解説者のプロフィール

田中一成(たなか・かずなり)
長崎県立大学シーボルト校地域連携センター特任教授。1985年、九州大学大学院農学研究科食糧化学工学専攻博士課程を単位取得満期退学。農学博士号を取得。渡米しジョージ・ワシントン大学研究員を経て帰国。99年より県立長崎シーボルト大学(現長崎県立大学)教授。2013年に同学人間健康科学研究科長、16年に看護栄養学部長、18年に副学長に就任。20年3月に「長崎県産農産物を活用した機能性を有する発酵茶の開発に関する研究」で長崎県科学技術大賞を受賞。20年4月より現職。専門は食品科学。
血圧を下げる成分が皮の内側やすじに多い
ミカンは、非常に多くの薬効が期待できるフルーツです。ミカンを焼くと、その薬効に影響はあるのでしょうか。結論からいうと、家庭で短時間焼く程度では、ミカンの栄養価や機能性成分が損なわれることはありません。
私の専門は食品科学で、長年にわたり、ミカンやお茶など、身近な食品が健康に及ぼす効果について研究してきました。
ミカンに含まれる有効成分で注目されるのは、主に四つ。ポリフェノールの一種であるヘスペリジンとノビレチン、カロテノイド色素でビタミンAの仲間であるβ‐クリプトキサンチン、そしてビタミンCといったところでしょうか。
このうち、ヘスペリジンやノビレチンは、熱に強い性質があります。一方、β‐クリプトキサンチンは、100度で30分も加熱すると、含有量が60%まで減少します。ただ、15分ほどなら加熱してもほぼ変化はありません。ミカンを焼いて温める程度であれば、問題ないでしょう。
ビタミンCについても、同様です。長時間加熱すると効力が落ちますが、短時間であれば、気にすることはありません。
では、これらの有効成分が生み出す健康効果を、順に挙げていきましょう。
まず、血管の柔軟性を高め、高血圧を改善する効果です。
ミカンの皮の内側や、白いすじに特に多く含まれているヘスペリジンは、血管の柔軟性・弾力性を高めることで、血流を促進します。その結果、血圧が下がります。
私たちは2019年に、ヘスペリジンの摂取が血圧にどのような影響を与えるかという実験を行いました。ヘスペリジンを摂取してもらった人と摂取していない人を、12週間にわたり比較したところ、4週めから効果が発現。8週め、12週めと、血圧が有意に下がることが、確認できました。
次に、血流アップにより冷え症を改善する効果です。
ヘスペリジンが血流を促すことで、末端の毛細血管まで血液が送り届けられます。結果、手足などの冷えが改善します。
これについても、私たちは実験を行いました。ヘスペリジンを摂取した人と、摂取していない人に、冷水に1分間、手を浸してもらいました。その後、手の皮膚表面温度の変化を比較したところ、ヘスペリジンを摂取した人は、温度が回復するまでの時間が、摂取していない人よりも明らかに早かったのです。
すい臓の細胞を保護し糖尿病対策にもなる
そして、β-クリプトキサンチンによる肥満解消と糖尿病への効果です。
β‐クリプトキサンチンの継続的な摂取により、内臓脂肪の面積が減少します。これも、2018年に行った、私たちの研究で判明しました。
さらに、β‐クリプトキサンチンは、すい臓でインスリンを分泌する細胞を保護する作用があるとわかりました。つまり、糖尿病対策にも効果が期待できるというわけです。
さらに、骨密度を高め骨粗鬆症を予防する効果です。
ミカンの名産地である静岡県の三ヶ日町で行われた、「三ヶ日研究」という調査があります。この調査により、ミカンを多く食べる人はそうでない人より骨粗鬆症になりにくいと判明しました。β‐クリプトキサンチンに骨代謝を促す作用があるそうです。
最後に挙げるのが、記憶力を高め、認知症を予防する効果です。
実験用マウスにノビレチンを与えたところ、記憶・学習能力が高まったというデータがあります。また、海外での臨床試験で、ノビレチンを投与すると認知症の発症率が15%低下したという報告もあります。
アミロイドβというたんぱく質が脳内に蓄積することが、認知症の発症原因の一つとされています。ノビレチンは、このアミロイドβの蓄積を抑制すると考えられているのです。
ミカンにはこのように、優れた健康機能がありますが、効率よく効果を得たいなら、ミカンを皮ごと食べるのがいちばん。というのも、ヘスペリジンやノビレチンは、ミカンの果肉よりも、皮のほうに多く含まれているからです。
そこでお勧めの食べ方が、焼きミカンです。よく洗って焼くことで、ミカンの皮がやわらかく、食べやすくなります。そのうえ、加熱で水分が失われると有効成分の濃度が高まり、体内で効果を発揮しやすくなると考えられるのです。
私も冬場は、焼いたり焼かなかったりで、ミカンをたくさん食べます。健康効果を期待するなら、β‐クリプトキサンチンの多い、色の濃い物を1日3個程度食べましょう。
この成分は体内にとどまりやすいため、冬に積極的に食べると、春先まで効果が持続します。ぜひよく熟れた甘いミカンを選んで、焼きミカンを作ってください。

ミカンで健康度アップ!
●血管の柔軟性がアップ! 高血圧を改善
●血流がアップ! 冷え症に特効
●ダイエット効果アップ! 糖尿病を撃退
●骨密度をアップ! 骨粗鬆症を防ぐ
●記憶力アップ! 認知症を予防
焼きミカンの作り方
【材料】
ミカン…1個

【作り方】
オーブントースターで10~15分、皮に少し焦げめがつくくらいまで焼く。

※皮も食べる場合は、よく洗い、水気をふいてから焼く。
※一度に複数個のミカンを焼いてもよい。その場合も焼く時間は変わらない。
【食べ方】
1日に3個程度を目安に食べる。
皮もいっしょに食べるのが望ましいが、気になる人はむいてもよい。

体ポッカポカ!あったまる!
[別記事:焼きミカンで糖尿病、感染症、認知症を撃退→]

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp