解説者のプロフィール

南雲吉則(なぐも・よしのり)
ナグモクリニック総院長。医学博士。乳腺専門医。1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、東京女子医科大学で形成外科を、癌研究会附属病院外科でガン治療を学び、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を経て、ナグモクリニックを開業。全国で乳ガン手術、乳房再建術を行う傍ら、「1日1食」「ゴボウ茶」などの独自の若返りダイエット健康法を展開。近年は、ガンから命を救う食事と生活の指導・講演にも力を注ぐ。
焼くと皮ごと食べやすくなる
今年もミカンの出回る時季になりました。ミカンのシーズンは、とりわけ心が弾みます。
というのも、私がフルーツを皮ごと食べる習慣は、もともと「キンカンをまるごと食べるなら、ミカンも皮ごとでいいのではないか」という発想から始まったからです。この食べ方を始めて、早17年になります。
今年の8月で65歳を迎えた私は、診療や手術、講演活動と、毎日忙しく飛び回っていますが体力も気力も充実しており、衰えを知りません。
そのうえ、会う人から「とてもその年には見えない!」と、驚かれることもしばしば。この健康と若さの維持に一役買っているのが、皮ごとフルーツを食べる健康法であり、その一つである「焼きミカン」なのです。
ミカンの皮には、胃腸を丈夫にして消化を助ける作用や、セキを鎮める作用、タンを取り除く作用などがあります。干した皮は、漢方では「陳皮(ちんぴ)」として、多くの処方に調合されています。昔から、確かな健康効果が認められているのです。
現代の栄養学から見ても、ミカンの皮には、機能性成分が豊富。果肉よりもむしろ、皮の内側の白い部分に多い有効成分もあります。むいた皮を捨てるなんて、もったいない!
とはいえ、「ミカンの皮なんて、かたいうえに苦くて、食べづらい」と敬遠する人が多いのも事実。焼きミカンは、そんな人にこそ、ぜひ試してほしい食べ方なのです。
ミカンを焼くと、皮がやわらかくなり、苦みや渋みも抜けてグンと食べやすくなります。果肉部分は、含まれる糖質量は変わらないにもかかわらず、甘みがアップ。独特のこうばしさも加わって、生で食べるのとはまた違った、濃厚なおいしさが楽しめるのです。
免疫力を高めてガン予防にも有効!
ミカンの皮には、カロチノイドの仲間であるβ‐クリプトキサンチンや、ポリフェノールの一種で別名ビタミンPとも呼ばれるヘスペリジン、ノビレチンなどの抗酸化成分が、多く含まれています。果肉や種が外敵の攻撃から守られているのは、こうした成分のおかげです。
フルーツや野菜の皮には、主に三つの作用があります。
❶抗酸化作用
文字どおり、「酸化に抗う作用」つまり、体内の老化を予防する働きです。
皮がついたままのフルーツは日もちしますが、皮をむくと、とたんに酸化が始まり、変色が進みます。体内の酸化は、よく「体のサビ」とたとえられます。皮の抗酸化作用は、こうした老化による、細胞や血管の劣化を予防。血流を促して、体の内側から、若返りを助けます。
また、血糖値が高めの人は、糖分を気にしてフルーツを控えがちですが、ことミカンに関してはβ‐クリプトキサンチンが血糖値の上昇を防ぐ効果も認められています。1日3個ほど食べることで、高血圧や糖尿病など生活習慣病への効果が期待できます。全身の老化を防ぐので認知症対策にも有効です。
加えて、β‐クリプトキサンチンは、ビタミンAの前駆体(もとになる物質)です。ビタミンAは夜盲症を防ぐ役割が知られているとおり、暗視力の向上に役立ちます。つまり、ミカンは目にもいい効果が期待できるというわけです。
❷創傷治癒作用
フルーツや野菜は、皮に傷がついても、周辺の組織細胞が自然と再生し、傷を修復します。
私は以前、ストレスによる肌荒れがひどく、吹き出物に悩まされていた時期があります。けれども、焼きミカンなどを皮ごと食べるうちに、すっかりキレイな肌に戻りました。それからはずっと、いい肌状態をキープしています。
傷ついた細胞の修復と再生を促すということは、ガン予防にも有効です。これは、乳ガンの専門医としても、注目の作用といえます。
❸抗菌・抗ウイルス作用
皮には、表面に付着した菌やウイルスが内部に入り込むのを防ぐ作用があります。
私も含め、焼きミカンを愛食する人が最も感じる変化は「カゼやインフルエンザにかかりにくくなる」ことです。免疫力を高め、新型コロナウイルスや、誤嚥性の肺炎も含め、さまざまな感染症から体を守ります。
また、もし胃の中にヘリコバクターピロリ菌がいる場合、胃ガンを引き起こす原因にもなりえます。この点もまた、ガン予防に通じるといえるでしょう。
焼きミカンの健康効果

抗酸化作用で老化を強力に予防!
高血圧・動脈硬化・糖尿病などの生活習慣病や認知症を撃退。目の機能向上にも役立つ。
創傷治癒作用で細胞の再生を促進!
細胞の傷を修復し粘膜の荒れを防ぐ。美肌づくりはもちろん、ガン予防にも有効。
抗菌・抗ウイルス作用で感染症予防!
菌やウイルスが侵入するのを防ぎ免疫力アップ。カゼやインフルエンザ、肺炎などの感染防止にも効く。
このように、フルーツや野菜を皮ごと食べて得られるメリットは、少なくありません。
「皮を食べる」というと、残留農薬を懸念する人がいますが、国産の農産物については、心配無用というのが私の考えです。
使われている農薬は、消費者の手に届くまでにほとんど蒸散しているので、湯水で洗うだけで十分。農薬の問題を差し引いても、皮ごと食べることで享受できるメリットは、大きいはずです。
私は、皮を焦がさずに食べ切るため、ミカンをアルミホイルに包んで焼いています。オーブンか魚焼き網を使って、10~15分焼き、芯まで温まれば出来上がりです。
焼きミカンを食べると、すぐに体がポカポカしてきます。
ミカンの旬は冬ですから、生のままでは冷たいと感じる人もいるでしょう。ことに昔の人は縁側などの戸外にミカンを置いて、保存していました。
そうすると、日もちはしますが、いざミカンを手に取っても冷た過ぎてすぐには食べられません。そこで、ミカンを火鉢などであぶって食べるようになったのが、焼きミカンの始まりではないでしょうか。
ホカホカの焼きミカンなら、胃腸機能の弱った人や、代謝機能の低下しているお年寄りでもおなかを冷やさずに食べられるというわけです。
おやつにしてもいいですが、サンマなどを焼く際、いっしょに焼くのもお勧めです。スダチやカボスがわりに果汁を魚にかけて、皮も併せて食べれば、さわやかな風味が広がります。
おいしくて、ミカンの健康効果を最も引き出す食べ方が焼きミカンです。一度試せば、きっとやみつきになるでしょう。
焼きミカンの作り方

ミカンには、ビタミンC、β-クリプトキサンチン、ヘスペリジン、ノビレチンなどが含まれています。免疫力を高めて骨や体を強化、認知症を予防。高血圧や糖尿病対策、美肌づくりにも有効です。焼いてやわらかくなった皮も食べると、より効果がアップします。加熱しても、成分の有効性が大きく損なわれることはありません。
【材料】
ミカン…1個

【作り方】
オーブントースターで10~15分、皮に少し焦げめがつくくらいまで焼く。

※皮も食べる場合は、よく洗い、水気をふいてから焼く。
※一度に複数個のミカンを焼いてもよい。その場合も焼く時間は変わらない。
【食べ方】
1日に3個程度を目安に食べる。
皮もいっしょに食べるのが望ましいが、気になる人はむいてもよい。

体ポッカポカ!あったまる!

この記事は『壮快』2021年1月号に掲載されています。
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