解説者のプロフィール

横田邦信(よこた・くにのぶ)
東京慈恵会医科大学客員教授。1978年、東京慈恵会医科大学卒業。1984年、同大学大学院卒業。医学博士。横須賀北部共済病院内科部長などを歴任。2010年、東京慈恵会医科大学教授(大学直属)を経て、2017年に退任し現職。日本糖尿病学会功労学術評議員。日本生活習慣病予防協会参事。元日本マグネシウム学会理事。『糖尿病ならすぐに「これ」を食べなさい!レシピ』、『糖尿病に勝つ!「マグネシウム食」革命』(主婦の友社)、『マグネシウムがこの1冊で良くわかる』(現代書林)など著書多数。
血管の収縮を防いで血圧の上昇を抑える
高血圧に関係するミネラルとして、多くの人がまず思い浮かべるのは、血圧を上げるナトリウム(塩分)と、ナトリウムの排泄を促すカリウムではないでしょうか。
その他「カルシウム拮抗薬」と呼ばれるタイプの降圧薬を服用している人などは、高血圧とカルシウムの関連を想起できるかもしれません。
実はもう一つ、高血圧のメカニズムに重要な役割を果たすミネラルがあります。それが「マグネシウム(Mg、鎂)」です。
マグネシウムは、体内で合成できず、必ず食物から摂取しなければいけない16種類の「必須ミネラル」の一つです。
マグネシウムは、カルシウム、カリウム、ナトリウムなどと同様に、1日に100mg以上を摂取すべき「主要ミネラル」7種類のうちの一つでもあります。
イメージの湧きやすい他の主要ミネラルに比べ、一般の認知度が低いですが、細胞内外のミネラルバランスを調整したり、骨や歯の形成に関わったり、600種類以上の酵素を活性化したりする、重要な働きをしています。
では、なぜマグネシウムの不足が、高血圧の発症と関係するのでしょう。
一つ目の理由として挙げられるのが、マグネシウムが足りないと、細胞内外でマグネシウムとカルシウムのバランスが悪くなるということです。
この二つのミネラルは、互いにバランスを取りながら、マグネシウムが血管を拡張し、カルシウムが血管を収縮させるという相反する働きをしています。
カルシウムが血管壁に過剰に取り込まれると、血管が収縮しやすくなります。
水を通すホース(血管)が細くなれば、水(血液)の量が同じでも、ホースにかかる圧力(血圧)が増します。
最初に挙げた「カルシウム拮抗薬」という薬は、過剰なカルシウムによる血管収縮を防ぎ、血管を広げて血圧の上昇を抑える作用があります。
マグネシウムも同様に、カルシウムをコントロールして過剰蓄積を防ぐ働きを持ちますから、「天然のカルシウム拮抗薬」とも言われているのです。
二つ目の理由は、マグネシウムには「ノルアドレナリン」というホルモンをコントロールする作用があるということです。
ノルアドレナリンは、自律神経のうちの交感神経の末端から放出されるホルモンです。
末梢血管を収縮させる働きがあるため、このホルモンが増え過ぎると血管が収縮し、末梢血管の抵抗が増大して、血圧が上がってしまうのです。
その点、マグネシウムが十分に足りていれば、ノルアドレナリンの放出を制御し、血圧の上昇を防ぐことができます。
極端な減塩は骨粗鬆症を招く
三つ目の理由は、マグネシウムがナトリウムの排泄にも役立つということです。
塩分(ナトリウム)は血液に水分を引き込むため、全身の血液量が増加します。ホースの太さが同じでも、流れる水の量が増えれば、やはりホースにかかる圧力は高まります。高血圧の人が「減塩」を勧められるのは、そうした理由です。
そのナトリウムを排泄する働きがあるミネラルとしては、カリウムがよく知られていますが、実は、マグネシウムも同様の働きを担っています。
したがって、カリウムだけでなく、マグネシウムもしっかりとれば、尿中にナトリウムが排出されやすくなり、降圧効果がより期待できます。
ただし、減塩は高血圧予防には大切ではあるのですが、塩分の減らし過ぎもよくありません。
2020年4月に厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」によれば、成人の1日のナトリウム摂取目標量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満。
高血圧および慢性腎臓病の重症化予防のための摂取目標量は、男女ともに6g未満と設定されています。
しかし、1日6g未満に減塩すると、逆にナトリウム不足になる可能性があります。極端な減塩状態が続くと、ナトリウムとともに、マグネシウムやカルシウムなどのミネラルが骨から失われていき、骨がボロボロになってしまうのです。
つまり、極端な減塩は、長い目で見ると骨によくないのです。しかも、食事がおいしく感じられないので、継続するのが難しいでしょう。
そこで、お勧めしたいのが、食卓塩(精製塩)ではなくて、海水から作った粗塩を使うことです。粗塩にはマグネシウムが豊富に含まれているので、塩分摂取と同時にナトリウムの尿中排出も促進でき、適度な減塩と同じ効果になるのです。
マグネシウム含有量の多い食品を紹介
現代の日本人は、かなりマグネシウム不足に陥っています。その原因は、昔ながらの伝統的な食生活が大きく変化したことです。特にマグネシウムが豊富な、大麦や雑穀などの全粒穀物の摂取量が激減した影響が大きいです。
さらに食生活の欧米化により、高脂肪・高たんぱく・高カロリーの食事が増えたために、ますますマグネシウムの摂取量は激減しています。このことが、高血圧患者さんの増加の一つの要因とも考えられます。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」などの資料から、1日当たり、女性は約80mg、男性は130mg以上もマグネシウムが不足していることがわかります(マグネシウムの推奨摂取量は成人男性が320~370mg、成人女性が260~290mg)。
さらに、これまでカルシウムとマグネシウムの理想的な摂取バランスは、「カルシウム2」対「マグネシウム1」といわれてきました。しかし、高血圧の予防・改善のためには、「カルシウム2」対「マグネシウム1.5~1」くらいの割合が適切だと、さまざまな研究の結果、わかってきました。
つまり、より意識してマグネシウム含有量の多い食品をバランスよく、日常的にとることが非常に大切だということです。
下記の「マグネシウムを多く含む食品リスト」をぜひお役立てください。
「そばのひ孫と孫は(わ)優しい子かい? 納得!」と覚えましょう
マグネシウムを豊富に含む代表的な食材(各100g当たり)
(※七訂食品成分表2016より安心編集部で作成)
そ ソバ(ゆで27㎎)
ば バナナ(32㎎)
の ノリ(青ノリ1400㎎、焼きノリ300㎎)
ひ ヒジキ(乾燥640㎎)
ま 豆(乾燥大豆220㎎)
ご 五穀(雑穀/アワ110㎎、キビ84㎎、大麦25㎎など)
と 豆腐(木綿130㎎、絹55㎎)
ま 抹茶(230㎎)
ご ゴマ(370㎎)
わ ワカメ(乾燥1100㎎)

や 野菜(ホウレンソウ:69㎎、ゴボウ:54㎎、オクラ:51㎎など)
さ 魚(キンメダイ:73㎎、アジ:34㎎)
し シイタケ(生:15㎎、乾燥:110㎎)
い イチジク(乾燥:67㎎、生:14㎎)
こ コンブ(乾燥:540㎎)
か カキ(牡蠣)(74㎎)
い イモ(ヤマトイモ:28㎎、サツマイモ:24㎎、ジャガイモ:20㎎)
なっ 納豆(100㎎)
と トウモロコシ(38㎎)
く クルミ(150㎎)


この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp