浮き指とは、足指のうち何本か、あるいはすべてが地面と接していない状態をいいます。浮き指は足の一部に負担がかかり、ウオノメやタコ、外反母趾や内反小趾など、指が変形して痛みます。さらに、体全体にゆがみが生じて、足首やひざ、股関節、腰、肩・首などが、痛んだりこったりする症状が現れるのです。【解説】伊藤勇矢(いとう鍼灸整骨院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

伊藤勇矢(いとう・ゆうや)

いとう鍼灸整骨院院長。柔道整復師。鍼灸師。世界最高峰のトレイルランニング大会「ウルトラ・トレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」日本人初のメディカルトレーナーとして、2017年から3年連続参加。現在、国内外にクライアントを抱えながらも、教育現場や地域の健康セミナーでの指導にも力を入れている。
▼いとう鍼灸整骨院(公式サイト)

足指が地面から浮くと体がゆがむ

神戸市で治療院を開いている私は、これまで、患者さんやアスリート、セミナー参加者など12万人以上の足をケアしてきました。

多くの人の足を見てきた傾向として、患者さんはもちろん、セミナー参加者でも、体に不調を感じている人の多くが「浮き指」の状態になっていることが挙げられます。それは、アスリートも決して例外ではありません。

本来、足指は5本の指すべてが地面に接しているものです。浮き指とは、足指のうち何本か、あるいはすべてが地面と接していない状態をいいます。

浮き指になる原因の根本は、足指が使えていないことです。便利な世の中になり、足指を使う必要があまりなくなりました。ふだんの生活で足指が運動不足になっています。また、靴の選び方や履き方を間違えていることも、足指の機能を衰えさせる要因の一つとなっています。

足指は、地面に着いていることで、立ったり動いたりする際にバランスを取る働きをしています。指が浮いて不安定になると、バランスが取りにくくなり、体は足以外の部分も使って、なんとか転ばないように踏ん張ります。

足指が浮くことで、足の骨格や関節の配置も崩れます。足につながる筋肉が運動不足になったり、緊張し過ぎたりすることで、足のアーチ(着地時の衝撃を吸収する凸型構造)が崩れます。すると元来アーチが担っている、衝撃を吸収したり、分散したりする能力が失われてしまいます。

浮き指をきっかけに足もとが崩れた状態になると、足の一部に負担がかかり、ウオノメタコが発生。負担が長期にわたると、外反母趾内反小趾など、指が変形して痛みます。

さらに、足もとの不安定さを足より上の体、すなわち上半身でカバーしようとして、体全体にゆがみが生じます。そうして、足首やひざ、股関節、腰、肩・首などに負担がかかり、痛んだりこったりする症状が現れるのです。

足にトラブルを抱えている人や、体のどこかに痛みやコリの症状がある人は、一度、浮き指かどうかチェックすることをお勧めします。

浮指のチェック法

では、浮き指をチェックする簡単な方法を紹介しましょう。一人で行うのは難しいため、必ずペアで行ってください。用意する物は、名刺や封筒、ハガキなど、コピー用紙より少し厚めの紙だけです。

チェックされる本人は、両足を腰幅に開いて水平な場所に立ち、視線を足もとに落とさないよう顔を正面に向けます。パートナーは用意した紙を、足指と床の間に滑り込ませます。

滑り込ませた紙が足指の腹で止まれば、その指は床に接しており、浮き指ではありません。反対に、つけ根のほうまでスーッと入る指は、浮き指状態になっています。

自分一人でチェックしようとすると、下を向かざるをえず体重が足指にかかり、正確なチェックができません。必ずペアで行い、パートナーに確認してもらいましょう。

この方法は、小さい紙や紙の角を滑り込ませることで、足指を1本ずつチェックすることも可能です。

足の甲を伸ばすと足の骨格が元に戻る

私は患者さんに、治療の効果を維持するためセルフケアを「宿題」として出しています。症状や改善度合いによって、内容は異なりますが、床に足指をついた状態で、足の甲をグーッと押し出す「足の甲のばし」だけは、すべての患者さんにやってもらっています。

私はもともと、足もとが大事だという考えで治療を行っていました。

足裏自体へのアプローチももちろん有効ですが、その場合、足の指や甲、足首にも別途アプローチが必要です。

そこで私は足の甲に注目しました。これまであまり目が行かなかった足の甲に注目したのは、足の甲へアプローチするだけで、足のほかの部分までもが整うからです。

そして、自宅でも簡単にできて続けられる、足の甲へのアプローチ方法として行き着いたのが、「足の甲のばし」だったのです。

足の甲を伸ばすと、足の骨格の配列が元に戻り、筋肉の使い方も改善して足指が自然に使えるようになります。すると、浮き指が改善して、足のアーチも再建されます。

そして、体全体のバランスが良くなり、アーチで着地時の衝撃も吸収できて、足のトラブルや、体の痛みなどの症状が改善してくるのです。

足の甲のばしのやり方は下項のとおりで、とても簡単です。一人でできますし、すき間時間などにも場所を問わずに行えます。ぜひやってみてください。座ってやるのが基本ですが、慣れてきたら立って行ってもよいでしょう。

また、足指や足の甲の痛みがひどい場合は、自分のひじや二の腕を使った方法を試してください。指先の痛みがつらく感じる場合は、床にタオルなどを敷くのもお勧めです。

足の甲のばしのやり方

※1日何回行ってもよい。
※入浴後がより効果を感じやすい。
※つま先に痛みを感じる場合は床にタオルを敷くなどする。

基本的なやり方

画像: 基本的なやり方

❶ イスに浅めに座り、左足の足指を床に立てて着ける。左足の甲を正面に向けて10秒間、グーッと前方へ押し出す。

❷ 左ひざを少し外側に開きぎみにしながら、足の甲を小指(第5趾)側に10秒間、グーッと押し出す。①〜②を逆側の足も同様に行う。

痛みを感じる場合のやり方

画像1: 痛みを感じる場合のやり方

左足を右ひざの上に乗せる。少し前かがみの姿勢になり、右腕のひじや二の腕などを左足の指に引っかけて10秒間伸ばす。

画像2: 痛みを感じる場合のやり方

難しい場合は、手で引っ張ってもよい。逆側の足も同様に行う。

痛みを感じる場合は準備体操でほぐそう

足の甲のばしは、1日何回行ってもかまいません。気づいたら何度でも行いましょう。入浴時や夕食後など、タイミングを決めて習慣づけてもよいでしょう。お勧めのタイミングは入浴後です。体が温まった状態で行うことで、効果を感じやすくなります。

足の甲はふだん、あまり伸ばすことがないので、足の甲のばしを始めたばかりのころは、伸ばしにくかったり、痛みを感じたりするかもしれません。

その際は、足の甲をほぐす準備体操をしてから、足の甲のばしを行いましょう。私がお勧めしているのは「足指まわし」と「にぎにぎ足まわし」です。どちらも足の甲のばしをする前に行ってください。

足指まわし

画像: 足指まわし

❶ イスに座り、左足を右ひざの上に乗せる。

❷ 左手で左の足首を持って固定し、右手で左足の親指(母趾)を引っ張りながら内回りと外回りそれぞれ5回ずつ回す。親指から小指(第5趾)まで行い、逆側の足も同様に行う。

にぎにぎ足まわし

画像: にぎにぎ足まわし

❶ イスに座り、左足を右足のひざの上に乗せ、左足の指の間に右手の指をなるべく奥まで差し込む。

❷ 左手で左足の指のつけ根を持って固定し、右手で足指全体を甲側と足裏側にそれぞれ5秒間反らす。これを5回くり返す。

❸ そのまま、足指全体を内回りと外回りそれぞれ5回ずつ回す。同様に、右手を足の甲の真ん中と、足首に持ち替えて、それぞれ5回ずつ回す。①~③を逆側の足も同様に行う。

痛みや不調の改善・予防につながる

足の甲のばしを続けた患者さんのなかには、外反母趾が痛んでこれまで履けなかった靴が履けるようになった人や、股関節の手術で立ったり歩いたりすることが難しかった人が、2週間ほどで歩くのが楽になったというケースもあります。

また、変形性ひざ関節症で趣味の山登りを諦めていた女性は、「足の甲のばし」で山歩きを再開できたと喜んでいます。さらにはふらつきが改善した人もいます。

ほかにも足底筋膜炎、脊柱管狭窄症、慢性腰痛、椎間板ヘルニア、肩こり、頭痛など、さまざまな症状が改善し、元気な日常生活を取り戻した例は枚挙にいとまがありません。

現代の日本人は、9割に浮き指があるともいわれています。すでに症状のある人はその改善法として、まだ症状はないものの浮き指が見つかった人は体のゆがみの解消法として、足もとを整える足の甲のばしをぜひ試し、続けてください。

画像: この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。

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