本来、緊急時以外に血圧を薬で下げるのは邪道です。名前の通り、高血圧を含む生活習慣病は生活習慣でしか治せません。そこで、ぜひとり入れていただきたいのが「動脈マッサージ」です。皮膚と骨の間にある動脈、静脈、リンパ管を効率よくマッサージすることで、高過ぎる血圧が程よく下がります。【解説】井上正康(健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授)

解説者のプロフィール

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井上正康(いのうえ・まさやす)

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授。1945年、広島県生まれ。医学博士。1974年、岡山大学大学院(病理学)修了。熊本大学助教授(生化学)、米国アルバートアインシュタイン医科大学客員准教授(内科学)などを経て、2011年から大阪市立大学医学部名誉教授。同年から、宮城大学副学長(震災復興担当)などを歴任。2013年、市民講演や産業医学指導などを行う「健康科学研究所」を設立。2019年には、 腸内フローラ移植臨床研究会評議員、 FMTクリニック院長に就任。著書に『もむだけで血管は若返る』(PHP研究所)などがある。

薬で血圧を下げ過ぎると……

現在の高血圧治療は、決められた正常値を超えると、すぐに降圧薬(血圧を下げる薬)を使うのが一般的です。しかし、ここには大きな問題があります。

本来、血圧は自分の体が必要とするエネルギー量に基づいて脳がコントロールしています。そのため、薬で強引に血圧を下げてしまうと、「脳の栄養失調」が起こります。これが原因で、ふらついて転倒し骨折したり、認知症の発症・悪化が進んでしまったりする例も少なくありません。

本来、緊急時以外に血圧を薬で下げるのは邪道です。名前の通り、高血圧を含む生活習慣病は生活習慣でしか治せません。

そこで、高血圧を改善するための生活習慣として、ぜひとり入れていただきたいのが「動脈マッサージ」です。

このマッサージは、もともと私の恩師である岡山大学名誉教授の故・妹尾左知丸先生が考案された方法です。私は、この方法の理論的な裏付けを行った上で、血圧を下げる大変よい方法として、50年ほど普及に努めてきました。

動脈マッサージの基本原理は、非常にシンプルです。その方法は、自分の手で皮膚を骨に向かって押しつけながら、適度な圧をかけて動かします。

そうすることで、皮膚と骨の間にある動脈、静脈、リンパ管(体内の老廃物や疲労物質を回収して運ぶ管)が、全てマッサージされます。これらを効率よくマッサージすることで、血管が軟らかくしなやかになります。そうすると、血管内の圧を吸収しやすくなり、高過ぎる血圧が程よく下がります。

動脈マッサージは、まさに「究極のマッサージ法」といえるでしょう。

活性酸素のバランスを整えて血圧を正常化

実は、このしくみには「活性酸素」が深く関わっています。

活性酸素は、さまざまな病気を起こす悪者と考えられてきました。しかし、実際には、活性酸素は体になくてはならない大切なものなのです。

私たちの血管は、活性酸素によって収縮と弛緩をくり返しています。血管内に「スーパーオキシド」という活性酸素が増えれば、血管がギューッと収縮して血圧が上がります。

一方、一酸化窒素(NO)という活性酸素が増えると、血管がフワッとゆるみ、血圧が下がります。これが心臓薬のニトログリセリンや、バイアグラの作用と関係しています。

つまり、運動時などにはスーパーオキシドを増やして血圧を上げ、睡眠時にはNOを増やして血圧を下げる、といった、絶妙なしくみが働くことで、血圧を保っているのです。

ところが、何らかの理由でそのバランスがくずれてスーパーオキシドの働きが強まると、高血圧になってしまいます。

そこで重要になるのが、活性酸素のバランスを整え、適度な量のNOを産生することです。

日々の習慣として動脈マッサージを続けていると、両者のバランスを取りながら、NOを産生しやすい状態になります。

そして、血管の収縮と弛緩が、バランスよくくり返されるようになります。これによって、血管がしなやかになり、血圧が正常化するのです。

また、動脈マッサージなら、血圧を下げながら、脳にもしっかり血液を届けることができます。そのため、薬で下げたときのように、脳の栄養失調を起こすリスクもありません。

さらに、神経の密度が高い手や指を使うことで、脳への刺激効果も大きくなります。

実際に、血圧の高い12人のボランティアの協力で、動脈マッサージの効果を調べたことがあります。

その実験では、拡張期血圧(上)が145〜200mmHg程度の人を無作為に集め、動脈マッサージを2週間行っていただきました(高血圧の基準値は上が140mmHg以上)。

画像: 動脈マッサージで血圧改善

動脈マッサージで血圧改善

その結果、動脈マッサージで全員の血圧が下がり、平均で1人あたり20mmHgの降圧効果が認められました。

また、私の研究室の仲間が、自分の高血圧患者さんたちに動脈マッサージを指導した結果、血圧が下がって降圧薬が不要になった症例が多数あります。

指を1本ずつしごくのがお勧め

通常、動脈マッサージは、頭部や首、おなか、足など、全身で約15分間行います。

今回は、いつでもどこでも手軽にできる「指の動脈マッサージ」をご紹介しましょう。指だけでも習慣づけて行うと、高血圧の改善に大いに役立ちます。

基本的なやり方は、下の図をご覧ください。ここでは2通りのやり方を紹介していますが、指を1本ずつしごく方が、全ての指にしっかりと圧をかけられるので、お勧めです。

ただし、時間がないときなどに行う場合は、指を交互に組んで引き抜く方法でも、十分効果が期待できます。ご自身の生活サイクルや性格に合った方法で、毎日続けましょう。

この動脈マッサージは、どんな人でも安全に行える健康法です。しかし、指に炎症や痛みがある場合は、症状の悪化を避けるため、患部を触らないようにして行ってください。

動脈マッサージは、血圧を下げるだけでなく、血流を活発にする効果もあります。その結果、皮膚の新陳代謝がよくなるので、シワやシミ、ほうれい線などが少なくなる効果も期待できます。

薬に頼らずに高血圧を改善するために、手軽にできる動脈マッサージ。皆さんも、ぜひお役立てください。

指の動脈マッサージのやり方

どちらも1~2分程度でできるので、毎日行う。
痛みや炎症を起こしているところがある場合、その部分は避ける。
行う時間には特に指定がない。家にいる時間や、 電車に乗っているときなど、空いている時間を見つけて習慣化するのがお勧め。

【指を1本ずつしごく方法】

画像1: 【指を1本ずつしごく方法】

手の指の根元を、逆の手でギュッと握る。

画像2: 【指を1本ずつしごく方法】

握っている方の手を左右に回転させながら、指先まで移動し、引き抜く。10秒ほどかけてしごくのが目安。

①と②を、左右10本の指全てに行う。

【指を交互に組んでしごく方法】

画像1: 【指を交互に組んでしごく方法】

指同士を交互に組み、指の根元をギュッと締めつける。

画像2: 【指を交互に組んでしごく方法】

締めつけた状態をできる限り保ちながら、両手をねじるようにして引き抜く。ねじる方向を変えながら、数回行う。

画像: この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。

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