ケルセチンは、高血圧をはじめとする生活習慣病や、関節痛、アレルギー性疾患などの病気や症状の予防・改善効果が期待できる物質として近年盛んに研究され、血圧を直接下げるという海外の報告があります。私自身は、その強い抗炎症作用に注目しています。【解説】熊沢義雄(順天堂大学医学部非常勤講師・前北里大学教授・日本細菌学会名誉会員)

解説者のプロフィール

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熊沢義雄(くまざわ・よしお)

医学博士。順天堂大学医学部非常勤講師。前北里大学教授。日本細菌学会名誉会員。株式会社Vino Science Japan代表取締役社長。中小企業庁ミラサポ専門家。感染免疫と生薬成分の免疫薬理作用について研究。現在はファイトケミカル、特にフラボノイドの機能性に関する研究と機能性を生かした健康食品の開発を行っている。

炎症を強力に防ぐ成分

タマネギの皮には、ポリフェノールの一種である黄色の色素、ケルセチンが豊富に含まれています。

ケルセチンは、高血圧をはじめとする生活習慣病や、関節痛、アレルギー性疾患などの、多くの病気や症状の予防・改善効果が期待できる物質として、近年盛んに研究されています。

血圧に関しては、一定量のケルセチンを摂取することで、血液をサラサラにするHDLコレステロールが増えたり、血管をしなやかにするNO(一酸化窒素)の血中濃度が高まったりして血圧が下がる、という海外の報告があります。

ただ、このような血圧を直接下げる作用よりも、私自身は、間接的に血圧を下げるのに役立つ、ケルセチンの強い抗炎症作用に注目しています。

「炎症」とは、体内で起こった異常を元の状態へ戻すための防御反応の一種です。しかし、その反応が強くなり過ぎたり、長期にわたって続いたりすると、血管や細胞などを傷つけ、さまざまな病気を引き起こします。

炎症は、傷口から細菌が侵入したときを例にとるとわかりやすいでしょう。

細菌が侵入すると、それらと戦うために、患部には好中球(白血球の一種)が集まります。さらに、その戦いで死んだ好中球の死骸を片づけたり好中球を助けたりするために、マクロファージ(こちらも白血球の一種)も集まってきます。

マクロファージは、周囲の細胞に対して「現在攻撃を受けているので対抗しましょう」というお知らせも発します。このお知らせは、たんぱく質の一種である「サイトカイン」です。

サイトカインのお知らせで臨戦態勢に入った周囲の細胞は、血管を広げたりリンパ液を集めたりします。そのため、患部は熱を持ったり赤く腫れ上がったりするのです(炎症反応)。

サイトカインは数百種類ありますが、中でも過剰な炎症を招くのが「TNF‐α」です。

TNF‐αのある場所では、細胞や血管壁などをくっつける接着分子も発生します。通常は、白血球や血管壁はお互い同士がくっつくことはありません。しかしTNF‐αによって、表面がくっつきやすいように変化してしまうのです。

動脈硬化も、酸化したLDLコレステロールを食べた白血球が血管壁にくっつき、潜り込むことが引き金で生じます。動脈硬化が生じたり、接着分子によって細胞同士がくっつき、血液の流れが悪くなったりすると、血圧は上昇しやすくなります。

ケルセチンは、このTNF‐αが出るのを止める働きがあります。

ケルセチンは、血液中ではグルクロン酸(ブドウ糖の酸化物)とくっついた安定した状態で存在し、炎症と出合わなければそのまま体外へ排出されます。

しかし、炎症と出合うと、グルクロン酸を切り離してそこへ入り込み、TNF‐αが作られ過ぎるのを抑制。過剰な炎症を起こりにくくします。

動脈硬化が改善し、血液の流れがよくなれば、血圧は安定しやすくなるでしょう。

近年の研究では、慢性炎症は動脈硬化の他にも、糖尿病などの生活習慣病やアルツハイマー、がんなどとも深い関わりがあることがわかってきました。ケルセチンにはこれらの予防・改善効果も期待されています。

皮には可食部の30倍のケルセチンが含まれる

タマネギの皮には、可食部の20~30倍もの豊富なケルセチンが含まれています。ケルセチンは水に溶けやすい性質があるため、タマネギの皮を煮出してお茶にしたり、皮を粉末にして食べたりするとよいでしょう。

ケルセチンは、リンゴなどに多く含まれるペクチンなどの水溶性食物繊維と一緒に食べると、体内に吸収されやすいことがわかっています。

腸内環境がよくなれば、ホルモンの一種で、血圧の安定にも役立つメラトニンも活発に生成されます。アミノ酸の一種で血圧降下作用があるGABAも、腸内細菌によって作られます。

ケルセチンの健康への有用性を示す海外の報告は、その多くが、ケルセチンの大量・短期間摂取によるものです。

タマネギの皮茶で、それと同量のケルセチンを摂取するのは難しいですが、長期間・持続的に摂取すれば、ある程度の効果は期待できます。まずは2ヵ月を目安に試してみてください。

① タマネギの皮茶

画像1: ① タマネギの皮茶

鍋に500mlの水とタマネギの皮2個分(約7g)を入れる。

画像2: ① タマネギの皮茶

沸騰させてから、火を弱めて10分煮出す。

画像3: ① タマネギの皮茶

タマネギの皮をざるでこす。

画像4: ① タマネギの皮茶

【出来上がり】
粗熱を取ってから、ペットボトルや保存容器で保存。冷蔵庫で5日ほど保存が利く。お茶代わりに飲んだり、料理に使用したりするとよい。

② タマネギの皮の粉

画像1: ② タマネギの皮の粉

タマネギの皮をためる。

画像2: ② タマネギの皮の粉

サッと洗う。

画像3: ② タマネギの皮の粉

水気を拭き取り乾かす。

画像4: ② タマネギの皮の粉

ミルサーなどで粉砕する。ない場合は、ハサミで切ってもよい。

画像5: ② タマネギの皮の粉

【出来上がり】
1日に小さじ1杯程度を目安にとる。みそ汁やスープに入れたり、カレーに入れたりすると、とりやすい。

画像: この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。

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