シトルリンは血管を拡張させて、血流を改善する作用があります。GABAは興奮した神経を落ち着かせて、リラックスさせる効果があり、血圧降下作用などもあるとされています。柿を加熱すると、このシトルリンとGABAが、3~5倍も増えていることがわかったのです。【解説】及川彰(山形大学農学部教授)

解説者のプロフィール

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及川彰(おいかわ・あきら)

山形大学農学部教授。1998年京都大学農学部農芸化学科卒業。2003年、同大学博士学位取得。その後、バイオテクノロジー研究開発組合研究員、理化学研究所植物科学研究センター研究員、山形大学農学部准教授などを経て、2020年より現職。メタボローム解析に精通し、農業技術の発展や食品保護・加工法の向上などに尽力している。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

シトルリンとGABAが加熱によって増えていた

加熱すると、食品に含まれるたいせつな有効成分が壊れてしまう、もしくは、減ってしまうことがあります。こうした現象を皆さんも耳にしたことがあるでしょう。例えば、野菜などに含まれる酵素は、ある程度以上の加熱によって、その活性が失われることが知られています。

では、柿を加熱するとどうなるでしょうか。

今から10年ほど前のことになりますが、私たちは、柿という食材の可能性を探るために、食品分析を行っていました。そこで、柿を加熱したペーストと、加熱していないペーストで分析して比較したところ、むしろ加熱したほうが増える成分があることがわかったのです。

私たちは、メタボローム解析という分析方法を用いています。これは、一つ一つの有効成分にターゲットを絞って、それを分析する従来の方法ではありません。

植物には、それこそ数千、数万という成分が含まれていますが、それをまとめて分析しようとするのが、メタボローム解析です。柿の場合でいえば、100~200種類の成分を一斉に解析するのです。

すると、全く想定外の成分の働きが見えてくることがあります。この解析方法は、医療分野でも用いられて、成果をあげています。このときも、メタボローム解析によって、柿の想定外の有効成分が浮かび上がってきました。

それが、シトルリンと、GABAです。

シトルリンは、アミノ酸の一種です。NO(一酸化窒素)を産生し、血管を拡張させて、血流を改善する作用があります。この血流改善作用によって、冷えやむくみの解消、疲労回復効果、運動パフォーマンスを上げるなど、さまざまの効能がもたらされます。

一方、GABAも、アミノ酸の一種で、脳に存在する神経伝達物質です。興奮した神経を落ち着かせて、リラックスさせる効果があります。ストレス解消効果や、血圧降下作用などもあるとされています。

柿を加熱すると、このシトルリンとGABAが、加熱していない物に比べて、3~5倍も増えていることがわかったのです。私たちがこの研究成果を発表したところ、大きな反響がありました。

非常に優れた抗酸化作用は失われない

私たちは、その後、柿の加熱方法についてもいろいろ検討しました。電子レンジを使ったり、蒸したり、オーブントースターなどで加熱したり……。すると、いずれの方法でも、つまり、加熱さえすれば、この二つの有効成分が増えることがわかりました。

ちなみに、同じようにリンゴについても同様の実験を行いましたが、リンゴの場合でも、加熱によってGABAが増えることは確認できました。ただし、シトルリンは増えませんでした。

すべての食品を調べたわけではありませんが、加熱によってシトルリンが増えることがわかっているのは、今のところ柿だけです。

下で紹介する「焼き柿」は、シトルリンとGABAという二つの成分をより多く摂取するための、優れた調理法といえます。

柿のほかの有効成分についてもふれておきましょう。

柿は皮も果肉も、オレンジ色をしています。この色が、柿の色素成分であるカロテノイドの色です。リンゴは、皮だけが赤く、実は真っ白です。つまり、リンゴとは違って、柿は、皮にも実にも、ぎっしりカロテノイドが詰まっているということになります。

そして、焼いても柿のオレンジ色はほとんど変わりません。つまり、焼き柿を食べる際には、柿のカロテノイドの効能もよく摂取できるということになります。

一般的に、カロテノイドには、非常に優れた抗酸化作用があることがわかっています。その抗酸化作用で、老化や病気の原因物質である活性酸素を消去することによって、多くの効能がもたらされます。

柿のカロテノイドとしては、β‐カロテンが代表として挙げられるでしょう。柿には、同じく抗酸化力の高いビタミンCも豊富です。β‐カロテンとビタミンCの相乗作用で、ウイルスや細菌に対する抵抗力が強まり、粘膜が強化され、風邪予防や肌荒れ防止などに役に立つと考えられます。

また、柿の渋み成分であるタンニンは、ポリフェノールの一つ。タンニンにも、抗酸化作用があり、動脈硬化や生活習慣病の予防効果が期待できます。

このように多くの有効成分を含む柿の、新しい食べ方として、焼き柿をお試しになってみてはいかがでしょうか。

画像: 焼き柿は健康効果抜群!

焼き柿は健康効果抜群!

焼き柿の作り方

画像: 【柿を焼く】熱を加えると血流改善成分が増加  リラックス効果のあるGABAも増える

柿は加熱すると、血管を拡張させるシトルリンや、血圧降下作用が期待できるGABAが増えることが確認されています。さらに柿には、抗酸化作用が高いとされるカロテノイドが豊富です。これらの成分は加熱しても失われません。

【材料】
柿…1個

画像1: 焼き柿の作り方

【作り方】
ヘタから1〜2cmを切り落とす。
実の部分には格子状に、皮の内側にもぐるりと、切り込みを入れる。

画像2: 焼き柿の作り方

オーブントースターで10分ほど焼いて、皮がパリッとしたら完成。

【食べ方】
1日に1個程度を目安に、日中に食べる。

画像: やわらかジューシー!甘みも凝縮。

やわらかジューシー!甘みも凝縮。

画像: この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。

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