解説者のプロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)
医学博士。高血圧専門医。聖光ヶ丘病院顧問、前東京女子医科大学東医療センター内科教授、前愛知医科大学客員教授、早稲田大学客員教授、日本歯科大学病院内科臨床教授。専門は高血圧を中心とした循環器病。1987年8月から、連続携帯型血圧計を装着し、以来、365日24時間血圧を測定。現在も引き続き連続装着記録更新中。高血圧改善の研究をライフワークとする「ミスター血圧」。『ズボラでもみるみる下がる測るだけ血圧手帳 最新ガイドライン対応版』(アスコム)など、著書多数。
血圧を上げない生活術・朝
❶ 朝食はしっかり食べる。ただし、極力減塩を。
朝食を抜くと、血圧が上がりやすくなります。空腹によるストレスで交感神経(心拍数や血圧を上げるなど、全身の活動力を高める神経)が刺激されるからです。まずはしっかり朝食を食べるようにしましょう。
朝食の内容も重要です。朝食では、なるべく塩分は控えめにしましょう。朝の食事で塩分をとり過ぎると、1日の平均血圧が高めになるからです。
血圧のためには、3食とも減塩食が好ましいのですが、難しいという方は、まずは朝食を減塩食にしてみましょう。
「そうはいっても、減塩食なんて、作るのが難しい」という方もいますよね。そういう方には、「フルーツグラノーラと牛乳(またはヨーグルトか豆乳)」の朝食をお勧めしています。
フルーツグラノーラ1食分(50g)の塩分は、わずか0.2g。これに牛乳をかけても、塩分は0.5gです。フルーツグラノーラは栄養バランスもよく、食物繊維も豊富。手間がかからず保存も利くので、忙しい方でもとり入れやすいのが利点です。
❷ 大さじ1杯の酢をとろう。
血圧が高めの男女64名に大さじ1杯(15ml)の酢を10週間飲んでもらったら血圧が下がった、という研究があります。そこで私も実際に、高血圧の患者さんに協力をお願いして調査をしました。
約3週間、起床時に大さじ1杯の酢を飲んでもらったところ、24時間の平均収縮期血圧(上の血圧)が4mmHg下がりました。これは塩分を4%減らしたときの効果に匹敵します。
酢には米酢、黒酢、リンゴ酢などいろいろな種類がありますが、醸造酢であれば、お好みのもので構わないでしょう。ただし、必ず水などで薄めて飲み、胃の弱い人は食後に飲むようにしたほうが安心です。飲みにくい場合は、ハチミツなどで甘味をつけてもいいでしょう。
血圧を上げない生活術・昼
❶ 通勤や買い物のときは、上りはエスカレーター、下りは階段を使おう。
適度な運動は血圧を下げるのに有効ですが、なかなか運動の時間が取れない、という人が多いもの。そんな場合は、通勤や買い物などの外出時に、階段を活用しましょう。
ただし、高血圧の人の場合、階段を急いで駆け上がったりするのは、実は危険。急激に血圧が上がるのです。
そこで提案したいのが、上りはエスカレーターやエレベーターを使い、階段は下りだけを使うこと。これなら血圧は上がりませんし、運動効果も上りのときとそれほど変わりません。

階段は下りるときのみ使うとよい
❷ お昼のメニューはそばよりステーキを。
忙しいお昼に手軽に食べられるそば。カロリーの低い健康食、というイメージがありますが、高血圧の人にはお勧めできません。めんつゆはもちろんのこと、そば自体にも塩分が含まれているからです。
ランチメニューでお勧めなのが、ビーフステーキです。塩分は1食(200g)で2~4gと控えめですし、肉の部位を選べば、カロリーも抑えられます。ただし、食べるときは塩分の多いステーキソースは使わず、コショウやレモン汁などで食べるようにしてください。
❸ 15分の仮眠を取ろう。
睡眠不足は血圧の上昇を招きます。毎日しっかり睡眠を取るのが理想ですが、それが難しい人は、お昼の休憩中などに、15分ほどの仮眠を取りましょう。
「たった15分」と思うかもしれませんが、このくらいの時間の方が体の睡眠サイクルを妨げませんし、ストレスを軽減して血圧を下げるのに役立ちます。
❹ おやつには皮つきピーナツやチョコレートを。
「ピーナツを食べている人は死亡率が低かった」というハーバード大学の研究があります。そこで、ピーナツの血圧への効果について調査をしました。
塩を使っていない皮つきのピーナツを、毎朝20粒、被験者に食べ続けてもらったところ、3~4週間後には血圧が8mmHgも下がり、その後も下がった状態が維持されました。
これは、ピーナツにバランスよく含まれる飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸や、ピーナツの皮に含まれるポリフェノールの効果によるものと思われます。
なお、ピーナツは必ず無塩のものを、皮つきで食べるようにしてください。目安は1日20粒ほどです。
ピーナツ以外では、チョコレートもお勧めです。チョコレートに含まれるカカオポリフェノールに、血圧を下げる作用のあることが、さまざまな機関の実験でわかっています。
ただし、血圧を下げる効果が認められているのは、カカオ70%以上のもののみです。カカオの含有量が少ないチョコレートでは効果がありません。効果を得るには、高カカオチョコレート1回5g程度を、3時間おきに食べるといいでしょう。
❺ おなかのきつい洋服には要注意!
おなかのきつい洋服を無理に着たり、ベルトをきつく締めたり……。こんなふうに、体を必要以上に締めつけると、血圧が急上昇します。血圧の高い人は、普段からなるべく体を締めつけない服装を心掛けましょう。
血圧を下げる生活術・夜
❶ ぬるめのお湯で半身浴を。
39~40℃程度のぬるめのお湯で、ゆったり入浴しましょう。熱いお風呂は血圧を急上昇させるので、高血圧の人にはお勧めできません。
なお、入浴時に肩までお湯につかると、水圧がかかって血圧の上昇を招きます。長湯をしたい場合は、半身浴にするといいでしょう。
❷ 入浴前後に必ず水を飲もう。
入浴すると汗をかくので、体の水分が少なくなり、血管が詰まりやすくなります。血圧が上がるだけでなく、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)などを招く恐れがあるので、のどが渇いていなくても、入浴の前後には必ず水を1杯ずつ飲んでください。
❸ 睡眠時は横向きに寝よう。
「いびきがひどい」「昼間にものすごく眠くなる」などの症状がある人は、「睡眠時無呼吸症候群」の可能性があります。これが高血圧の原因の一つとなることがわかってきました。
重症の場合は専門的な治療が必要ですが、自分ですぐできる対処法としては「横向きに寝る」ことがあります。
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に、のどの奥にある軟口蓋が下がって気道が塞がれると起こりますが、横向きに寝れば、その頻度は激減します。その結果、血圧の上昇も抑えられるというわけです。

横向き寝で睡眠時無呼吸症候群を防ごう
血圧を下げる簡単セルフケア
1回で20~30㎜Hg血圧が下がる!
「合谷(ごうこく)刺激」
刺激する場所=合谷のツボ
手の親指と人さし指の骨が合わさる辺り。両手にある。

刺激のしかた
親指を合谷に当て、残りの指で手のひら側から挟む。
親指でぐーっと合谷を押したり、もみほぐしたりしながら、強めの刺激を3~5分続ける。反対側の手も同様に行う。

※痛くて押せない、手が疲れるという人は、人さし指と中指で合谷をトントンとたたいてもよい。片方の手につき60回行う。

※合谷刺激の降圧効果は4時間ほど続くので、4時間おきに、1日3回ほど行うのがお勧め。
全身の血流をよくして血圧を下げる
「ふくらはぎパンパン法」
❶両手のひらの柔らかい部分で、ふくらはぎの両側面を、下から上に向かって少し強めにパンパンたたいていく。

❷両手の握りこぶしの親指側で、ふくらはぎの中央を、下から上に向かって少し強めにたたいていく。

※①~②を、片方の足につき3分ほど行う。1日3回行うと効果的。食後30分を避ければ、いつやってもよい。
■イラスト/石山綾子

この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。
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