解説者のプロフィール

川中美和(かわなか・みわ)
1996年、川崎医科大学卒業。川崎医科大学総合内科学2准教授。川崎医科大学総合医療センター内科副部長。日本肝臓学会指導医・評議員。日本消化器病学会指導医・評議員。25年以上にわたり1万例以上の脂肪肝、NASHの診断・治療及び多数の研究を行い、健康な肝臓を目指した診療を行っている。出演番組:NHKスペシャル『“隠れ脂肪肝”が危ない』NHK『美と若さの新常識』など。
肝臓病のなかでも特にNASHは予防・改善したい
肝臓は、重さが1.2kgもあり、体の中で最も大きい臓器です。胃腸で消化・吸収した栄養素を貯蔵したり、糖やたんぱく質、脂肪などの物質を合成・分解し、必要に応じて全身に供給したりする働きがあります。
また、アルコールや薬物、老廃物などを解毒したり、脂肪の消化・吸収を助ける胆汁を生成したりするなど、重要な役目をいくつも担っています。
このように大役を務める一方で、肝臓は、「沈黙の臓器」といわれ、とても我慢強い臓器です。病気があっても、よほど悪くならない限り、自覚症状が現れません。症状が出るころには、かなり進行していることが少なくないのです。
だからこそ、肝臓の病気についてよく知り、万が一病気になった場合には、できるだけ早く発見して必要な対策を講じることが肝心です。
肝臓の病気には、脂肪肝や、C型肝炎、B型肝炎などに代表されるウイルス性肝炎、肝硬変や肝臓ガンなど、多くの種類がありますが、ここでは、近年急増している脂肪肝を中心にお話を進めましょう。
脂肪肝は、肝臓に脂肪が異常にたまった状態です。日本には、脂肪肝のある人が推定2000万~3000万人いるといわれており、肝臓病のなかでも最も患者数が多い病気です。成人の3人に1人が脂肪肝と考えられています。
つまり、脂肪肝は、誰にとってもとても身近な病気であり、気づかないうちにかかっているかもしれないのです。
脂肪肝は、その原因から、二つに分類されます。
❶過度の飲酒によるもの(アルコール性脂肪肝)
❷それ以外の原因によるもの(非アルコール性脂肪性肝疾患・NAFLD)
②の原因は、主に生活習慣病です。糖尿病や高血圧、脂質異常症などがあると、脂肪肝になりやすいことがわかっています。加えて、太っている人、ことに内臓脂肪が多い人も脂肪肝になりやすいのです。
この非アルコール性脂肪性肝疾患の大半は良性ですが、そのうちの約25%が悪性のNASH(非アルコール性脂肪肝炎)になるとされています。
NASHは、肝臓の炎症が進行する(「線維化が進む」という)怖い病気です。5~20%は5~15年で肝硬変になり、そのうち11%がさらに5年で肝臓ガンへ移行するといわれています。
そればかりか、胃ガンや膵臓ガン、肺ガン、乳ガンなど、ほかのガンの発生リスクも高くなり、心筋梗塞や脳梗塞も起こしやすくなるとわかっています。NASHは特に予防・改善したい病気といえます。
体重を7%減らすとNASHは改善する
脂肪肝の男女・年代別の患者数
※非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者:731名

川中美和:川崎医科大学総合医療センターデータ
上のグラフは、年代別の脂肪肝の患者数です。男性は、30~50代の働き盛りで、暴飲暴食や無理を重ねてなる人が多い一方で、女性は、50代以降に急激に増えます。
女性は閉経後、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が大きく減少します。すると、肝臓に脂肪をため込みやすくなったり、食欲抑制が効きにくくなったりして、脂肪肝になりやすくなるのです。ですから、女性は閉経後に特に注意しなければなりません。
脂肪肝は、腹部超音波(エコー)やCT(コンピュータ断層撮影)などの画像検診と血液検査の結果から判定します。
しかし、それが危険なNASHかどうかはわかりません。肝機能値が高くなくても、NASHの人はいるのです。確定診断には、肝生検が必要になりますが、脂肪肝の人全員に行うわけにはいきません。
最近では、FIB‐4indexという判定式が活用されるようになりました。これは、肝臓の線維化を数字で表したものです。数字が大きいほど進んでいることになります。
この判定式の優れたところは、年齢(①)に、肝臓の障害を示すAST(②)や、ALT(③)と、血小板数(④)がわかれば計算できる点です。通常の健康診断で、②~③の検査はすべて行われます。
自分で計算するのが難しい場合は、インターネット上にFIB‐4indexの計算式サイト(日本肝臓病学会ホームページ/下記参照)がありますから、それを利用するといいでしょう。すぐに判定することができます。
数値が1.3未満は問題ないといわれていますが、1.3以上の人は注意が必要です。特に肥満や糖尿病を合併している人は、肝臓の専門医に診てもらうといいでしょう。
肝臓の線維化の進展を予測する判定式(FIB-4indexの計算)

上の計算は、下記の日本肝臓学会のホームページのFIB-4index計算式を利用すると、自動で算出してくれます。
【日本肝臓病学会のFIB-4index計算式のサイト】
http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/medicalinfo/eapharma
[計算結果]
1.3未満:線維化の進行リスクは低い。
1.3以上: 線維化が進行している可能性あり。※特に、肥満や糖尿病を合併している人は肝臓の専門医に診てもらうほうがよい。
では、脂肪肝の人は、どうすれば改善できるでしょうか。
アルコール性脂肪肝の人は、過度な飲酒を控えることはいうまでもありません。改善したければ、禁酒すべきです。
NASHについては、体重を7%減らすと、改善することが判明しています。100kgの人は7kg、80kgの人は5.6kgの減量が目標となります。太っていない人の場合、生活習慣病の改善が重要です。
まず食生活を改めることから始めましょう。食べ過ぎないことです。よくかんで食べ、腹八分程度に抑えます。肝臓の解毒量を減らすためにも、野菜や海藻、キノコ類、大麦などの食物繊維の多い食品をとり、お通じをよくしましょう。
高齢者の場合、食事の量を減らし過ぎると、筋肉量が落ち、サルコペニア(筋肉量が減り、身体機能が低下した状態)に陥る恐れがあります。そうならないためにも、減量しながら、たんぱく質はしっかりとるように心がけてください。
たんぱく質は肝臓の重要な栄養素にもなります。納豆や豆腐などの大豆食品、卵や魚介類などは積極的にとりましょう。
一方、インスタント食品などの加工食品は、リンや食品添加物などが多く、肝臓には解毒処理が負担になるので、できるだけ控えることが大切です。
運動もしっかり行ってください。スクワットなどの筋力トレーニングと、ウォーキングなどの有酸素運動の組み合わせがお勧めです。
スクワットや腹筋などの筋トレは、NASHの改善に役立つとされています。目安として、1日10~20回のスクワットを行いましょう。ひざが痛い人は、スクワットのかわりに、腹筋やダンベルを使った運動でもかまいません。
筋トレが済んだら、そのあとにウォーキングなどの有酸素運動を行うと、より効果的であることもわかっています。ウォーキングを20~30分以上行うことで、脂肪を有効に燃焼させることができます。
こうした運動を週に2~3回行う習慣をつけることが、脂肪肝の改善につながります。
年を取っても、若いときと同じように食べていれば、どんどん太ります。40歳以降は、筋力も低下し始めますし、生活習慣病にもなりやすくなります。それは、NASHにもなりやすくなる、ということです。
脂肪肝の予防・改善のためにも、例えば、50歳を過ぎたら、意識して運動を行ったり、食事内容を再検討したりするなど、生活全般を見直してください。

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp