温かい場所から寒い場所へ移動したとき、体はその温度の差に反応して、体内の熱を逃さないよう、ギュッと血管を収縮させます。血管が狭くなれば、そこを流れる血液の勢いも強くなり、血圧が上がります。首元にマフラーを巻けば、首元の温度変化が小さくなるので、頸動脈や脳の血管が収縮して、血圧が上がるのを防ぐことができます。【解説】桑島巖(東京都健康長寿医療センター顧問)

解説者のプロフィール

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桑島巌(くわじま・いわお)

1971年、岩手医科大学卒業。1973年に東京都養育院附属病院循環器科勤務後、1980年からアメリカニューオリンズオクスナー研究所に留学。帰国後は東京都健康長寿医療センターで、内科長、循環器科部長、副院長を歴任。2012年からは東京都健康長寿医療センター顧問を務める。『高血圧の常識はウソばかり』(朝日新聞出版)、『薬に頼らず血圧を自力で下げるコツ』(河出書房新社)など、著書多数。

冬は血圧が急上昇・急降下しがち

血圧は、時間帯や温度、ストレスなど、さまざまな変化に応じて常に変動しています。特に、温かい場所と冷たい場所の温度差が大きい冬は、血圧が急上昇・急降下しがちです。

温かい場所から寒い場所へ移動したとき、体はその温度の差に反応して、体内の熱を逃さないよう、ギュッと血管を収縮させます。

血管が狭くなれば、そこを流れる血液の勢いも強くなり、血圧が上がります。ホースを使って水をまく際、ホースを指でつまんで細くすると、水の勢いが増すのと同じ理屈です。

個人差はありますが、冬は1日のうちで、上の血圧が10~30mmHgほど変化する人も珍しくありません。

こうした血圧の変動は、血管に大きな負担をかけます。血管を高速道路に、血液をダンプに例えると、イメージしやすいでしょう。

高速道路の上をほぼ一定のスピードでダンプが走っていれば、道路はさほど傷みません。しかし、昼夜を問わずに何台ものダンプが渋滞を起こしたり、猛スピードで走ったり、急ブレーキをかけて止まったりしていては、道路はすぐにボロボロに傷んでしまいます。

画像: 血液が一定スピードで流れれば血管は傷まない

血液が一定スピードで流れれば血管は傷まない

血圧が高い人や高齢者は特に注意

道路と違い、血管は傷んだからといって、簡単には修繕できません。特に、急激な血圧上昇に弱いのが、薄くて繊細な脳の血管です。

血管が傷んでいると、冬に、

・脱衣所で服を脱ぐ
・玄関に新聞を取りに行く
・夜中にトイレに行く

などの際に、血圧が急上昇して脳の血管が破れ、脳出血を起こす例が少なくありません。

この繊細な脳の血管を守るために、ぜひ活用してほしいのがマフラーです。暖房の効いた温かい部屋から寒い玄関や廊下、トイレなどへ移動する際には、こまめに首元にマフラーを巻くことを勧めています。

首には、脳へ至る太い血管・頸動脈が走っています。

この頸動脈が寒さに反応して収縮すると、その先にある脳の血管も収縮して血圧が急上昇。場合によっては、その負担で脳の血管が破れます。

しかし、首元にマフラーを巻けば、首元の温度変化が小さくなるので、頸動脈や脳の血管が収縮して、血圧が上がるのを防ぐことができます。

マフラーは、居間の出入り口や寝室の枕元など、手近な場所に常備するとよいでしょう。マフラー代わりにタオルを使うのも有効です。

画像: 常に手の届くところにマフラーを置こう

常に手の届くところにマフラーを置こう

加えて、小型の暖房器具でトイレや脱衣所などを暖めておくのもいいでしょう。浴室は、事前に浴槽のふたを外しておけば、湯気で自然に暖まります。

特に冬は、入浴時の血圧の急降下にも気をつけてください。寒い脱衣所や浴室に入って血圧が急上昇した後に、お湯につかって体を温めると、収縮していた血管が一気に広がり、血圧が急降下します。

その結果、脳貧血を起こし、浴槽で意識を失って溺れてしまう方もいます。浴槽での血圧の急降下を防ぐためにも、脱衣所や浴室は事前に暖めておきましょう。

特に、高齢者や普段から血圧が高めな人、動脈硬化がある人などは、ぜひこれらを実践していただきたいと思います。

血圧が低いほど死亡率も下がる

アメリカの最新報告によると、血圧が低い人ほど、死亡率は低下します。

これまでは、脳などの重要な部位に十分な量の血液を送るために、高齢者は血圧が多少上昇するのが自然だと考えられていました。しかし、その高齢者も、血圧が低いほど死亡率が低いことがわかってきたのです。

40~50歳台の壮年者の突然死も、その多くに高血圧が関わっていると考えられます。年齢を問わず、上の血圧は130mmHg以下が理想といえるでしょう。

画像: この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。

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