原因の生活習慣を改めることができれば、血圧はたいてい下がります。数値が下がれば、降圧剤の量を減らせますし、その後、基準値内で安定するなら、薬をやめることも可能でしょう。重要なポイントは、「無理をしない」ことです。【解説】石川義弘(横浜市立大学副学長・横浜市立大学大学院医学研究科循環制御医学主任教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

石川義弘(いしかわ・よしひろ)

横浜市立大学副学長・横浜市立大学大学院医学研究科循環制御医学主任教授。エール大学医学部を経て、横浜市立大学医学部を1984年卒業。コロンビア大学、ハーバード大学医学部助教授、ペンシルバニア州立大学医学部准教授、ラトガース大学医学部教授・病院指導医(循環器内科)を経て現職。日本生理学会理事長、日本病態生理学会理事、日本循環制御学会理事。日本心不全学会、日本内分泌学会、日本心血管内分泌代謝学会の評議員・代議員なども務める。

血圧を上げる原因は一人ひとり違う

我が国の高血圧の患者数は、4300万人を超えるといわれています。高血圧は、まさに国民病といえるでしょう。放置しておくと、血管を傷つけ、心筋梗塞や脳卒中などを起こす危険があります。ただし、きちんとコントロールすれば、決して怖い病気ではありません。

高血圧の対処法を紹介する前に、高血圧とはどのような病気か、簡単に説明しましょう。

日本高血圧学会では、最大血圧が140mmHg以上、最小血圧が90mmHg以上を、高血圧と定義しています。高血圧は、大きく二つに分類されます。

原因が特定できる「2次性高血圧
原因のはっきりしない「本態性高血圧

2次性高血圧を引き起こすものには、腎臓や内分泌の病気などがあります。こちらは原因となる病気の治療を優先して行うことが肝心です。

一方、本態性高血圧は、高血圧の9割を占めます。

原因がはっきりしないとはいえ、全くわからないわけではありません。血圧を上げる原因として、遺伝的要因、肥満、塩分のとり過ぎ、喫煙、過度の飲酒、運動不足、ストレス、睡眠不足、加齢などがあり、多くはそれらが複雑に絡み合っています。

高血圧になる事情は、一人ひとり違っているといってもいいのです。まず、この点を踏まえておきましょう。

薬は飲み続けなくてはいけない?

では、高血圧になったらどうやって血圧をコントロールすればいいのでしょう。降圧剤を飲めばいいのでしょうか。

「高血圧になったら、ずっと薬を飲み続けなければならないのですか」とよく聞かれます。私は、「半分正解で、半分間違いです」と答えます。

血圧を上昇させる複数の原因のなかで、あなたの血圧を特に引き上げているものがあるはずです。その原因が何かを考えてみてください。そして、その原因を改めましょう。

肥満が原因なら「やせる」、塩分が影響しているなら「塩分制限」、いつも座りっぱなしなら「運動を心がける」などです。

原因の生活習慣を改めることができれば、血圧はたいてい下がります。数値が下がれば、降圧剤の量を減らせますし、その後、基準値内で安定するなら、薬をやめることも可能でしょう。

ただ、自己管理がうまくできずに、血圧がたびたび危険な領域まで上がるようなら、薬を飲み続ける必要があります。

最大血圧が200mmHgを超えているのに、「私は薬が嫌い。努力で治します」と薬をいっさい拒まれる患者さんがいます。しかし、これは、脳卒中や重篤な心疾患などにつながりかねない、リスクがあります。

薬である程度血圧を下げてから、運動や食事療法を行うことを、お勧めしたいと思います。

運動後に出る一酸化窒素はどんな降圧剤より優秀

生活習慣を変えるうえで重要なポイントは、「無理をしない」ことです。

例えば減塩は、高血圧改善の重要な柱の一つです。アメリカで診療を行っていたとき、私は高血圧の患者さんに食事指導をしていました。

このときの食事の塩分は1日2%。これでは、なんの味もしません。日本人の平均的な塩分摂取量が、現在、1日11~12gです。2gでは、日本人はとうていやっていけないでしょう。

高血圧の人は、塩分をとり過ぎている人が少なくありません。「ラーメンのスープ、全部飲みますか」と聞くと、たいてい「飲み干す」といいます。そういう人には、「スープを半分残しましょう」と提案します。

また、そうした人は白菜漬けに必ずしょうゆをかけます。その場合、「漬け物をやめないかわりに、しょうゆなしで食べてください」とアドバイスします。塩分が足りないなら、少しだけかけましょうと。

理想的な1日6g未満の塩分摂取を、いきなりやろうとしても長続きしません。自分でできるところから始めて、少しずつ減らすほうがいいのです。

運動についても、同じことが当てはまります。

週に3回以上、1回30分以上の運動が推奨されていますが、患者さんは、「忙しい」「時間がない」などの理由で、なかなかやってくれません。

私は、そういう人の通勤路を確認し、「通勤時、近くのバス停の二つ先のバス停まで歩いてから乗る」「帰りも最寄り駅の1駅手前で降りて歩く」「8階のオフィスなら、4階まで階段で上がる」といった提案をします。

「今夜できる」「明日の朝からできる」そんな運動から始めることがコツです。

特別なものではなく、ふだんの生活のなかでできるウォーキングやストレッチなどでかまいません。息が切れるようなきつい運動ではなく、「ハーハー」と軽く息がはずむ程度の運動がいいのです。

血管は、車のエンジンと同じで、使わないでいると、だんだん不調になります。かたくなり、血圧が高くなるのです。

逆に運動すれば、血液循環がよくなります。運動で血管が拍動することで、血管内壁が刺激されると、血管内膜の内皮細胞から、NO(一酸化窒素)がたくさん分泌されます。このNOが血管を拡張して若々しく保ち、血圧を下げてくれるのです。

この効果は、どんな降圧剤より優秀です。

減塩や運動を少しずつでも根気よく続けると、血圧に変化が現れます。下がってくれば、結果に励まされ、続けることがだんだん楽しくなるでしょう。

薬を飲んでも効かない人は無呼吸症の疑いあり

ストレスも、血圧を上げる有力な原因です。パソコン関連の仕事をしている男性で、なかなか血圧が下がらない人がいました。薬を変えても血圧が下がらず、薬の種類と量だけがしだいに増えました。

ところがある日、その男性から、「血圧が下がりました」と報告がありました。聞くと、「退職したら、急に血圧が下がった」というのです。この男性の場合、仕事のストレスが高血圧の主因になっていたのでしょう。

仕事のストレスが高血圧の原因とわかっても、仕事をやめられる人は少ないでしょう。しかし、原因に気づいたのなら、なんらかのストレス対策を行うことで、血圧を下げる効果も生み出せると、前向きに考えるべきです。

最後に、寝ている間に何度も呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群の人は注意が必要です。

本来、下がるべき夜中に血圧が上がるからです。いろいろと薬を飲んでも血圧が下がりにくい人は、無呼吸症の疑いがあるので、一度検査を受けたほうがいいでしょう。無呼吸症の治療を受けることが血圧を下げることにつながります。

いずれにしても、自分の生活を見直して、自分の血圧を上昇させている条件がなんなのか、よく考えてみましょう。

原因を突き止め、生活を少しずつ変えていく。それが、薬をやめるための近道となるのです。私の患者さんには、そうやって薬の量を減らせたり、薬が不要になったりした人が多数おられます。

薬に頼らず
血圧を下げるためのポイント

血圧を上げている原因を考え改める
自分の高血圧と関係があると思われる原因を特定し、1つずつ対処する。

肥満→やせる、塩分のとり過ぎ→塩分制限、喫煙→禁煙、過度の飲酒→酒量を減らす、運動不足→適度な運動を始める、ストレス→ストレスになる時間を減らす、睡眠不足→睡眠時間を増やす、など

無理な対処はしない
降圧のための対処法は、がんばり過ぎると続かない。いずれも無理をしない程度から始める。

【減塩】・ラーメンのスープ→半分残す、白菜漬け→しょうゆなしで食べる
【運動】通勤時などに少し多めに歩く、最寄り駅の1駅手前で降りて歩く、エレベーターだけでなく半分は階段を利用、「ハーハー」と軽く息がはずむ程度の運動、など

画像: この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.