解説者のプロフィール

櫻井大典(さくらい・だいすけ)
漢方コンサルタント・国際中医専門員。奈良県生まれ。サンフランシスコ州立大学卒業。国際中医専門員。日本中医薬研究会会員。漢方の本場、中国の医院に複数回研修に渡るなどして、幅広く知識を吸収。中医学と心理学を活用し、誰にでもできる食養生などの情報をSNSで日々発信している。著書に『こころとからだに効く!ゆるゆる漢方生活』(ワニブックス)など。
焼くことで柿の欠点を補うことができる
自然は、その季節に合った食材を提供してくれます。それが、旬の物ということになりますが、私たちは旬の物を食べることによって、その季節ごとの環境変化に体を対応させていくことができるのです。
柿は、秋が旬の食材です。柿の一般的な効能を挙げてみましょう。漢方の立場からいえば、その効能は、次の三つになります。
❶清熱潤肺(せいねつじゅんぱい)
❷生津止渇(しょうしんしかつ)
❸解酒毒(げしゅどく)
清熱潤肺とは、熱を清めて、肺を潤す働きです。肺というのは、漢方では、呼吸器系全般を指します。鼻、のど、気道、肺、これらに加えて、大腸と肌も、肺の管轄になります。つまり、鼻やのど、気道、さらに大腸などの粘膜を潤してくれるということです。
体に生じたよけいな熱、それは、ほてりとして感じられることが多いものですが、このほてりの解消にも役立ちます。
また、のどが渇くことで生じるセキを治め、セキに混じる血を止める働きもあります。大腸に潤いをもたらすことで、便秘も改善します。
第二の生津止渇の「津」は、潤いのことです。つまり、これは体の渇きを止め、体の乾燥感を解消してくれる働きを意味しています。
例えば、糖尿病になると、のどが非常に渇くようになりますが、こうした渇きの改善にも有効とされています。
第三の解酒毒は、酒の毒を解消する働きです。読んで字のごとく、二日酔いに有効です。
秋から冬にかけて、空気が乾燥し、体も乾燥しがちになります。人によっては、のどがカラカラに渇いて、からセキが出るようになる人もいます。
こうしたケースで、秋から冬にかけての旬の食材である柿が、のどに潤いをもたらし、セキを止めたり、からセキの予防をしたりするわけです。
便秘になったとき、便が乾いて、ウサギのフンのようなコロコロした便が出る人がいます。こうした便秘にも、大腸に潤いを与える柿が有効です。
ただし、柿は強い寒性の食品です。
漢方では、あらゆる食品を、体を冷やす物、体を温める物、そのどちらにも属さない物の三つに分けて考えます。
例えば夏は、トマトやゴーヤといった、体を冷やす寒性の食材が多く出回ります。とはいえ、食品それぞれが持っている温寒の性質は、必ずしも季節とぴったり符号するわけではありません。柿は、秋口に出回りますが、冷やす性質が強い食品です。食べ過ぎると、体が冷え、体の負担となることがあります。
こうした柿の冷やす性質をカバーするために勧められるのが、「焼く」という調理法です。冷やすという性質こそ変わらないものの、焼くことによって、その強さを緩和することができるのです。
しかも、柿本来の、潤いを与える力は加熱されても変わらないので、「焼き柿」は、柿の欠点を補った、よいレシピといえるでしょう。
濃厚な甘みでおやつにベスト!
焼き柿の作り方は下項をご参照ください。皮をむいてしまうと、実がグズグズに崩れてしまう恐れがあるため、皮を、器の一種と考えて、むかずにオーブントースターなどで加熱するのがよいでしょう。
10分ほど焼いて、皮がパリッとしたら、完成です。柿はもともと生で食べられるものですから、火の通り加減は、お好みでいいと思います。
焼くことで、甘みが強くなります。水分が蒸発しますから、濃厚な味になるでしょう。おやつやデザートとしておいしく食べられます。
数年前にSNSで、この焼き柿を紹介したところ、けっこうな話題になりました。やはり、焼き柿という食べ方を全く知らないかたが多かったせいでしょう。「今まで試したことがなかった。やってみたら、とてもおいしかった」といった反応がたくさん返ってきました。
焼き柿は、最初に話したとおり、乾燥からくる気管支の症状の予防などに有効です。高齢者の場合、体が冷えがちな人と、体がほてりがちな人がいらっしゃいますが、焼き柿なら、体が冷えがちな人にも勧められます。
特に冷えが強い人なら、焼き柿に、シナモンをかけて食べてみてください。シナモンは、体を温める力が非常に強い香辛料です。柿との相性も悪くありません。ただし、妊娠中のかたは控えてください。
寝る前に柿を食べることは勧められません。柿は、糖分が多いので、夜遅くなってから食べると、血糖値の上昇につながってしまいます。焼き柿を食べるなら、日中や午後のおやつにするのがベストといえるでしょう。

シナモンをかけるのもお勧め。
焼き柿の作り方
【材料】
柿…1個

【作り方】
❶ヘタから1〜2cmを切り落とす。
❷実の部分には格子状に、皮の内側にもぐるりと、切り込みを入れる。

❸オーブントースターで10分ほど焼いて、皮がパリッとしたら完成。
【食べ方】
1日に1個程度を目安に、日中に食べる。

やわらかジューシー!甘みも凝縮。
[別記事:柿を加熱すると血流改善成分が3~5倍に増えると判明→]

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp