のどの衰えは、皆さんの声のみならず、健康やQOL(生活の質)にも大きな弊害を及ぼします。声帯の周りを囲み、開閉の動力源になっている小さな筋肉群「声筋」こそのどの役割を担っている大元。お勧めしている声筋の自己チェック法は、世界の医療機関でも共通の指標になっている「あーテスト」です。【解説】渡邊雄介(国際医療福祉大学医学部教授・山王病院東京ボイスセンター長)

解説者のプロフィール

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渡邊雄介(わたなべ・ゆうすけ)

国際医療福祉大学医学部教授・山王病院東京ボイスセンター長。1966年生まれ。90年、神戸大学医学部を卒業。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科のなかでも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。著書に『声の専門医だから知っている こけない 老けない よろめかない 声筋のすごい力』(ワニブックス)など多数。
▼山王病院東京ボイスセンター(公式サイト)

声の衰えは心身の老化に拍車をかける

私がセンター長を務める山王病院東京ボイスセンターは、声と「のど」の病気全般を診る「声の専門外来」です。歌手や声優、アナウンサーなど、声の専門職のかたが多く来られます。

悩みの症状としては、声が出なくなった、かすれる、声に張りがなくなったなど、実にさまざまです。

もちろん、声のプロならずとも、こうした声の衰えは気になるものです。人と話すのに気後れして、交流が少なくなる。それがまた心身の老化に拍車をかけることもあります。

声の衰えの原因は、加齢などによる、のどの機能の低下が大きく関係しています。

当センターでは、こうした患者さんに、専門的な治療、リハビリ指導を行います。なかにはかなり高齢のかたもいらっしゃいますが、きちんと治療されたかたは本来の声がよみがえり、大変喜ばれています。

のどの衰えは、皆さんの声のみならず、健康やQOL(生活の質)にも大きな弊害を及ぼします。私は、声が改善した患者さんに「最近、体調面で何か変化はありませんか?」とよくお聞きします。

すると、「食事中にむせなくなった」とおっしゃるかたもいます。また、「ゴルフの飛距離が伸びた」「途中で必ず休んでいた階段を、一気に上れるようになった」という人も少なくありません。

のどの健康は、呼吸や嚥下(食べ物を飲み込むこと)、運動能力など、私たちが生きていくうえで重要な体の機能と深く結びついているのです。

のどには、主に次の四つの役割があります。
声を出す。
呼吸の調整をする。
体に力を入れる。
誤嚥を防ぐ。

では、これらの機能がのどによってどのように行われているのか、そのしくみを説明しましょう。

のどの衰えは筋肉の衰え

画像1: のどの衰えは筋肉の衰え

のどでは、食べ物の通り道である食道と、呼吸のための空気の通り道である気管の二つのルートが交差しています。のどは、この重要な交通整理を実に巧妙にこなしているのです。

のどの中央、のど仏の下にある声帯に注目してください。

声帯は、女性では1cm、男性でも1.5cmほどの小さな筋肉と粘膜でできています。声は、呼気(吐き出す息)がこの声帯を震わせることで発されます。

また、声帯の筋肉は左右一対のペアになっていて、閉じたり開いたりします。その原則はシンプルです。発声時や飲み込むとき、体に力を入れるときに閉じ、息を吸うときには開きます。

画像2: のどの衰えは筋肉の衰え

そして、さらに重要なのが、この声帯の周り(喉頭)を囲み、開閉の動力源になっている小さな筋肉群(内喉頭筋と外喉頭筋)です。私はこれを「声筋」と名づけています。

声筋はのど仏(甲状軟骨)とも連動しており、食べ物を飲み込むときにはのど仏を引っ張り上げます。それによって喉頭蓋が下がり、声帯や気管をふさぐことで、食べた物が正確に食道を進むようになるのです。

つまり、声筋こそのどの役割を担っている大元。のどの衰えは、すなわち声筋の衰えともいえるのです。
 

ところで、前述した「のどの四つの役割」は、①から順に命にかかわる度合いが増します。高齢化社会が進むなかで、特に深刻な問題になっているのが④の嚥下障害です。

嚥下障害は、食べたり飲んだりした物がのどの交差点で食道に行かず、気管に入ってしまうもので、誤嚥ともいわれます。

原因が声筋の衰えにあることはいうまでもありません。声筋の働きが弱いと、声帯や気管がピッタリ閉じられなくなってしまうからです。

軽いうちはむせたりセキ込んだりする程度で済みますが、ひどくなると食べ物に含まれている細菌が気管や肺まで到達して繁殖し、炎症を起こします。

これが最近よく話題になる誤嚥性肺炎です。近年、高齢者の肺炎による死者数が増えていますが、その多くは誤嚥による肺炎です。

「あーテスト」のやり方

ご自分の声筋の状態は、自らチェックすることもできます。

私がお勧めしている声筋の自己チェック法は、世界の医療機関でも共通の指標になっている「あーテスト」です。

やり方はごく簡単。息をしっかり吸い込み、ひと息で「あ〜」と何秒声を出し続けることができるかで判定します。声がかすれたり、弱くなったりしてもかまいません。

男性なら30秒以上、女性なら20秒以上続けられれば大丈夫です。半分以下の場合は黄色信号。念のため一度、耳鼻咽喉科、できれば声やのどが専門の医療機関を受診してください。

画像: 「あーテスト」のやり方

【やり方】
・口を閉じ鼻からしっかり息を吸い込み、ひと息で「あ〜」と声を出す。
・何秒間出し続けられるかを測る。
※途中で声がかすれたり、弱まったりしてもよい。

【正常域】
男性:30秒以上
女性:20秒以上
※男性は15秒以下、女性は10秒以下の場合、黄色信号。耳鼻咽喉科や声やのどが専門の医療機関の受診がお勧め。

また、鏡を見て自分ののど仏の位置が下がっている人は、明らかに声筋が衰え、誤嚥をしやすい状態になっています。そういう人は、声筋を鍛えるトレーニング(別記事①参照)やお風呂カラオケ(別記事②参照)などをすぐに始めるといいでしょう。

[別記事①:ふんばる力が増す医師推奨の声筋トレーニング→
[別記事②:お風呂カラオケがのどの筋トレに最適→

画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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