口腔ケアは、ウイルス感染に対する防御壁を高め、重症化を防いで自分自身を守ります。それだけでなく、人への感染を防ぐことにもつながります。唾液中のウイルス量を減らすことで、飛沫感染を抑えることができるからです。歯みがきのみならず、舌みがきも行いましょう。【解説】花田信弘(鶴見大学歯学部探索歯学講座教授)

解説者のプロフィール

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花田信弘(はなだ・のぶひろ)

鶴見大学歯学部探索歯学講座教授。1953年福岡県生まれ。歯科医師、歯学者。九州歯科大学歯学部卒業後、同大学院修了。米国ノースウェスタン大学博士研究員、九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授、国立保健医療科学部長などを経て、2008年より現職。メディアにも多数出演し、口腔ケアの重要性を説く。

口の中の受容体がウイルスを受け止める

インフルエンザなどの感染症の予防に「うがい・手洗い」がたいせつであることはよく知られていますが、昨今のような新型コロナウイルスが蔓延している状況下では、それに加えて歯みがき舌みがきなどの口腔ケアが重要です。

なぜなら舌の上や歯肉には、ウイルスを受け止める受容体「ACE2」があるからです。

受容体とは、細胞の表面に存在する鍵穴のようなものです。口の中に、新型コロナウイルスという鍵に合致する鍵穴があるために、ウイルスを受け止めてしまうのです。

この受容体は、鼻の嗅細胞や肺、腸にも存在します。感染すると、味やにおいがわからなくなる症状が出るのも、口や鼻の中に受容体があるからなのです。

口中のウイルスが誤嚥によって肺に入れば肺炎を起こしますし、飲み込むことで腸で感染すれば下痢の症状が出ます。そしてウイルスは、血液を介していろいろなところに拡散します。

では、口腔ケアがほんとうにウイルス対策に繋がるのでしょうか。

それを裏づける話として、歯みがきでコロナウイルスが消えた例が挙げられます。ある施設で、40日以上コロナウイルスが消えない感染者が2名いました。

通常なら免疫系の働きによって2週間ほどで消えますから、これはおかしいと生活の様子などもよくよく調べました。すると、この2名は統合失調症と認知症の症状があり、歯みがきをしていなかったことが判明。それに気づいた看護師が歯みがき指導をしたところ、ウイルスが消えたのです。

このことによって、コロナウイルスが、歯みがきをしないと長い間、生き続けることがわかります。つまり、口腔ケアをしっかり行うことで、新型コロナウイルスの感染や発症を防ぎ、早期回復に役立つと考えられるのです。

また、歯磨剤には界面活性剤が含まれており、これが新型コロナウイルスに有効であることがわかっています。すべての物に含まれているわけではないので、ご自身がお使いの物を確認してみましょう。

ウイルス性肺炎に加えて細菌性肺炎も防ぐ

そして、口腔ケアで忘れてはいけないのが舌みがきです。

舌の表面は、食べかすや口の中ではがれた粘膜がたまり、「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる汚れがたまります。この舌苔が細菌の住み家になっているのです。ですから、口腔ケアでは歯みがきだけでなく、舌みがきも行うことが重要といえます。

舌みがきは、ドラッグストアなどで手に入る専用の舌ブラシで舌の奥から先端に向かって軽くこすります。歯ブラシでこする人もいますが、舌に傷をつけるおそれがあります。舌ブラシが手に入らない場合は、清潔なガーゼかやわらかいタオルを指に巻き、やさしくぬぐってください。

夜に歯みがきをしても、寝ている間に細菌が増殖するので、朝起きたらまず舌をみがき、朝食後に歯みがきをするのが効果的です。歯みがき後に洗口剤でうがいをするとなおよいでしょう。

口腔ケアによって、口の中の細菌の数を減らしておくことが、新型コロナウイルスの重症化を防ぐことにつながります。

新型コロナウイルスに感染すると、ウイルス性肺炎を起こして肺の免疫力が低下します。その状態で口の中の細菌が肺に入ると、ウイルス性肺炎と同時に、細菌性肺炎も起こしてしまいます。

これを防ぐためには、口の中の細菌を減らして、細菌性肺炎のリスクを日ごろから低くしておくことが大切です。

特に降圧剤や抗うつ剤を服用している人は、副作用で唾液が出にくくなっており、唾液による口内洗浄がされないため、細菌が繁殖しやすい状態になっています。免疫が低下してくる高齢者や、生活習慣病の薬を服用している人は、必ず舌みがきも行いましょう。

画像: 朝起きたらまず舌みがき!

朝起きたらまず舌みがき!

口腔ケアは、新型コロナウイルス感染に対する防御壁を高め、重症化を防いで自分自身を守ります。それだけでなく、人への感染を防ぐことにもつながります。唾液中のウイルス量を減らすことで、飛沫感染を抑えることができるからです。

学校や職場、家庭内での感染が危惧される状況下の今、これはとても重要なことです。

また先日、アルツハイマー型認知症の予防に、歯周病対策が有効であるという可能性が、九州大学の研究チームから発表されました。そうした観点からも、口腔ケアの重要性は今後さらに増していくでしょう。

画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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