解説者のプロフィール

山本浩士(やまもと・ひろし)
漢方鍼灸「和氣香風」鍼灸師・武道家。兵庫県西宮市出身。 幼少より武術修行を始める。師より医武同源の考えを教わり、武術と医術の両立を目指す。兵庫鍼灸専門学校を卒業後、西宮市で「はり灸楊鍼堂」を開業。2017年に居を移し、東京・自由が丘に漢方鍼灸「和氣香風」を開業。鍼灸治療を行う。▼漢方鍼灸「和氣香風」(公式サイト)
週3〜4回作る朝食の定番
私は東京・自由が丘で漢方薬店併設の鍼灸院を営んでいます。患者さんの健康に役立てるよう、鍼灸の技術とともに、食養生の知識も生かしたい。そんな思いで、国際中医師の妻とともに、食についても日々学びを深めています。
さて、そんな私が、朝食の定番として好んでとっているのが「鹹豆漿(シェントウジャン)」です。これは、温めた豆乳に酢を加え、塩味の薬味をのせた、台湾の定番料理。酢の作用で豆乳が豆腐のようにやわらかく固まり、やさしい食感です。
私が鹹豆漿を初めて食べたのは、20年以上前、中国を旅行したときでした。味が想像できず、おそるおそる食べたのですが、とてもおいしかったことを覚えています。
その後、漢方を学ぶ目的もあり、妻とともにしばしば台湾を旅行するようになりました。現地では、屋台などで鹹豆漿を朝食にするのが一般的です。本場の鹹豆漿はほんとうに味わい深く、すっかりはまってしまいました。
2年ほど前からは自分で作って食べるようになり、今では、週3~4日、朝食に鹹豆漿が登場します。私の鹹豆漿の作り方は、次のとおりです。
❶豆乳200mlを沸騰直前まで温める。
❷器に酢小さじ2としょうゆ小さじ1を入れ、具材(塩気のある物)を刻んで加える。
❸器に豆乳を一気に注ぎ入れる。好みで薬味をのせ、ラー油を回しかける。
ポイントは、無調整豆乳を使うこと。調整豆乳だと固まりにくいのです。また、重要なのは、沸騰させないことです。沸騰させると熱で豆乳が凝固するので、食感が悪くなります。
酢の種類は米酢、黒酢のほか、ワインビネガーもお勧めです。さわやかでツンとしないので、よりやさしい味に仕上がります。
我が家では、具材として漬物やザーサイを入れています。薬味にはミョウガやシソをのせるのがお気に入りです。また、ラー油をかけると味がピリッと引き締まって、さらにおいしく感じられます。

シソとミョウガをのせた山本先生の鹹豆漿
乾燥肌や便秘、胃の疲れ、更年期障害に
さてここからは、漢方の食養生の観点から鹹豆漿の健康効果についてお話ししましょう。
まず、酢には血液循環をよくする作用のほか、過剰な発汗や下痢を止め、乾燥を防ぐ「収斂(しゅうれん)」という作用があります。
収斂には、「上がろうとする物を抑えて下げる」という意味もあり、イライラや高血圧などの症状を鎮めてくれます。更年期のホットフラッシュ(ほてり、のぼせ)にも効果が期待できるでしょう。
この収斂作用は、現代の栄養学の観点からも説明ができます。
酢は体の中でクエン酸に変化します。このクエン酸には抗酸化作用があり、筋肉疲労を回復させたり、神経の興奮やイライラを鎮めたりします。まさに収斂作用です。
一方、豆乳の原料である大豆は、胃腸の機能を整えて消化を助ける、「健脾(けんぴ)」の作用があることで知られています。
さらに体の疲れを回復させたり、排尿を促したりする作用のほか、血流をよくする効果もあります。
豆乳の場合、大豆の作用に、「潤燥(じゅんそう)」「生津(せいしん)」という、渇きや潤いに関連する作用が加わります。
これは、肌を潤す作用なので、乾燥肌や肌荒れに悩むかたにぴったりです。また、豆乳は、肌だけでなく、肺・気管支も潤し、乾燥から守ってくれます。
こうして体全体が潤うことで、便がやわらかくなり、お通じがつきやすくなるとも考えられます。併せてセキを抑え、タンを消す作用や、体力を補う作用もあるのです。
このように、酢と豆乳は、体を整え、健康を維持するための作用をそれぞれたくさん持っています。これらが組み合わさった鹹豆漿は、乾燥肌、肌荒れ、便秘、呼吸器の疾患、胃の疲れ、高血圧、更年期障害に悩むかたに特にお勧めできます。
私自身の実感としては、鹹豆漿を食べると、体がポカポカして、汗をかき、代謝がよくなります。食べた直後は満腹感がありますが、お昼になるとまたちゃんとおなかがすくので、消化のよさも感じます。
鹹豆漿は妻も食べていますが、「肌が潤い、お通じがやわらかくなった」と感じているようです。
特に、これからの季節は空気が乾き、肌やのど、肺が乾燥します。それを潤すためにも、鹹豆漿を食べることをお勧めしたいと思います。
[別記事:酢豆乳で免疫アップ!高血圧、糖尿病を撃退→]

この記事は『壮快』2020年12月号に掲載されています。
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