誤嚥によって脳出血を起こすことは全くないことではありません。むせ込むと血圧が一時的に急激に上がるので、そのために出血が起こるのでしょう。誤嚥を防ぐには、まずしっかり噛むこと、歯の健康を保つことが重要です。また、あごをよく動かして筋力の低下を防ぐようにしましょう。【解説】松野彰(帝京大学医学部脳神経外科学講座主任教授)

解説者のプロフィール

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松野彰(まつの・あきら)

帝京大学医学部脳神経外科学講座主任教授。1983年、帝京大学医学部医学科卒業。帝京大学ちば総合医療センター副院長、同脳卒中センター長等を経て、2014年より現職。脳血管障害の臨床に長年携わり、急性期脳梗塞・脳出血、くも膜下出血・破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤の開頭手術などにも取り組む。

むせ込むと血圧が一時的に急上昇する

脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などのいわゆる脳卒中は、「脳血管障害」と呼ばれ、日本人の死因の上位にランクされています。また寝たきりになる原因の1位にもなっている病気なので、日ごろからの予防が非常に重要です。

脳血管障害の大きな原因としては、動脈硬化が挙げられます。動脈硬化とは、加齢に伴ってかたくもろくなった血管に、コレステロールや脂質でドロドロになった血液が付着して、血液の流れが悪くなった状態を指します。

血液の流れが滞ると、血液が固まって血栓(血の塊)ができたり、血管が破れて出血したりすることで、脳血管障害が引き起こされるのです。

動脈硬化の危険因子には高血圧や高脂血症があります。生活習慣病が顕在化してくるといわれる50歳を過ぎたら、健康管理に気をつけることが大切といえるでしょう。

ところで咋夏、歌手であり俳優の加山雄三さんが、誤嚥によって小脳出血を起こしたというニュースが流れ、世間を驚かせました。

誤嚥によって脳出血を起こすことはまれですが、全くないことではありません。

これは、直後にフジテレビの『グッディ!』という番組でも解説したことですが、加山さんの場合は、高血圧による脳出血と考えられます。

加山さんは、自宅でトレーニング後に水をがぶ飲みし、むせて強くセキ込んだ直後に嘔吐したといいます。むせ込むと血圧が一時的に急激に上がるので、そのために出血が起こったのでしょう。

加山さんの場合、以前にも脳梗塞をされています。この際、血管に動脈硬化性の変化が起こり、血管がもろくなっていたことも否定できません。

脳卒中の経験がない人でも、高血圧が持続している人は、血管がもろくなっている可能性があります。そのような人は、無症候性脳出血といって、知らないうちに脳内で小さな出血が起こっているかもしれません。

虫歯や歯周病を治療してしっかり噛もう

加山さんのニュースでは、誤嚥も注目されました。誤嚥とは、飲食物や唾液などが、食道ではなく、誤って気管に入ることをいいます。むせてしまうのは、誤嚥した物を気管が吐き出そうとするからです。

誤嚥がなぜいけないのかというと、一つは、むせて加山さんのように急激に血圧を上げてしまうからです。

そしてもう一つが、肺炎の原因となるからです。食べ物や唾液には細菌やウイルスが含まれていることもあり、それが気管から肺に入ると炎症を引き起こして、誤嚥性肺炎になります。

またさらに、誤嚥によって気管に食べ物が詰まると窒息して呼吸困難になり、最悪の場合は死に至ります。

高齢者が誤嚥でむせることが多いのは、まず筋力の低下が一因として挙げられます。口の動きも舌の動きも悪くなり、さらにのどの筋力も低下しているので、飲み込む際の一連の動きがスムーズに進行せず、気管に入ってしまうのです。

また、気管に入ってしまった場合でも、のどに筋力のある若い人なら出すことができますが、高齢者はそれができないために、さまざまなリスクが生じてくるというわけです。

誤嚥を防ぐには、まずしっかり噛むことを意識しましょう。むし歯や歯周病がある場合はきちんと治療をして、歯の健康を保つことが重要です。

またしっかり噛むためには、あごの力も大切です。やわらかい物ばかりを食べていると、あごの筋力が衰えて噛む力が低下します。あごをよく動かして、筋力の低下を防ぐようにしましょう。

意外に思われるかもしれませんが、首や肩をよく動かすと、飲み込みがよくなります。

舌を動かしたり、物を飲み込んだりする神経は脳幹から出ている下位脳神経で、その近くには、首や肩を動かす神経も出ています。首や肩の運動は脳幹の機能の活性化につながり、それによって飲み込む神経も活性化されます。そして、飲み込みがスムーズになってくるのです。

嚥下力を高めるトレーニングを行うのもよいでしょう。

脳卒中も誤嚥も、ふだんの予防と生活習慣が大切です。先に、加山さんのような例はまれと述べましたが、動脈硬化と筋力の低下が誰にでも起こってくることを考えると、誰もが注意すべきだといえるでしょう。

画像: あごをよく動かして筋力の低下を防ごう

あごをよく動かして筋力の低下を防ごう

画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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