ストレスを受けると、自律神経の交感神経が刺激されます。その結果、血管が収縮して血圧が高くなり、心臓の筋肉の収縮力が強まり、負担が大きくなるのです。あくび体操で大きく呼吸をすれば、副交感神経が働きます。すると血管が広がって血圧が低くなり、心臓の筋肉も楽ができます。【解説】小笠原文雄(小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

小笠原文雄(おがさわら・ぶんゆう)

小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長。1948年岐阜県生まれ。日本在宅ホスピス協会会長、名古屋大学医学部特任准教授、医学博士。73年名古屋大学医学部卒業。名古屋大学第二内科を経て、89年に小笠原内科を開院。以来、在宅看取りを1500人以上、1人暮らしの看取りを90人以上経験。ガンの在宅看取り率は95%以上である。2020年、ヘルシー・ソサエティ賞授賞。主な著書に、『なんとめでたいご臨終』(小学館)がある。
▼小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

両手を上げてあくびをするだけ

「寝る子は育つ。笑う門には福来る。さあ、みんなで『あくび体操』をしましょう!」私が講演会を締めくくるときは、このように呼びかけ、会場にいるお客さんとあくび体操を行い、全員でいっしょに笑顔でピースをします。

しっかりと睡眠を取り、よく笑ってあくび体操をすることは、血圧を安定させて心臓への負担を減らすために、非常に効果的なのです。

あくび体操は、両手をゆっくりと高く上げ、胸いっぱいに空気を吸い、あくびをするときのように「あ~あ」と声を出して、両手を左右に下ろす体操です。詳しいやりかたは、下項をご参照ください。

「こんな方法で、ほんとうに効果があるのか?」と疑問を抱くかもしれませんが、ご安心ください。私は名古屋大学で「心不全の患者を血管拡張療法で血管を広げ、心不全を改善する」という論文で博士号を取得した、心不全治療のプロだったのです。

少し詳しく説明すると、あくび体操では両手を高く上げます。このとき、頭が自然に持ち上がり背すじが伸びるので、肺に空気を多く取り込めて深く呼吸をすることができます。

また、「よし、あくびをしよう」と思ってもあくびは出てきませんが、「あ~あ」と声を出すことはできるはずです。こうやって声を出すことで、あくびと同じリラックス効果を得られ、血圧が安定するのです。

あくび体操はいつ、何セット行ってもかまいません。「疲れたな」「ストレスがたまってきた」と感じたときには、ぜひあくび体操を行ってください。

注意が必要なのは、食事中にむせやすい人です。食後すぐにあくび体操を行うと、せき込んだり苦しくなったりする可能性があるので、時間を空けてから行うようにしましょう

あくび体操のやり方

●好きなときに何回行ってもよいが、毎日行う。特に、ストレスを感じたときに行うのがお勧め
※むせやすい人は、食後に行うのは避ける

画像1: あくび体操のやり方

手足は肩幅に開き、背すじを伸ばして胸を開く。

画像2: あくび体操のやり方

両手をゆっくりと高く上げながら、深く息を吸い込む。

画像3: あくび体操のやり方

「あ~あ」とあくびをして、両手をゆっくり下ろす(声だけでもよい)。

画像4: あくび体操のやり方

再び①、②を行い、上げた両手をゆっくり下ろしながら、「わっはっは」と笑う。

心臓肥大が小さくなった例も

あくび体操の考案に至ったのは、私自身の経歴に関係があります。私は名古屋大学医学部を卒業したあと、病院に勤務しながら研究生活を続けていました。しかし、激務によるストレスで目を悪くし、勤務医を続けられなくなり、1989年に小笠原内科を開業しました。

それから、ストレスが体に与える影響を身をもって知った私は、ストレスから解放されてリラックスする方法を考えるようになりました。このような経緯で、あくびの効果に思い至り、あくび体操を考案。1991年から実践したのです。

それからは、患者さんや講演会のお客さんに、あくび体操を教えてきたのですが、周りの医師が驚いた事例がいくつかあるのでご紹介します。

当時75歳だったAさん(男性)は重症の心不全で、心臓が胸の82%を占めるほど大きくなっていました。正常は45%以下ですから、Aさんは重度の心臓肥大で、通常だと長くは生きられない状態だったのです。

Aさんは入退院をくり返していたため、奥さんは疲れ果てていました。そこで、人生の残りの時間を自宅でいっしょに過ごすため、私が往診することになりました。

往診の際、入院中は禁止されていたみそ汁を飲みたいとAさんは話していました。そこで、「飲んでいいですよ。ただし、必ずあくび体操をしてください」と私は伝えました。

「心不全の患者さんにみそ汁を許可するなんて」と驚かれるかもしれませんが、私がそうした理由は三つあります。

❶自宅で過ごすことで、リラックスできている

病院は安心できる場所のようで、実は病気と闘うためのストレス空間でもあります。入院中、緊張していた患者さんは、住み慣れた自宅に戻ってきただけでリラックスします。それによって、緊張で過度に収縮していた血管が拡張し、心臓の負担が減っている状態なのです。

❷我慢はストレスの原因

病気になれば、「塩分摂取はダメ」「お酒はダメ」などと我慢を強いられることが増えます。これは大きなストレスになり、血管を収縮させる原因になります。Aさんの場合、これ以上、我慢をさせる必要はないと判断しました。

❸血管拡張療法として、あくび体操を取り入れる

ストレスを受けると、意志とは無関係に体をコントロールする自律神経の交感神経が刺激されます。その結果、血管が収縮して血圧が高くなり、心臓の筋肉の収縮力が強まり、負担が大きくなるのです。

このような状態のときに、あくび体操で大きく呼吸をすれば、副交感神経が働きます。すると血管が広がって血圧が低くなり、心臓の筋肉も楽ができます。

自宅で過ごすようになってからは、Aさんの心臓肥大は改善していきました。心臓の大きさは3年後に54%に、10年後には49%まで小さくなっていたのです。Aさんの胸部レントゲン写真を見せると、多くの医師がびっくりします。

あくび体操が起こした奇跡であると同時に、住み慣れた我が家で過ごすことの重要性を認識させてくれた事例でした。

画像: (左)真ん中の白い影が心臓。入院時は胸の82%を占めていた。 (右)在宅ケアであくび体操を取り入れて3年後、心臓は54%に小さくなった。

(左)真ん中の白い影が心臓。入院時は胸の82%を占めていた。
(右)在宅ケアであくび体操を取り入れて3年後、心臓は54%に小さくなった。

寝たままでも座ったままでも行える

もう一つ、私の頭に浮かんでくる事例は、当時72歳で、子宮腫瘍などを患って入院していたBさんです。

Bさんはむくみがひどく、大量の胸水があり、両方の胸に管を挿入して胸水を抜いていましたが、本人と親族の希望があったことから、私がBさんの主治医と話し合ったうえで、退院することになりました。

そして、私が往診して治療を行うようになったところで、もちろんあくび体操も指導しました。寝たきりの人は布団の中で、立ち上がるのが困難な人は座ったままあくび体操を行っても、効果があるのです。

やがてBさんはむくみが改善し、胸水も減って呼吸が楽になり、元気を取り戻しました。さらに、退院して1ヵ月後に庭でひなたぼっこが、そして2ヵ月後には畑仕事もできるようになったのです。

私は在宅ホスピス緩和ケアに取り組んでいるため、紹介できる事例は重症の患者さんが中心になります。しかし、軽症の高血圧の人や健康に問題のない人でも、あくび体操は血圧改善をはじめ、さまざまな健康効果が期待できると考えています。

ですから、重症でなくとも高血圧に悩んでいる人は、ぜひあくび体操を試してみてください。あくび体操の魅力は、お金がかからないうえ、やったあとに自然と表情が緩むこと。せっかくの人生ですから、あくび体操で皆さんも笑顔で長生きしてください。

画像: あくび体操をする小笠原先生。このように伸びのびとあくび体操をしましょう!

あくび体操をする小笠原先生。このように伸びのびとあくび体操をしましょう!

画像: この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。

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