解説者のプロフィール

内山葉子(うちやま・ようこ)
葉子クリニック院長。関西医科大学卒業。大学病院・総合病院で腎臓内科・循環器・内分泌を専門に臨床・研究を行った後、葉子クリニックを開設。総合内科専門医、腎臓内科専門医、ホメオパシー専門医。著書に『パンと牛乳は今すぐやめなさい!』『おなかのカビが病気の原因だった』『健康情報のウソに惑わされないで!』(いずれもマキノ出版)。
▼葉子クリニック(公式サイト)
最大血圧160ミリまでなら、まずは生活習慣を見直す
「高血圧」と診断されたら、薬を飲むしかないと思っていませんか? そして一度薬を飲み始めたら、一生飲み続けなければならない、と思っている人も多いのではないでしょうか。
血圧の高い状態が続くと、動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞といった重大な病気を起こすリスクが高まります。最大血圧が200mmHgを超えているような人は、すでに動脈硬化が進行していると考えられるため、すぐにでも薬で血圧を下げるべきです。
また、糖尿病患者さん、本人や家族に心筋梗塞・脳梗塞などの既往歴がある人も、リスクが高いため薬が必要となります。
しかしそれ以外の、例えば最大血圧が140〜160mmHg、最小血圧が85〜95mmHgくらいであれば、まずは1ヵ月くらい生活習慣を見直してみます。そして、経過を見てから薬を飲むべきかどうか判断しても、遅くはないと私は考えています。
そもそも血圧が高くなるのには、さまざまな要因があります。
強いストレス、睡眠不足、暴飲暴食、喫煙、肥満、運動不足もその一因です。更年期の女性はホルモンバランスの乱れから、一時的に血圧が高くなることもあります。
こうした要因が解決すれば、血圧が下がってくることも少なくないのです。なかには「白衣高血圧」といって、病院の診察室で測ると、緊張して血圧が上がる人がいます。このような人は、ふだんの血圧が正常であれば、そもそも薬は必要ありません。
ですから、本来は家庭でも血圧を測定するとともに、睡眠や食生活に原因があるならその改善をします。それでも血圧が下がらなかった場合に、投薬治療を考えるべきなのです。
ストレスや更年期など、生活改善では解決できない要因を抱えている場合は、一時的に薬で血圧を下げることが必要かもしれません。その場合も、時間とともに要因がなくなり、血圧が下がってきたら、主治医と相談しながら薬を減らせます。最終的にはやめることも可能です。
いずれにしても、高血圧には薬が必要な人もいる一方で、必ずしも全員がすぐに薬を飲まないといけないとか、一生飲み続けなければならないということではないのです。
必要ないのに薬を飲んでいたり、血圧が下がっているのに同じ量の薬を飲み続けていたりすると、今度は低血圧のリスクが出てきます。
特に高齢者は、立ちくらみを起こして転倒したり、脳に十分な血液が送られずに認知症のリスクが高まったりすることもあるので、注意が必要です。
ただし、自己判断で薬をやめるようなことは絶対にしないでください。
立ちくらみ、頭痛、ふらつき、異常に眠いなどの症状が出てきたら、必ず主治医に相談し、医師の指導のもとで薬を減らしましょう。
血圧が下がっているにもかかわらず、薬を見直してもらえない場合は、セカンドオピニオン(治療などについて、主治医と別の医師に意見を求めること)を考えたほうがよいかもしれません。
ノートで確認しながら薬をやめられる人が多数
では、血圧の高い人は、どのような生活改善を行うべきでしょうか。
まず心がけてほしいのは、睡眠をしっかりとることです。できれば、7時間くらい寝るのが理想です。
食生活ではよく塩分が問題にされますが、血圧に直結するのは食卓塩(ナトリウムだけの人工塩)や添加物に含まれる塩です。ですから、加工食品は極力控え、ミネラルが豊富な天然塩を使ってください。
同時に野菜や果物をしっかり食べて、カリウムを摂取しましょう。カリウムは体内の余分な塩分の排泄を促します。梅干しにはカリウムやマグネシウムが含まれており、塩分はあまり気にしなくても大丈夫です。
また、砂糖は体をむくませて血圧を上げる方向に働くので、要注意です。お酒の多飲は眠りを浅くしたり、血圧を上げたりします。タバコは言語道断。食事はできるだけ決まった時間にとり、夜遅くに食べないといったことも心がけましょう。
運動に関しては、ウォーキングやヨガなど、自分が気持ちいいと思う程度の軽めの運動がお勧めです。激しい運動は、かえって血圧を高くします。
高血圧の患者さんに心がけてほしい
生活改善8
❶ 睡眠をしっかりとる
7時間は寝るのが理想
❷ 食卓塩ではなく天然塩をとる
添加物の多い加工食品は避ける。
❸ 野菜や果物をしっかり食べる
カリウムを摂取し、体内の余分なナトリウムを排出。梅干しもお勧め。
❹ 砂糖を控える
❺ 過度の飲酒はしない
❻ 禁煙する
❼ 決まった時間に食事をとる
夜遅くの食事は控える。
❽ 軽めの運動を行う
ウォーキングやヨガなど、気持ちいいと思える程度の軽めの運動がよい。
そしてもう一つ、高血圧に正しく対処するために、家庭で血圧を測り、ノートに記録することをお勧めします。
手首で測る血圧計は誤差が生じやすいので、できれば上腕で測る血圧計を入手してください。朝起きてトイレに行ったあとと、夜寝る前の1日2回、それぞれ安静時に測定します。
血圧とともに、天気や体調、また睡眠不足やストレスのかかる出来事などがあったときは、それも記録しておきましょう。外食や間食、飲酒をしたときも書いておくとベストです。
こうすることで、血圧が上がったときに、それが一時的なものなのか、また原因が何かを冷静に判断することができます。それは自分の健康管理に役立つだけでなく、医師が薬を処方する際にも参考になり、正しい治療につながるのです。
血圧ノートをつけよう!
❶ 1日2回血圧を測定
朝起きてトイレに行ったあとと、夜寝る前の1日2回、それぞれ安静時に測定する。
❷ 血圧ノートをつける
ノートを用意し、毎日の血圧を記録。自分の血圧とほかの要素との関係を把握する。
【記録すること】
・1日2回の血圧
・天気
・体調
・睡眠
・ストレスのかかる出来事
・外食、間食、飲酒 など
※血圧ノートは担当医にも見せましょう。
Mさん(70代・男性)の例を紹介しましょう。Mさんは、仕事で接待が多く、肥満ぎみでした。50代になると最大血圧が150mmHgと高くなり、降圧剤を飲んでいました。しかし、退職後は接待がなくなり、自分でも生活習慣を見直して15kg減量。血圧も110mmHgに下がり、立ちくらみがするようになったので医師に相談するも、薬の見直しはなかったそうです。
そこで当院に来られたので、家庭で測定した血圧などをノートに記録してもらいました。それを確認しながら薬を減らしていき、2ヵ月後にはすべてやめることができました。
このように、ノートをつけて生活を見直すことで、実際に薬がやめられた人が、当院には多数いらっしゃいます。

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp