解説者のプロフィール

尾形哲(おがた・さとし)
佐久市立国保浅間総合病院外科医長、同院「スマート外来」担当医。1995年に神戸大学医学部医学科卒業、2003年に同大学医学部大学院博士課程修了。国内外で多くの肝移植手術を経験したのち、日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科、東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、16年より現職。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、移植認定医。日々ツイッターで脂肪肝改善のための情報を発信している。アカウントは@ogatas0520 または「肝臓先生 尾形哲」で検索。
肝臓外科医ならではの短期間でやせるノウハウ
私は長らく、肝臓専門の外科医として生体肝移植に携わってきました。
生体肝移植では、肝臓に脂肪が10%以上蓄積されていると、臓器提供者(ドナー)になれません。この基準は、腹部超音波やCT検査でも検出されないレベルの軽度脂肪肝なので、志願者の半分以上はドナーになることができないのです。
そのため肝臓外科医は、短期間で効率よく脂肪肝を改善するための、ダイエット指導のノウハウを持っています。私は「この手法を一般病院の脂肪肝治療に取り入れたら、大きな成果が出る」と常々考えていました。
好機が訪れたのは、2017年。佐久市立国保浅間総合病院に赴任した翌年、肥満の解消と脂肪肝・糖尿病の改善を専門とする外来を開設できることになったのです。
「(自分で食事を選ぶことができる)賢い人」という意味も込めて、「スマート外来」と命名しました。
これまでに診察した患者さんは延べ3000人で、その8割超が、3ヵ月で5kg以上の減量に成功しています。
患者さんのダイエット開始時の体重は、平均で76㎏です。まずは「1ヵ月で2kg、3ヵ月で6kg」の減量を目標とします。
数値の根拠は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の診療ガイドラインにある「体重の7%を減らすと脂肪肝炎が改善する」という研究です。体重が80kgの場合、その7%は、5.6kgに当たるため、目標を6kgに設定しているのです。
患者さんは月に1回、外来を受診。管理栄養士による栄養指導と、血液検査、画像検査、体組成計による測定を経て、医師の診察を受けます。これを3ヵ月続けて、減量が成功したら卒業というわけです。
甘い飲み物をやめるだけでも早々に効果が現れる
食事指導の内容は、科学的根拠(エビデンス)に基づいたオーソドックスなものです。

❶甘い飲み物をやめる
お茶・水・ブラックコーヒーはOK。野菜・果物100%ジュース、スポーツ飲料、栄養ドリンク、飲むヨーグルトはNG。カロリーゼロ表示でも控えたい。

❷主食を減らし野菜を増やす
1食当たり、ご飯なら70g、うどんは1/2玉、食パンは6枚切り1枚が目安。野菜はイモ類やカボチャ、大豆以外の豆は避け、緑黄色野菜を1日当たり両手いっぱい(350g)を目標に。

❸加工食品を減らす
甘い菓子やスナック菓子、カップ麺、インスタント食品、ファストフードなど加工された食品は極力減らす。
の3ヵ条。なかでも私が重視しているのが、❶です。
飲み物を最優先する理由は、液体のほうが固体より吸収されやすいため、ブドウ糖が中性脂肪に変換されやすく、脂肪肝リスクが高いからです。
また、清涼飲料水はもちろん栄養ドリンクやスポーツ飲料、乳酸菌飲料には、「果糖ブドウ糖液糖」が使用されています。これはトウモロコシから合成される糖で、ほとんどの甘味飲料だけでなく、加工食品にも使用されており、過剰に摂取すると肝障害を引き起こすことが知られています。
野菜・果物100%ジュースには、果糖ブドウ糖液糖は混合されていませんが、食物繊維が取り除かれており、科学的には清涼飲料水と同等と考えて差し支えないでしょう。これらを飲む習慣がある人はそれをやめるだけでも、早々に脂肪肝改善の効果が現れるのです。
❷の「主食を減らす」は、❶にも通じますが、私たちが行った臨床研究により、脂肪肝のあるかたは糖質摂取が過剰であることが判明しています。主食は今までの半分にしましょう。
逆に、倍量に増やしてほしいのが、野菜です。糖質の少ない野菜、特に緑黄色野菜を選び、1日に、両の手のひらに盛るくらいの量を食べましょう。
ちなみに、たんぱく質の摂取は二の次でけっこうです。というのも、糖質をとり過ぎている人はたいてい、たんぱく質も脂質も十分足りているからです。
❸の加工食品は塩分や糖質が多く食欲を増加させるうえ、生活習慣病の原因になります。すべては難しくとも、まずはカップ麺とスナック菓子だけでも減らし、自炊に努めましょう。
スマート外来では、運動よりも食事の改善を優先させています。食事の改善なしに減量するのは、困難だからです。3ヵ条を守って成果が出てきたら、そこで初めて、運動を勧めます。
脂肪肝が目に見えて改善し、薬が減るので、月1回の外来は皆さん楽しそうにお見えになります。外来の担当時間は、私の楽しみでもあるのです。

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
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