筋肉は「第二の肝臓」と呼ばれるほど、肝臓と似た仕事をしています。糖の代謝、アンモニアの分解、たんぱく質の貯蔵などです。筋肉が衰えて筋肉での糖代謝ができなくなると、余った糖は肝臓で脂肪に変わり、脂肪肝を促進させます。筋肉と脂肪肝は、密接な関係があるのです。【解説】正田純一(筑波大学附属病院消化器内科教授/つくばスポーツ医学・健康科学センター副部長)

解説者のプロフィール

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正田純一(しょうだ・じゅんいち)

1982年、筑波大学医学専門群卒業。東海村立東海病院内科、スウェーデン王立カロリンスカ医科学研究所客員研究員などを経て、09年に筑波大学大学院人間総合科学研究科教授に就任。2012年より現職。スポーツ健康クリニック外来、肝臓生活習慣病外来を担当する。肝臓病の治療の中心に運動療法を置き、臨床試験のエビデンスに基づいた医療を実践している。

筋肉が少なく内臓脂肪が多い人ほど線維化が進む

日本人間ドック学会の2014年の調査では、人間ドックを受診し、肝機能異常が見つかる人の割合は30%を超えています。この30年で約3倍増。そのほとんどが脂肪肝です。

脂肪肝には、アルコール性脂肪肝とアルコール以外の要因で発症する非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)があります。近年、圧倒的に多いのは後者で、その患者数は約3000万人に上ると推定されています。

NAFLDの多くは、良性の単純性脂肪肝です。しかし1〜2割は、肝細胞に炎症が起こる悪性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に変化。そのNASHが進行すると、治療が難しい肝硬変や肝ガンになる危険性があります。

過食や運動不足で摂取エネルギーが過剰になると、余ったエネルギーは脂肪に変わります。それが腹部にたまると内臓脂肪になり、さらに増えると肝臓に蓄積されて脂肪肝になります。

脂肪肝からNASHになるしくみはまだ解明されていませんが、なりやすい人はいくつかの特徴があるとわかっています。

それは、①高度肥満(BMIが35以上)、②糖尿病がある、③食事や運動などの生活習慣をうまく改善できない、④血液検査のASTが80 IU/L以上、などです。
 
私たちの調査では、脂肪肝の発症や悪化には、内臓脂肪に加えて、骨格筋(骨格を動かす筋肉)も大きくかかわっていることがわかりました。

筋肉は「第二の肝臓」と呼ばれるほど、肝臓と似た仕事をしています。糖の代謝、アンモニアの分解、たんぱく質の貯蔵などです。ですから、肝臓の負担が増えると、筋肉がかわりに働き、助けているのです。

ところが、肝機能が低下したときに、筋肉が少なく、筋力も衰えていると、筋肉は肝臓をサポートできません。肝硬変のように重い慢性肝臓病では、生命予後(寿命)に影響することもあります。

また、筋肉が衰えて筋肉での糖代謝ができなくなると、余った糖は肝臓で脂肪に変わり、脂肪肝を促進させます。

このように筋肉と脂肪肝は、密接な関係があるのです。

筋肉は加齢とともに減少し、30歳を過ぎると年1%ずつ落ちます。そこに肥満、糖尿病、肝臓病などが重なると筋肉はさらに劣化します。こうして筋肉量が減り、筋力が衰えた状態を、「サルコペニア」といいます。

私たちは、脂肪肝の患者337人と健常者を合わせた472人を対象に、骨格筋の量を内臓脂肪の断面積で割った「サルコペニア肥満指数」を算出し、脂肪肝との関係を調べました。

すると、筋肉が多く内臓脂肪が少ない(サルコペニア肥満指数が低い)人ほど脂肪肝や糖尿病になりにくく、反対に筋肉が少なく内臓脂肪が多い(サルコペニア肥満指数が高い)人ほど脂肪肝や糖尿病があって、肝臓の線維化(かたくなること)が進んでいることが判明しました。

つまり、脂肪肝の予防や改善には、筋肉を鍛えることが非常に大事なのです。

運動は体重が減る以上に有益な効果が多々ある

私たちは、運動療法の効果も検証しました。肥満のある脂肪肝の患者さんに、食事療法のみと運動療法のみを行い、効果を比較。食事療法群は1日1680kcalに制限した食事を、運動療法群は1回90分、週3回の有酸素運動を、いずれも12週間行ってもらいました。

その結果、食事療法群は体重も体脂肪も大幅に落ちますが、筋肉量や筋力も低下しました。一方、運動療法群は体重や体脂肪はあまり減りませんが、筋肉量が維持されて、筋力も向上しました。

注目すべきは、肝臓の脂肪です。運動療法群では肝脂肪が大幅に減少したのに対し、食事療法群ではその3分の1しか減少しませんでした(減少した体重1%当たりの肝脂肪減少率)。このことから、運動自体に肝脂肪を減らす効果が高いことがわかります。

脂肪肝に対する食事療法と運動療法の効果
食事療法群は1日1680kcalに制限した食事を、運動療法群は1日90分、週3回の有酸素運動を、いずれも12週間行った結果。

画像: Med Sci Sports Exerc.2013;45:2214-22;肝臓59:A873,2018.

Med Sci Sports Exerc.2013;45:2214-22;肝臓59:A873,2018.

運動は、単にエネルギーを消費するだけでなく、インスリンの感受性を高めて血糖値を下げる、筋肉を増やして内臓脂肪を減らす、脂質代謝を改善するなど、体重が減る以上に有益な効果が多々あるのです。

これらの結果を踏まえて、私たちは脂肪肝の患者さんに、それぞれの病状に合った運動指導を行っています。そのなかで、簡単にできて効果が高いのが、「ひねりスクワット」です(やり方は下項参照)。

これは普通のスクワットにひねりを加えたもの。スクワットでおなか(腹直筋)と太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛え、体をひねることによってわき腹の筋肉(腹斜筋)も鍛えられます。

こうして体の奥にある大きな筋肉を鍛え、筋肉が増えると、基礎代謝(安静時にも消費されるエネルギー量)が上がり、エネルギー消費も増えます。その結果、余剰のエネルギーがたまりにくくなり、内臓脂肪が減って、脂肪肝も改善します。

高齢者には少しきつい運動かもしれませんが、ご自分のできる範囲で始め、少しずつ回数を増やしてください。

ただし、回数が多ければいいというわけではありません。一つひとつの動作をきちんと行い、鍛える筋肉を意識しながら取り組むことが大事です。

最近はダイエットでやせたのに、肝臓に脂肪がたまる「ダイエット脂肪肝」が増えています。NHKの番組で、そうしたダイエット脂肪肝の女性2人にこのひねりスクワットを毎日行ってもらったところ、1週間ほどで脂肪肝が改善しました。

肝臓は、鍛えることはできません。しかし、運動をして骨格筋を鍛えれば、肝臓の負担を減らし、機能を回復させることができるのです。

脂肪肝の人は、運動に加えて食事にも気をつけてください。炭水化物や脂質の摂取を控えめにし、筋肉の材料になるたんぱく質(大豆食品や魚介類など)を積極的にとりましょう。

運動と食事で体重が2〜3%減ると脂肪肝が改善し、10%減ると線維化も改善するというデータがあります。肥満や糖尿病の改善にも有効です。

ひねりスクワットのやり方

【ポイント】鍛える筋肉を意識しながら行う。

画像1: ひねりスクワットのやり方

足を肩幅に開き、まっすぐに立つ。両手は顔の横に添える。

画像2: ひねりスクワットのやり方

体をひねり右ひじと左ひざをできるだけ近づけ、元の姿勢に戻る。

画像3: ひねりスクワットのやり方

足を肩幅より少し広めに開いて立ち、ゆっくり深く腰を落とし、ゆっくり元の姿勢に戻る。

画像4: ひねりスクワットのやり方

足を肩幅に戻して立ち、体をひねり左ひじと右ひざをできるだけ近づけ、元の姿勢に戻る。

画像5: ひねりスクワットのやり方

③と同様にスクワットを行う。

②~⑤を1セットとして、2~3セット行う。

画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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