解説者のプロフィール

角田圭雄(すみだ・よしお)
1995年、京都府立医科大学卒業後、同大学第3内科入局。2002年に医学博士取得、15年に医療経営学修士(MBA)取得。市立奈良病院消化器科部長、京都府庁統括産業医などを経て、16年に愛知医科大学内科学講座肝胆膵内科学准教授(特任)、現在に至る。著書に『MBA的医療経営 目指せ!! メディカルエグゼクティブ』(幻冬舎)、編集・共著に『症例に学ぶNASH/NAFLDの診断と治療―臨床で役立つ症例32』(診断と治療社)などがある。
体調がよくなり気持ちも元気になる
脂肪肝とはその名のとおり、肝臓に脂肪が多くついた状態を指します。放置すると、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞、大腸ガン、乳ガンなどのリスクが高まります。重度の場合は死に至ることもあるのです。
罹患数はここ10年で増えており、中年期の男性に多いのが特徴です。一方で、閉経後の女性のほうが肝硬変などの病気に進行しやすいことが、疫学データで明らかになっています。年齢や性別を問わず、脂肪肝には、注意しなければなりません。
また日本人は、肥満による脂肪肝や、肝硬変、肝ガンに遺伝的になりやすいことがわかっています。血縁者に肝硬変や肝ガンの人がいる場合も、いっそう注意が必要です。
脂肪肝の予防や改善には、生活習慣の見直しがたいせつです。脂肪肝は飲酒量の多い人がかかる病気と思われがちですが、お酒をまったく飲まない人でも、脂肪肝になることがあります(非アルコール性脂肪肝)。
私たちが行った食事調査では、脂肪肝の人はファストフードや揚げ物、麺類、丼物、お菓子、ジュースなどを食べたり飲んだりする機会が多いことがわかりました。このような食生活では、脂質や炭水化物、特に、肝臓につきやすい脂肪に変わる果糖のとり過ぎになります。脂肪肝になるのも無理はありません。
ですから、とり過ぎになりがちな脂質や炭水化物(果糖)を控えることが重要です。それとともに、ぜひ活用していただきたいのが大豆食品です。枝豆、納豆、豆腐、みそなどを毎日の食事に積極的に取り入れると、脂肪肝の解消に役立ちます。
実際、私が外来の患者さんに積極的な大豆食品の摂取をお勧めしたところ、体重が減少したり、脂肪肝が改善したりする例が多く見られました。
大豆中心の食事に切り替えた皆さんは、「体重が減って体調もよくなった」と口を揃えていいます。脂肪肝の人は精神的に落ち込んでいることが多いものですが、体調とともに気持ちまで元気になるのです。
野菜や魚を併せてとるとより効果的
大豆が脂肪肝の予防・改善に役立つのは、主に「βコングリシニン」の働きによるものと考えられます。大豆たんぱくの3割を占めるβコングリシニンは、善玉ホルモン「FGF21」を増やすことがわかっています。そして、FGF21は肝脂肪を燃焼させたり、血中の中性脂肪を減らしたりするのです。
既に主成分がFGF21の注射薬が開発されていて、現在、脂肪肝の治験が実施されています。順調に進めば、近い将来、脂肪肝治療薬として活躍することでしょう。
ほかにも、イソフラボンという成分の抗酸化作用や、活性酸素除去などの作用も関与していると考えられます。
大豆中心の食事により、脂質や炭水化物(果糖)の摂取量が抑えられ、さらにこうした大豆成分の働きで、脂肪肝の予防や改善が期待できるのです。
また、大豆は筋肉の材料となるたんぱく質が豊富で、サルコペニア(加齢で筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態)の予防にも役立ちます。サルコペニア自体も脂肪肝を悪化させる要因なので、高齢者にもお勧めしたい食材です。
1日に食べる量は、下の一覧を参考にしてください。飽きないように、いろいろな大豆食品を活用し、3食にわたりバランスよくとるといいでしょう。

さまざまな大豆食品をとるのがお勧め
大豆食品の摂取目安
【1日にとる大豆の量】
・100g(βコングリシニン5g相当)
大豆加工食品に含まれる大豆の量
・納豆1パック…約25g
・豆腐1丁…約80g
・油揚げ1枚…約7g
・みそ汁1杯…約5g
・調製豆乳200 ml…約12g
加えて、調味料には気をつけてください。砂糖や塩、しょうゆは控えめにしましょう。砂糖に含まれる果糖は、前述のとおり肝臓で脂肪に変わりやすいですし、塩分のとり過ぎが招く高血圧は、肝硬変などの進行を早めます。気持ち薄味にするのを心がけましょう。
さらに、緑黄色野菜や青魚などを併せてとる、つまり昔ながらの和食様式を中心にすると、より効果が得られやすいでしょう。
[別記事:肝臓をいたわる大豆食品レシピ→]
もともと肝臓に脂肪を蓄えやすい日本人にとって、飽食時代の現代は、脂肪肝になりやすい環境ともいえるのです。
脂肪肝になっても、誰もが重篤な病気になるわけではありません。とはいえ、それを防ぐための予防に加え、早期発見もたいせつです。
ここで重要になる検査値が、血小板数です。血小板は肝臓がかたくなると減少します。もし検査値が18万未満だった場合は、専門の医師に相談しましょう。
脂肪肝による深刻な病気を防ぐために、ぜひ大豆中心の食生活や、健康診断の受診を心がけてください。

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
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