解説者のプロフィール

堀之内裕史(ほりのうち・ゆうじ)
アクア整骨院グループ代表・柔道整復師。1974年、大阪府茨木市生まれ。芸人を目指す半ばで、治療の世界に触れ、その道を志すことを決意。整骨院での治療だけでなく、整形外科に就職するなど、積極的に多くの知識を学ぶ。滋賀県で最も愛される整骨院を目指し、「アクア整骨院」グループを現在3店舗経営。ユーチューブなどでの情報発信も精力的に行っている。
筋肉のこわばりが血圧を上げる要因に
血圧の上昇には、多くの要因がかかわっています。例えば、食塩をとり過ぎてもいけませんし、過労やストレス、睡眠不足なども、血圧を引き上げます。そして、意外に知られていないのが、首や肩のコリです。
高血圧で悩んでいる人の体をチェックしてみると、首や肩がひどくこっていることが少なくありません。首や肩のひどいコリによって、もともと高めだった血圧がさらに引き上げられている可能性があるのです。
そこで、首や肩のコリを施術によってほぐすと、実際に血圧が下がるという反応が起こります。首や肩の筋肉のこわばりが取れると、筋肉の緊張によって引き上げられていた分の血圧が下がっていくのです。
こうしたコリによる血圧の上昇を解消する方法を、私は10年ほど前から施術に取り入れています。当時、私はある病院で働いていましたが、そのリハビリルームにやってくる患者さんたちの首や肩のコリをほぐすことで、血圧を下げるお手伝いをしていたのです。
その後、私は自分の治療院を開業。去年からはインターネットで、さまざまなセルフケアの情報を発信するようになりました。
そこで、この施術方法「鎖骨のばし」(やり方は下項参照)を、血圧を下げるセルフケア法の一つとして紹介したところ、大変好評でした。「やってみてよかった」「実際に血圧が下がった」等、多くの反応が返ってきています。
こっている人ほど効果が現れる
ところで、なぜ鎖骨のばしを行うと、血圧が下がるのでしょうか。
鎖骨のばしでは、主に、広頚筋(こうけいきん)〈首の前面に広がる筋肉〉 と、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)〈胸骨と鎖骨の2ヵ所から始まり耳の後ろの頭蓋骨についている筋肉〉をストレッチします。
この二つを引き伸ばすことで、筋肉のこわばりがほぐれ、これらに近接している「星状神経節(せいじょうしんけいせつ)」のバランスを整えることができるのです。
星状神経節とは、興奮することで血圧を上昇させる交感神経が密集している場所です。
整形外科などで、「星状神経節ブロック」といった治療法を耳にしたことがある人も多いでしょう。注射に限らず、星状神経節を刺激して自律神経(私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管などをコントロールしている神経)のバランスを整えることで、さまざまな健康効果がもたらされます。
今回の鎖骨のばしも、同じような効果をねらったものです。二つのこわばった筋肉をストレッチでほぐすことで、星状神経節が刺激されます。すると、星状神経節を介して自律神経の働きが整い、血圧を引き下げる効果が期待できるのです。
鎖骨のばしは、こっている人ほどすぐに効果が現れやすいです。立って行うと、血圧が下がり過ぎてフラフラする場合があります。転倒のリスクもあるので、なるべく座って行いましょう。
首や肩の筋肉がかたく緊張したり、こわばっていたりする人は、このストレッチを行うと、心地よく感じると思います。しかし、痛みを感じるほど力を入れて行うのはお勧めできません。あくまでも、ストレッチしたとき、「気持ちがいい」と感じる感覚を大事するといいでしょう。
鎖骨のばしは、いつ行ってもかまいません。例えば、仕事中のパソコン作業の合間に行ってもいいのです。回数や時間よりも、できるだけ毎日継続することを重視しましょう。
高血圧になったからといって、薬に頼り切りになるのは、得策ではありません。食事に気を配ったり、セルフケアを根気よく行ったりすることで、少しずつ自分の体を変えていきましょう。
それが、薬を減らしたり、薬なしで血圧をコントロールできるようになったりするための近道なのだとお考えください。
鎖骨のばしのやり方
※ 1日に何セットやってもOK。
※ 転倒防止のため、できるだけ座った状態で行う。
※ 手が滑らないように、鎖骨は肌を直接押さえるとよい。
※ 左右逆側も同じように行う。

❶イスに腰かけ、左手を斜め後ろに伸ばし、顔を右に向ける。

❷右手のひら全体を使って、右の鎖骨を押さえる。

❸右手で鎖骨に力を加えながら、顔を右上に向け、首を伸ばす。深呼吸しながら15秒間を1セットとし、計3セット行う。

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。
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