をコントロールする)だと考えられています。

気=エネルギーや、血液・栄養素の巡りが悪くなったとき、肝がきちんと働くことで、それらの乱れを整えて、巡りをよくするのです。

しかし、肝の働きが衰えると、気や血の悪い巡りが改善されず、さまざまな不調が現われます。この不調は、「肝虚(かんきょ)」と「肝実(かんじつ)」の二つのタイプにわけられます。

肝虚タイプは、肝が弱っている状態です。気分の落ち込み、のどがつまった感じ、胸苦しさ、生理不順、生理痛、目が疲れる、めまい、こむら返り、筋力低下などが起こります。

虚は、気などが足りない状態を指します。このタイプは、気を補う、パワーを与えることが改善に必要です。

一方、肝実タイプは肝が過剰に働いている状態です。イライラ、怒りっぽい、うっ血、頭痛、耳鳴り、目の充血、不眠、ほてりなどの症状が現れます。

実は、気などが過剰な状態を指します。このタイプは、たまり過ぎた気や、悪いものを出すことが改善につながります。

このように、症状によって体の異変は違います。ですから、その対処法も異なります。自分がどちらのタイプかを把握して、それに応じたケアをすることが、肝の改善ではたいせつです。

肝のタイプ別不調症状
【肝虚】肝が弱っている状態。
・気分の落ち込み
・のどがつまっている感覚
・胸苦しさ
・生理不順 ・生理痛
・目の疲れ ・めまい
・筋力低下 ・こむら返り

 
【肝実】肝が過剰に働いている状態。
・イライラ ・怒りっぽい
・うっ血  ・頭痛 ・耳鳴り
・目の充血 ・不眠 ・ほてり

私たちの体には、気が通る「経絡(けいらく)」という道筋が20本(正経12、奇経8として)あり、気がたまっている場所をツボと呼びます。

それぞれのツボには、対応する内臓や器官が決まっていて、ツボを押すことで特定の内臓や器官に刺激を与えることができます。

さらに、ツボによってどのような影響を与えるかも変わります。したがって虚のときと実のときとで、刺激すべきツボは異なるのです。

ツボの刺激には少しの力で十分

それでは綿棒ツボ押しのやり方を紹介しましょう。

綿棒ツボ押しは、その名のとおり綿棒でツボを押します。なぜ綿棒を使うかというと、ツボを強く押し過ぎないようにするためです。

ツボを押すときに、強い力はいりません。むしろ、強く押し過ぎると内出血の恐れや、ときには骨が折れることもあるので避けるべきです。

ツボの刺激には少しの力で十分です。綿棒を使うと、強い力で押したときに折れるので、ストッパーとして働くわけです。

綿棒を42~43度のお湯につけてから押すと、じんわりと温かく気持ちいいのでお勧めです。

押すツボの場所や押し方は、下の項をご覧ください。「太衝(たいしょう)」は、虚と実どちらにも有効な万能ツボですので、両タイプともにまずは太衝を押すといいでしょう。お酒の飲みすぎで調子が悪くなったときにも効果があります。

加えて、肝虚の人は「曲泉(きょくせん)」を押しましょう。肝にパワーを与えてくれます。肝実の人は「行間(こうかん)」を押しましょう。肝の熱を冷ましてくれます。

各ツボ押しは、5秒×3回を1セットとし、1日1セット両足に行います。体が温まったときにやると、より気や血の巡りがよくなります。食後や入浴後にツボを押すことを習慣にしてください。

個人差はありますが、1週間程度続けると、体の変化が感じられるようになるでしょう。肝の不調が改善され、各症状も解消していきます。短い時間でいいので、毎日続けることがたいせつです。

ただし、押して強い痛みがある場合は、ケガをしている可能性があるので中断してください。また、綿棒ツボ押しは手軽にできるセルフケアですが、心身の不調がひどい場合は、医師の診察を受けて治療が必要ないか確認してください

また、ツボ押しをしていても不摂生な生活をしていると、効果は望めません。体を温める、運動する、眠る、食べ過ぎないという、健康の基本を忘れないようにしてください。

綿棒ツボ押しのやり方

まず、先述の「肝のタイプ別不調症状」を参考に、自分がどちらのタイプか把握しましょう。

「肝虚」の場合は太衝と曲泉を、「肝実」の場合は太衝と行間を押します。どちらの症状も当てはまらないときは、太衝の刺激のみでかまいません。

【注意】
・強く押さない。こするくらいの力で十分。
・軽く押して痛みがあるときは中止する。

【用意する物】
・綿棒…1本
※かたいタイプの綿棒は使わない

画像1: 綿棒ツボ押しのやり方

【共通の押し方】
・各ツボを5秒×3回軽く押す。両足行う。
・上記を1日1回行う。食後か入浴後に行うとよい。
・事前に綿棒を42~43度のお湯につけてから行うのがお勧め。

「太衝」
「肝虚」と「肝実」どちらの人も行う

●場所
足の親指(母趾)と人差し指(第2趾)の骨が交差している場所。それぞれの骨の付け根の間で、少しへこんでいるところ。

画像2: 綿棒ツボ押しのやり方

●押し方
綿棒の頭を太衝にあて、かかとの方向に軽く押す。

画像3: 綿棒ツボ押しのやり方

 
「曲泉」
「肝虚」の症状がある人向け

●場所
ひざの内側にある、曲げたときにできる細く薄いシワの先端。(写真は右ひざ)

画像4: 綿棒ツボ押しのやり方

●押し方
綿棒の頭を曲泉にあて、骨の下にもぐりこませるように、斜めに軽く押す。

画像5: 綿棒ツボ押しのやり方

 
「行間」
「肝実」の症状がある人向け

●場所
足の親指(母趾)と人差し指(第2趾)の付け根の間。水かきのところ。

画像6: 綿棒ツボ押しのやり方

●押し方
綿棒の頭を行間にあて、かかとの方向に軽く押す。

画像7: 綿棒ツボ押しのやり方
画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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